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スウィートカース(Ⅵ):流星観測・井踊静良の結果往来  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「点滅」
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「点滅」(1)

 赤務市あかむし美須賀みすか大学付属高校……


 放課後の裏山。


 殴られて転んだ二合恵留ふたあいめぐるのみぞおちを、追い打ちの蹴りがえぐった。思わず吐き戻した消化中の昼食が、学生服を汚す。


 嘔吐に咳き込むメグルを囲むのは、こちらも同じ制服姿の五人組だ。そのだらしなく着崩された制服に、雑に染められた髪の毛、顔中に光るピアス。あちこちからはタバコの煙まで立ちのぼっている。


 彼ら不良グループに目をつけられたのが運の尽きだった。反抗的な態度をとったということで、メグルはストレス発散の材料にされているわけだ。


 メグルにつばを吐きかけ、リーダー格のシンゴはうなった。


「もいっぺん言ってみろ、二合ふたあいよォ? あァ?」


 唇をぬぐいながら、メグルは落ち着き払った態度で答えた。


「おまえなんか小物だ、って言ったんだ。消えた伊捨いすて苛野いらのは、おまえらの百倍はやばかったぞ?」


「俺に仕切りができてないっつーのか!?」


 メグルの頭を足で踏みつけ、シンゴはわめいた。


「よォく覚えとけ! 苛野カシラの後釜は俺だ!」


 靴の裏からシンゴを見返しながら、メグルは苦しげにだがあざ笑った。


「弱い犬ほど……よく吠える」


「うるせえ!」


 サッカーボールのように蹴られたメグルの口から、血しぶきが飛び散った。


「生意気なこいつに思い知らせる!」


 血走った瞳で、シンゴは仲間たちに目配せした。


「カネや安い腕時計を取り上げるだけじゃねえ。服も脱がせ。パンツまでぜんぶだ」


 不良どもは好奇に色めきだった。


「ひゃっは! マッパのまま街を歩いてもらうってわけだな!」


「こいつは大だぜ! 心の傷!」


「やっちまえ!」


 獲物を見つけたピラニアのように、不良たちはメグルに群がった。


 その押し合いへし合いからすこし離れた場所……


 だれにも見えない樹木の裏で、嘆かわしげに溜め息をついた者がいる。


 制服のスカート姿の彼女は、井踊静良いおどせら


 セラは心の中で独りごちた。


(先生を呼びに行くヒマはなさそうだね……しかたない、やるか)


 胸の前で手を組むと、セラは目をつむって念じた。


(彼を助けて、お星さま)


「痛で!?」


 悲鳴をあげたのは、不良のひとりだった。


 どこからともなく飛んできた石ころが、突如、彼の頭を直撃したのだ。


 頭を押さえて顔をしかめる仲間を目にし、シンゴはあたりを見渡した。


「だれだ!?」


 すうっと肺をふくらませると、セラは木陰から大声を発した。


「先生がきたぞ! 逃げろ!」


「ひゃなッ!?」「うかィっ!?」「マジかッ!?」


 口々に驚きを表現するや、不良たちは雪だるま式に重なって逃げだした。


 残されたメグルに駆け寄ったのは、セラだ。用心深くあたりを確認しながら、なにが起こったか理解しかねるメグルへうながす。


「危ないところだったね。さ、逃げるよ」


「おまえは……井踊いおど? おまえが助けてくれたのか?」


「話はあと。つかまって」


 セラに肩を貸され、メグルはその場をあとにした。

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