39:未来の話
「……うん」
彼がどのような選択をしたとしても、私はそれを受け入れようと考えていた。
伝えたいと思っていたことは、すべて怜央くんに伝えることができたのだから。
誰に引き離されるのでもない。この恋を終わらせられるとしたら、怜央くんの言葉だけ。
「うんって、そこは『何で?』とか『ヤダ』って言うトコじゃねーの?」
だというのに、怜央くんはどうしてだか不満そうに口先を尖らせて見せる。
私にワガママを要求しているのに、彼の方がワガママを言っているような構図だ。
「だって、怜央くんがそう判断したことだし……」
「ダメだ……オレ言ったよな、凛さんのこと独り占めにしたいって」
その姿はまるで、お気に入りのオモチャを取り上げられて大層ご不満な大型犬のようだ。
「両想いだってわかったんだから、凛さんのこと手放すつもりない」
「え……でも」
「恋人にはなれねえ。……『今は』、な」
言葉足らずだと悟ったのだろう。怜央くんは強調するように、そう言葉を付け足したのだ。
「リューさんには恩があるし、オレの親代わりで、あの人の気持ちを裏切るような真似はできねえ」
「うん、わかるよ」
リューさんが怜央くんのことを大切に想っているように、怜央くんもまたリューさんのことが大切なのだ。
二人の間にはきっと、他人が入り込むことのできない強い絆がある。
「だから、まずは高校卒業して就職する。凛さんとの関係は、それから進めていきたいと思ってる。……それが、オレなりのケジメってやつ」
やっぱり、怜央くんは狭い世界だけで生きている子どもなどではない。リューさんの想い、私への気持ち。
それらをすべて抱えて、自分なりの結論を導き出したのだ。
「女の人にとって、二年がスゲーでかいってことも承知してる。とんでもねえワガママ言ってんのも理解してる。けど、その上で言う。ハタチになったら迎えに行くから、オレのこと待っててほしい」
冷静に考えてみれば、こんな告白を真面目に受け入れる人間なんてほとんどいないのだろう。
相手は18歳の若者で、これからもっと広い世界を知っていくことになる。二年のうちに、気持ちは変化するかもしれない。
……だけど、それでも良かった。
「うん。……待ってる」
こんなにも幸せなワガママを、聞かないという選択肢は存在していなかった。
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