26:最高の親友
『ねえ、写真無いの?』
「写真?」
『そう! 凛が好きになった子、どんなイケメンなのか見たいし!』
「別に顔で好きになったわけじゃないけど……写真は無いよ」
『うそ、一枚くらいあるでしょ? デートしたんだし。消しちゃったとか?』
「ホントに無いよ。写真なんて普段撮らないから、そんな発想無かったし。向こうからも言われなかったし」
雪乃は不満そうな顔をしているけれど、無いものは無いのだ。
そんな風に言われて初めて、一枚くらい撮っておけば良かったかもしれないと思うくらいで。
『……大事にされてたんだ』
「え?」
ぽつりと落とされた雪乃の言葉に、その意味がわからないまま私は画面の中の彼女を見つめる。
『年頃の男の子だったらさ、好きな子の写真なんて欲しいもんでしょ』
「どうかな、人によるんじゃ」
『そんなストレートに感情ぶつけてくるくらいだし、きっとそう。だけどさ、迷惑が掛かると思ってたんじゃないのかな』
「迷惑?」
雪乃は何を言わんとしているのだろうか?
何だか嬉しそうな様子の彼女が、何を考えているのか私にはわからない。
『自分は未成年で、何かあった時に責任を負うのは凛の方。だから、写真とかそういうのは、残さないように気を付けてたんじゃないかなって』
「そんなこと……」
そこまで怜央くんが考えていたとは思えない。
そう否定を返そうと思ったのに、私の脳裏を過ぎったのはあの日の彼の言葉だった。
『うん。……うん、いいよ。わかってる』
あの時は自分の気持ちで精一杯だったので、彼がどう思っているかまで気が回らなかったのだ。
だけど、泣き出した私の言葉を彼はその言葉通り、『わかっている』ものとして受け止めてくれた。
もしかしたら怜央くんは、私の迷惑になることを理解していて、それ以上の言葉を求めなかったのだろうか?
「い、一緒に撮るのが恥ずかしかったとか……ほら、やっぱり見た目の年齢差は誤魔化せないし」
『バカ。凛が一番よくわかってるんでしょ? 一緒に撮るのが恥ずかしいと思う相手と、手なんか繋がないよ』
笑ってくれたら、きっとすっきりするのだろうと思っていたのに。
そうであってくれたらいいと、私が心の奥底で願っていたことを、雪乃が肯定したりなんかするから。溢れてしまう涙を止める手段が無くなってしまう。
彼の気持ちを確かめる術は、もう無いのに。
『私は一応親って立場でもあるから、手放しで凛の恋を応援してあげることはできないよ』
「うん、わかってる。それが当然だと思う」
終わらせた恋なのだから、もう応援される必要だってないのだけど。
『だけどさ、ちょっとだけ……嬉しかったんだよね』
今日の雪乃は、私が予想もしないようなことばかりを言う。
困ったような笑顔の彼女は、頬杖をついて私のことを見つめている。
『ずっと心配してたから。凛ってバカ正直でしょ? 自分で正しいって思ったこと、曲げずにいつも貫いててさ』
「バカ正直って……言い方」
『そんな風だから、嫌な目に遭うこともあったりして……でも、それが凛のいいところでもあるから。そんな凛のことを理解してくれる人が現れればいいって思ってた』
(……知らなかった。雪乃が、私のことをそんな風に想ってくれていたなんて)
『だから、電車で助けてくれた日にいつもと違う凛を見て……やっとかって思ったの。やっと現れたかって』
あの日、彼女に『意外だ』と言われた行動は、間違いなく怜央くんがいたからこそのものだった。
事情なんて何も話していない状態だったというのに、雪乃はその変化を感じ取ってくれていたのか。
『応援はできない。だけど、私は味方だよ。凛』
とても苦しい恋をしたけれど、私にはこんなにも最高の親友がいてくれる。
その事実だけで、私にとってはもったいなくらいの『良いこと』だ。
「……ありがとう、雪乃」
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