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10:初デート


(ちょっと、早く着きすぎてしまったかもしれない……)


 待ち合わせの駅前に到着した私は、スマホで時間を確認して項垂れる。

 怜央くんとの約束だからというわけではなくて、人との待ち合わせにおいて十分前集合が染み付いていた。

 その上で緊張もあったせいなのか、予定していたよりもずっと早くに家を出てしまったのだ。お陰で、今は待ち合わせの時間よりも三十分近く早い。明らかに早すぎる。


(まあ、待たせるよりはいいか。どこかで少し時間潰して……)


 待ち合わせ先に指定されたのは、先日買い物をしたショッピングモールのある場所よりも、少し先にある駅だ。

 高層ビルが建ち並んでいて、軽く見回しただけでも数えきれないほど色々な店がある。


 ここでなら時間を潰すのは難しいことではない。そう思っていたのだけれど。


「え……何で……」


「あれ、オネーサン! 早いじゃん、どうしたの?」


 目印としてわかりやすいのだろう。待ち合わせをする人が集う時計台の下に、派手な金髪頭を見つけた。

 私は思わずスマホと時計台の時刻を確認したのだが、どちらも同じ時刻を示している。


「怜央くんこそ、何でもういるの……?」


「何でって、オレが誘ったのに待たせちゃ悪いし。それに楽しみだったから、早くに目ェ覚めちゃったんだよね」


 白いシャツと黒のジャケット、タイトなスキニージーンズ。

 少しだけ照れたような顔をして笑う怜央くんは、先日よりもちょっと大人びた格好をしているように見える。


(脚、長いなあ)


 この間は少しダボついたジーンズを穿いていたからだろうか?今日は怜央くんのスタイルの良さがより際立っているような気がした。


「……なに? そんな見つめて」


「えっ、いや、そういう格好も似合うんだなあって思って」


「マジ? やった、オネーサンに褒められた。つーかさ、オネーサンもスゲーいいよ」


 私の言葉に喜んでくれる怜央くんは、私の足元へ落とした視線をゆっくりと持ち上げていく。


「そのスカート穿いてきてくれて嬉しい。やっぱ似合うし、可愛い」


「それは……どうも、ありがとう」


「髪型も、アップにしてんの超イイ」


 普段はファッションを褒められることなんて無いので、どう反応すべきかわからずに目が泳いでしまう。

 スカートを買わせた手前、『やっぱり似合わないね』なんて言うことはできないだろうが。


「と、とりあえず行こ! パンケーキ食べるんでしょ!」


 このまま褒め言葉を浴び続けるのは心臓に悪い気がして、私は今日の目的を思い出してそそくさと歩き出す。

 けれど、そんな私の腕を怜央くんが掴んで引き寄せてきた。


「えっ……!? 何、どうしたの……?」


「どうしたのって、オネーサンがどうしたの」


「え?」


「パンケーキ、そっちじゃなくてコッチ」


 そう言って彼が指差したのは、私が向かおうと歩き出したのとは真逆の方向だ。

 恥ずかしさに顔が熱くなるけれど、怜央くんは楽しそうに笑いながら私を先導してくれる。


「場所言ってなかったもんね。オレが店までご案内しまーす」


「……お願いシマス」


 方角はわかったのだから着いていけばいいだけだというのに。店に着くまで、私の腕を引く大きな手が離れることはなかった。


「オネーサン、どれにする?」


「う~ん、これは迷うねえ」


 駅から少し歩いて到着したパンケーキ専門店は、いかにも女子ウケしそうなファンシーな外観をしていた。

 壁沿いにはすでに長蛇の列ができていて、これは長期戦になるぞと覚悟をしたのだけれど。


『すんません、二人で予約してる春海です。ちょい早く着いちゃったんだけどいいスか?』


 入り口で順番待ちの名簿に目を通している店員さんに、怜央くんはそう声を掛けたのだ。まさか予約をしてくれているなんて思いもしなかった。

 そうして列を尻目にスムーズに案内された私たちは、壁際の席に座ってメニューと睨めっこをしている。


「季節限定のやつはマロンパンケーキなんだね。けど、一番人気の苺のやつも美味しそう」


「あ、それオレも気になってた。じゃあさ、半分ずつにする?」


「え、いいの?」


「そりゃあ、せっかく二人で来てんだから両方食える方がお得じゃん。すんませーん!」


 どうやら、同じところで怜央くんも悩んでいたらしい。

 二種類のパンケーキとドリンクを注文してから、それらが届くまで私たちは暫しのお喋りを楽しむことにする。


「怜央くんてさ、どんなバイトしてるの?」


「オレ? あ~、接客かな。人と喋るの好きなんだよね」


「何だかわかる気がする」


 書店やコンビニというよりも、カフェなどのオシャレな店で働く姿の方が想像しやすいかもしれない。

 フロアを歩き回る店員さんの姿を横目に、彼もこんな風なのだろうかと考える。


「パソコン使ってるって話してたし、オネーサンは事務? 営業って感じじゃねーよな」


「ハハ、当たり。こう見えて一応、仕事はできる方なんだよ?」


「わかるよ。オネーサン真面目そうだし、一生懸命仕事してるトコ想像できる」


「そう……かな」


 確かに、昔から真面目に見られることは多かった。

 実際何事にも真面目に取り組んできたし、大抵のことは自分一人でどうにかできると思っている。


「オレのLIMEにも律儀に返信してくれるし?」


「それは、送られてきたら送り返すものでしょ」


「そうでもないって。オレのダチとか知り合いとか、既読スルーする奴も結構多いぜ?」


 それは単純に、そうしても問題が無い関係性を築けているということなのではないだろうか?


「じゃあ……私もそうした方がいいかな?」


 言われてみれば、確かにすべてのメッセージに律儀に返信をしすぎていたかもしれない。

 本当は適当なところで会話を終わらせようとしていたのに、私がそうさせていなかったとしたら。


「何で? オネーサンはそのままでいいよ」


 けれど、私の心配はすぐに杞憂へと変わる。


「返信貰えんの嬉しいし。既読スルーだとそこで終わっちまうけど、返信があったらその分まだ話せるじゃん」


「迷惑になってないならいいけど」


「迷惑とか思うはずねーし。オヤスミ言いたくねーなって、いっつも思ってる」


 照れ臭そうに笑う怜央くんの感情表現は、どこまでストレートなのだろうかと感心する。

 連絡先を交換してからまだ一週間ほどではあるけれど、私だって眠るのが惜しいなんて思うのは久々なのだ。


「……オネーサンってさ、話してるとどっか遠慮がちだよな。緊張してる?」


「え、そうかな? そんなことないと思うけど……元々こんなものだよ」


 突然真っ直ぐに瞳を見つめながらそんなことを言われて、私は挙動不審になってしまう。

 彼の目の色は納得していないことを物語っていて、どうしたものかと思っていると。


「お待たせしましたー! 季節のパンケーキと、ストロベリーパンケーキです」


 料理を運んできた女性店員の声に遮られて、私たちは必然的に会話を中断することになった。


Next→「11:濡れ衣」

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