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私達に棺は必要ない  作者: もちもち物質
第一章:反逆【Perversa terra】
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孤独は昔の話*2

 そうして、翌朝。

「おはようございます、アレットです!」

 アレットはいつも通り、人間達の住処に訪れた。

「おはよう、アレット。今日も開拓地だが、いいか?」

「勿論!どこへだって運びますよ!」

「ははは。気合入ってるなあ、おい!」

「そりゃ、ね。魔物の姫の公開処刑、楽しみですから。警備のお仕事に潜り込めるように、推薦が貰えるくらい一生懸命働かなきゃ!」

 アレットは可憐な笑顔を浮かべて、あくまでも快活に話す。人間達は、このようにアレットが張り切っている姿を好ましく思っているらしい。如何にも機嫌よく笑って、アレットに厩の鍵を渡してきた。

 いつも通り、アレットは厩に入り、パクスのところへ行ってパクスの鎖を厩から外し、彼を荷馬車に繋ぎ、荷馬車を牽かせて王都を出る。人間達からの上機嫌な挨拶には愛想よく応え、魔物達からの冷たい視線は見ないふりをして。




「っていうことなの、パクス」

 そうして王都を少し離れたところで、アレットはパクスに昨夜のことを教えてやった。

「わあ!すごい!すごいですよ、先輩!隊長も、『姫君の盾』も居るなんて!」

 想像していた通り、パクスはぶんぶんと尻尾を振って喜んだ。そんな後輩の様子を見て、アレットはくすくす笑う。

「まあ、それでもたった4人だけどね」

「でも4人ですよ!昨日までの倍じゃないですか!倍!」

 ……はしゃぐパクスの言葉を聞いて、アレットはふと、『そういえばガーディウムも倍だって喜んでたなあ』と思い出す。あれでいて、案外、ガーディウムとパクスは似たところがあるのかもしれない。

「あー、でも俺、緊張するなあ!姫君の盾、人狼ガーディウム……どんなお方なんだろう!」

「ええとね、多分、パクスと気が合うと思う」

「えええ!?本当ですか!?本当ですか!?」

 尻尾をより激しくぶんぶん振りつつ喜ぶパクスを見て、アレットは改めて、思う。

 ……ガーディウムであれ誰であれ、このパクスを見て無碍にするようなことはないだろう、と。




 開拓地へ到着したアレットは荷物を運ぶ傍ら、そこの人間達にそれとなく聞いてみた。『銃が支給されるようなことはないか』と。一応、理由として『最近、人間も魔物も襲ってくるので』と言ってみたが、そんなことを言わずともアレットが疑われることは無かっただろう。

 尤も、人間からの答えは『こっちにはそういう話はない』というようなものだったが。どうやら人間達はやはり、魔物の反乱を恐れているようだ。銃を下手に出回らせないのも、人間の戦力の増強より魔物の戦力の抑制を意図してのものと思われる。

 今はとにかく、銃の実物に触れることが目標だ。仕組みが分かれば万々歳。そうでなくとも、細工を施す機会を得ないことにはどうしようもない。

 アレットは今後もあちこちに荷運びの仕事で出向く機会がある。それを生かして、各地の情報を地道に集めていくしかないだろう。




 それからアレット達は王都へ戻り……その途中で、少々寄り道した。

「あれ?先輩。寄り道ですか?」

「うん」

「あれ?あれ?なんか、いい匂いしますね。腹減ったなー」

 パクスが首を傾げつつ尻尾をぱたぱたさせるの横目に、アレットは……ソルと昨夜打ち合わせした場所で、目的のものを見つけた。

「あったあった」

 ……誰かに先に包みを解かれていたらすぐ分かるよう、少々特殊な結び方をしてある枯草の紐はそのままだ。アレットは安心して紐を解き、大きな葉で包まれたそれを開き……焼かれた肉を取り出した。

「うわあー!肉だ!なんで肉がこんな所に!?」

「はい、どうぞ」

 そしてアレットは笑顔で、肉をパクスへと渡した。

「えっ!?えっ!?」

「ソルから差し入れ。昨夜会った時に、こうしておいて、ってお願いしたんだ。私は昨夜たっぷり食べてきたから、それは全部パクスの分」

 ……その時のパクスの喜びは、凄まじいものであった。先輩、隊長、ありがとう!と感涙に咽ぶパクスを見てなんとも暖かい気持ちになりながら、アレットはまた再び、街道へと荷馬車を戻す。

 パクスも、戦士として姫の救出のために戦わなければならない。ならばしっかりと食べ物を得て、肉体が衰えないようにしておかなければならないのだ。

 ……という建前はさて置き、ひとまず、可愛い後輩が喜ぶ様子を見てアレットは満足するのであった。




 そうして王都へ戻ったアレットは、人間といつも以上に会話しつつさりげなく情報を探り、荷運びの予定をしっかりと確保し……そして、パクスを厩へ戻す。

「じゃあ、また明日」

「はい!おやすみなさい、先輩!」

 挨拶を交わしながら、アレットはパクスの鎖を厩へと繋ぐ。

 ……いつも、この瞬間が嫌だった。大切な仲間を鎖で繋ぐ度、アレットは自らの不甲斐無さを感じる。パクスはそれを気遣わせないように、努めて明るく振舞っているが……。

「……けっ。やっぱり蝙蝠は蝙蝠だな」

 全ての魔物が、パクスのように接してくれるわけではない。

 パクスの隣に繋がれている魔物から投げかけられた言葉と冷たい視線に、アレットはそっと、向き直る。

「魔物を鎖で繋いでおいて、自分は悠々自適に暮らしてやがるとは」

 何かを言ってやりたいような気持ちはあれども、それを実際に言うことはない。彼らに手を差し伸べる余裕も、彼らを救い出す力も無いのだから。

 そして事実、アレットの暮らしはここの魔物と比べれば格段に自由だ。……自由だからといって楽だというわけではないが。だが、アレットは負い目を感じてもいる。

「お前なんか魔物じゃない。……ほら、さっさと人間に媚びに行ったらどうだ。蝙蝠ってのは人間なんだろ?」

 アレットを憎々し気に睨む目も。アレットを嘲る言葉も。跳ね除けるには、アレットは少々疲れすぎている。


 ……だが。

「おい!お前、今なんつった!?」

 じゃら、と鎖が鳴る。激高したパクスが、隣の魔物へと襲い掛かろうとしたからである。パクスは牙を剥いて、届きさえするなら今にも相手に噛みつかんばかりの勢いであった。……だが、パクスを繋ぎとめる鎖が、それを許さない。

「謝れ!先輩に謝れよ!先輩は、先輩はなあ!俺達の未来のために働いてるんだぞ!お前なんかよりよっぽど魔物のことを思ってんだよ!」

 アレットは、このように怒り狂うパクスを久しぶりに見た。それこそ、人間との戦い以来である。

 ……久しぶりに見たなあ、と、アレットは何やら、複雑な気持ちになった。嬉しいような、申し訳ないような。そんな。

「先輩がどういう気持ちで……!」

「パクス」

 だが、アレットが尚も怒るパクスの背に手を置くと、パクスははっとしたようになり、びんと張っていた鎖が緩む。

 鎖を引き千切らんとしていたパクスは徐々に体の力を抜き、やがて、じゃら、と鎖を大きく弛ませ、へにょり、と耳と尻尾を垂れさせた。

「……ごめんね。お騒がせしました」

 アレットは大人しくなったパクスの背を軽く撫でながら、隣の魔物にそう言う。彼もまた、パクスの激昂ぶりを見て多少頭が冷えたらしい。苦々しい顔をふいと背けるだけで、先程のように侮辱してくるでもなく、じっとしていた。

「ありがと、パクス。また明日」

 それから、項垂れているパクスにそう囁いて、アレットは厩を出た。

 ……少々気疲れしたが、アレットの仕事はまだ終わらない。よし、と気合を入れて、アレットは人間達の住処へと足を踏み入れた。




「おい、大丈夫かアレット。なんか厩が騒がしかったけどよ」

「ああ、大丈夫ですよ。なんか……魔物達が喧嘩してましたけど。まあ、大人しくさせたので」

 アレットを案じる人間達に笑ってそう答えて、アレットは建物に入ってすぐの壁に貼ってある予定表に目を通す。

 ……そこには、荷運びの仕事の予定が書き込んである。王都を通る荷物の予定くらいしか書いてはいないが、それでも十分に情報源となる。例えば……。

「すみません。この辺りの予定、少ないですけれど……何かあるんですか?」

 予定表の一角。姫の公開処刑の数日前。そこだけ、予定が妙にまばらになっている。

「あー、そこは未定、ってことらしい。物資だの人だの運ぶことになりそうだから荷馬車を空けとけ、ってお上からの命令だ」

「成程。じゃあ、仕事がなくなるわけじゃなさそうですね」

 アレットはいかにも自分の働き口の心配をしているような素振りでそう言うと、更に予定表を観察した。

 ……荷運びの予定がまばらになる直前、南の町の方へ行ったきり、王都へ帰ってこない荷馬車の予定が一件、入っている。ということは、南の町で何らかの荷物を積み込むことは決定しているのだろう。具体的にその荷物が何なのかは『未定』ということらしいが……。

 大方、予想は付く。人間か、銃か。そのどちらかだ。


「うーん、できるだけ予定が立ってるところにお仕事、入れてほしいな……ねえ、私、ここに入れて頂けませんか?」

 アレットは人間にそう、願い出る。……人間としても、特にアレットの願い出を跳ねのける理由はない。ましてや、可憐な美少女が『お願い!』と懐っこく頼み込んできているとなれば、尚更だ。

「わーったわーった。しょうがねえなあ。じゃ、アレット。この日の荷馬車はお前に任せるか。ただ、帰りの予定は立ってねえぞ?南で何か積んで帰ってくるんだろうが……」

「やった!それでもいいですよ!ありがとうございます!」

 南の町との荷物のやりとりを行えば、何らかの収穫は得られるだろう。銃を運ぶのならば細工し放題であり、人間の兵士を運ぶのであれば……それはそれで、いくらでもやりようがある。

 人間達は、喜ぶアレットを見て表情を綻ばせているが……その表情をそう遠くなく絶望で塗り替えてやろうと、アレットは心の内で思うのだった。




 翌日。

 アレットはまた、荷運びのために働いていた。仕事に対して意欲的な様子を人間達に見せるため、少々長距離の仕事を引き受けた。朝一番に王都を出て、帰りは深夜になるだろう。

 ……そして、アレットと並んで荷馬車を牽くのは、今日も変わらずパクスである。

 パクスはしゅんとして、とぼとぼと、元気のない様子を見せていた。

「パクス、大丈夫?具合が悪いなら休んでて」

「いえ!俺は元気です!」

 アレットが案じると、パクスは途端に耳と尻尾をぴんとさせ、如何にも『元気!』という様子を見せるのだが……数秒後には再び、しおしおと耳と尻尾が垂れ下がってくる。

「……すみません、先輩。昨日は……その、嫌な思いをさせてしまって……」

 ……成程。どうやらパクスは、昨日のやりとりを気にしているらしかった。アレット自身、もう気にしていないようなことであるのに、心優しい後輩はそれを引きずって、今日、元気が無いというのである。

 忠義者だなあ、とアレットはくすくす笑って、ぽん、とパクスの背に手を置いた。

「パクスのせいじゃないよ」

「……それは、わかってますけど」

 パクスは相変わらず萎れた様子でため息を吐いた。

「……あいつ、昨日は大分、鞭打たれたらしいんです。レリンキュア姫の公開処刑について色々言ってた人間に、噛みついたらしくて……」

「ああ……成程。なら立派なものじゃない。姫君への忠誠心を持った魔物がまだ居るってことなんだから、喜んだっていいと思うよ」

 痛む傷とどうしようもない現実を抱えて、あの魔物のあの言葉が生まれたのだろう。気持ちはアレットにもよく分かる。姫が処刑されるというのにどうしようもない気持ちは、つい一昨日までアレットが抱いていたものなのだから。

「分かっては、いるんです。皆、ひどい目にあってて、しょうがない、って。……それでも俺はあいつを許せそうにない」

 パクスも、分かってはいるのだ。皆が苦しい。皆が辛い思いをして、疲れ切っている。アレットへの侮辱も、そんな環境から生まれたものなのだから……パクスも、どこを憎んだらいいのか、もう分からない。

「……まあ、無理に許せなんて、私は言わないけれど」

 パクスがやり場のない気持ちを吐露してくれていることを少々嬉しく思いながら、アレットはふと、遠い所へ思いを馳せる。

「昨日のあれは、お隣の彼のせいでもない。あれはまあ、言ってしまえば人間のせいだし、それに加えて……蝙蝠の魔物達のせい、かもしれない」


「そ、そんなこと!そんなことありませんよ!」

「ありがとう。でも、事実、蝙蝠は人間っぽい見た目の奴が多いからね。それで本当に、人間に紛れて人間の国で生活してる奴だって居るみたいだから……」

 ……元々、蝙蝠の魔物は、魔物の間ではあまり良い評判ではない。人間との戦いが本格化するより前から、そうだった。

 何せ、身軽なのだ。蝙蝠は。それ故に、『信用ならない』と言われることも多い。

 蝙蝠の魔物は奇しくも、人間に近しい容姿をしている者が多いのである。人間を憎む魔物達からしてみれば、愉快なことではないだろう。ましてや、その容姿を生かして人間側につく蝙蝠も居るというのだから、最早これは仕方のないことなのかもしれない。

 ……だから、アレットは孤独を知っている。

 戦士としての能力だけで王城の兵士の登用試験に合格したものの、誰かと言葉を交わすでもなく、誰かと共に過ごすでもなく。アレットと接することを望む者はおらず、自分の名が囁かれるのは陰口の場だけ。そんな、砂を噛むような日々をアレットはよく知っている。

 知っているからこそ……アレットは、『変わり者』の魔物達のことを、心の底から大切に思っている。

「……まあ、本当に蝙蝠だからなあ、私。何でもなく接してくれる皆の方が変わり者なんだと思ってるけど」

 蝙蝠であるにもかかわらずアレットの能力を買って、隊員に、と引き抜いてくれたソル。仲間として扱ってくれた王都警備隊の皆。そして、王城勤めを始めてすぐ、孤独に生活していたアレットを気遣って、食堂の食事の椀を手渡してくれたフローレン。

 彼らがアレットにとって大切であるのは、共に過ごした時間とその経験があるからであり……同時に、アレットが孤独を知る者だからなのかもしれない。

 孤独を知るからこそ、今、共に進む仲間が在り、思い合いながら生活できることが如何に貴重なことであるかが分かるのだ。

「先輩……」

 パクスが、アレットの顔を不安そうに覗き込む。アレットの話を聞いて、『先輩、やっぱり昨日ので傷ついてしまったんじゃないだろうか』とでも思っているのかもしれない。アレットはそんなパクスに向けて、微笑む。

「大丈夫。今は一人じゃないって、知ってるから」

 傷つかないと言ってしまえば、嘘になるだろう。だが、『傷ついても大丈夫』とは、言っても嘘にならないはずだ。

「地下には守るべき仲間達が居て、外には頼れる隊長も、姫君の盾も居る。……それに、可愛い忠義者の後輩も居ることだし」

「はい!居ますよ!」

 元気が出てきたらしく、耳と尻尾がピンと伸びてきたパクスを見て微笑ましく思いながら、アレットは思い切り伸びをした。

「あーあ。まあ、そういう訳だから……私は大丈夫。ああいうことを言う魔物を恨まなくったっていい。許さなくったっていいけれど、まあ、とにかく私は大丈夫だよ。あなた達が居るから」

 アレットがそう言ってやれば、パクスはいよいよいつもの調子を取り戻してきたらしい。ぴょこぴょこ、と尻尾が左右に揺れ始める。

「……先輩!尻尾!俺の尻尾、触りますか!?」

「うん。ありがとう。……パクスはふわふわだねえ」

 パクスと他愛ないやり取りをして、アレットは只々、ありがたく思った。こうして笑顔を投げかけ合える者が居るから、まだ、アレットは立っていられる。今、アレットを動かす最も大きな力は人間への憎悪であったが……こうした日々を生き抜いていくために必要なのは、きっと、こうした暖かさなのだろう。

「はい!俺はふわふわです!思う存分撫でてください!あっ、腹も触りますか!?」

「いや、パクスのお腹、腹筋でガチガチでふわふわしてないから……」

「ソル先輩は『煉瓦壁!』って喜んでくれましたよ!?」

 ソルの趣味はどうなっているんだろう、などと思いつつ、アレットは荷馬車を牽いていく。

「あっ、じゃあ尻はいかがですか!?腹よりはふわふわですよ!」

 ついでにパクスのこれは趣味じゃないだろうな、などと思いつつ、アレットはやはり、荷馬車を牽いていくのであった。……そして隣のパクスは、すこぶる元気であった。




 それから数時間後、アレットとパクスは東の町へ到着し、そこで荷物を降ろしていた。

 王都から運ばれたものを降ろしたら、次は別の荷物を積み込みにかかる。……すると。

「それから、これだ。ちょっと重いが、大丈夫か?」

「ええ……うわ、重い。でも、なんとかいけそう、ですけれど……」

 アレットは手渡された木箱の重さに、少々慄いた。

 ……その木箱は、それほど大きくなかった。精々、アレットの一抱え程度である。

 だが、重い。まるで、金属でも詰まっているかのようだ。

「これ、中身は何ですか?」

「あー、これな。これはな……」

 人間に聞いてみると、人間は周囲を気にしながら、そっとアレットを手招きする。アレットが寄っていくと、人間はアレットにそっと、耳打ちした。

「『金貨』らしい」

「え、お金なんですか?」

 何とも奇妙な答えに、アレットは首を傾げて尋ね返す。人間は『馬鹿!声が大きいぞ!』と囁いて、それから更に言葉を続けた。

「表向きは『薬』ってことになってる。だが、本当はこの中身は金貨なんだとよ」

「妙ですね。どうしてお金なんか運ぶ必要があるんでしょう」

 人間の国からの仕送り、というのもおかしな話である。この魔物の国において、人間の貨幣がそれほど価値のあるものだとは思えない。無論、給金のやりとりなどはあるが、貨幣があっても物資が無いのが現状だ。折角運ぶのなら、使いどころのあまり無い貨幣より、物資そのものを送った方が効率的なように思える。

 では、何かの代金の支払いだろうか。……それにしても同じことだ。貨幣を使う機会がそれほど無いこの魔物の国に、貨幣で代金を払う理由が分からない。

 ……だが。

 パクスが、ふんふん、と鼻を動かして、首を傾げている。

 それを見たアレットも、荷物を運ぶ傍ら、木箱の中身が金貨であるにしては少々不自然なように感じていた。

 重心が、偏っているのだ。木箱一杯に金貨を詰めるなら、もう少し均衡がとれてよさそうなものだが……。


「くれぐれも気を付けて運べよ!」

「はーい!勿論ですよ!」

 アレットは人間達に愛想よく笑顔で手を振ってやり……そして、思った。

 とりあえず、道中で荷物を暴いてみるより他にない、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信返し返しはくどくなってしまうので、いつもは遠慮しているのですが… 久しぶりに「嘘です!」を頂いて楽しくなりました。笑 連日楽しい更新をありがとうございます。
[気になる点] 重心が、偏っている! これは銃ですね!来ました、チャンス!
[良い点] 犬の性格の解像度がやたら高くていいですね。あんな感じの犬いるいる。あほでかわいくてなにかってーと尻尾ブンブンの犬。まるでシベリアンハスキーのようだ。 [一言] しばらくふわふわしていたの…
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