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私達に棺は必要ない  作者: もちもち物質
第三章:忠誠と殉難【Aeternum gaudium】
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目覚め*6

「なっ……」

 これに驚いたのは魔物達だけではない。騎士団長もまた、酷く驚いていた。

「おいおいおい、こりゃどういうことだ!?」

 ソルは即座にアレットを足で掴み、天井近くまで逃げおおせる。

「やっぱり魔物と交渉はしてられねえ、ってか!?」

「い、いや、決してそのようなことは……おい!何故突入してきた!?」

 突入してきた人間達は武器を抜いて……魔物達と、騎士団長達。2つの敵へ、刃を向ける。

「……裏切ったのか」

 騎士団長が目を見開いてそう言えば、彼らを率いていた副団長がにやりと笑った。

「ご安心を。勇者様にはあなたの亡骸を見せて『殿下が無謀にも突入を指示したせいで人質は皆死に、そして殿下もまた死んだ』とご説明致します」

「愚かなことを……!」

 戸惑いと絶望の表情を浮かべつつ、騎士団長は当然ながら丸腰である。武器は神殿入り口に置いてきたのだから。

 ……ソルは一瞬、迷う。

 騎士団長をここで死なせるのはあまりにも惜しい。ここで彼が死んだ場合、親勇者派が幅を利かせることは間違いなく、更に、親勇者派が騎士団長を殺したという事実を伝える者が居なくなる。魔物であるソル達が如何に証言したところで、そんなものに信憑性は無いだろう。

 だが、ここで彼を助けようと思うのであれば、それは『騎士団長は魔物に助けられた』という情報を相手に与えることになるのだ。1人でも取り逃がした場合、当然、騎士団長側、反勇者派の立場は悪くなる。

 ソル達は魔物だ。魔物と人間という枠で動かなければならない。だが、人間には反勇者と親勇者の者が居る。そこ2つはまるきり別のものだ。

 ……そこまで考えたソルは、アレットを『取り落とす』ことにした。

 ごく小さな声で『行ってこい』と伝えれば、アレットはこくり、と頷いて落ちていく。

「騎士団長殿!」

 そしてアレットは落下しながら懐のナイフを抜き放ち、騎士団長へと迫る剣を弾いてみせたのだった。




 アレットは騎士団長アシル・グロワールの前へと舞い降りて、彼へと迫っていた副団長の剣をナイフで弾いた。

 およそ人間業ではないだろうが、今はアレットも必死の状況である。火事場の馬鹿力が出た、と主張してもまあ通るだろう、と踏んで、アレットは次の標的へ向けて動く。

 兵士がまた1人剣を振り上げたのを見て、その鳩尾に蹴りを食らわせる。兵士が体勢を崩したなら、懐に潜り込んですかさず喉へとナイフを突き立てた。

 びしゃり、と噴き出した血が宙を舞えば、人間達はそれに怯んだ。その隙にアレットはもう1人、騎士団長の傍にいた兵士の剣を、彼の手首ごと斬り飛ばした。

「おい!人質が逃げたぞ!捕まえろ!」

 ……そして、ここまでアレットが動けば、ソル達が加わる理由ができる。第三勢力としての魔物達は、アレットを奪い返さんとすべく人間達を屠り始める。

 パクスが嬉々として適当な兵士へ襲い掛かってその首の骨を噛み砕けば、ガーディウムが競うように躍り出てパクスへ迫っていた剣を爪で受け止め、振り払い、剣の持ち主を殺しにかかる。ベラトールはしなやかな身のこなしで人間達の間を通り抜けざま、鋭い爪で人間の胸を裂き、肋骨の下の心臓までもを裂いていく。

 そしてソルは、逃げ出そうとしていた親勇者派の兵士達を見つけて神殿の出入り口へと飛ぶ。逃げようとした臆病者共の道を塞ぐように降り立ってやれば、人間達は面白い程に委縮した。

「フローレン!」

「騎士団長殿!ご無事ですか!?」

 アレットが疲れと緊張に満ちた顔で騎士団長を見上げれば、騎士団長は驚きと喜びの表情を浮かべた。

「魔物の拘束が緩みましたので……ふふ、お役に立てましたか?」

「ああ、本当に……お前には何度も助けられるな!」

 騎士団長はアレットの参戦に希望を思い出したらしい。先ほどまでの混乱と絶望はすっかり消え失せて、その瞳には強い意思の光が燃えていた。

「よし……ひとまず、裏切り者を全員捕らえろ!」

 そして、騎士団長がそう号令を掛ければ、兵士達は皆、迷いながらも副団長やその側近達に向けて動いたり、自分達に襲い掛かってくる魔物達に立ち向かったり、と動き出す。

 ……こうして、戦況は混迷を極めることになる。




 騎士団長は誰かが落とした剣を拾い上げ、即座に戦い始めた。果敢か無謀か襲い掛かってきた部下の剣を弾き飛ばし、続く別の攻撃を身を屈めて避け、更にその後ろに居た副団長へと迫る。

 副団長はアレットによって剣を一度弾かれていたが、彼もやはり適当な剣を拾って戦い始めたらしい。後がないだけに、その攻撃は苛烈であった。

 ……その時、ふと、アレットは違和感を覚えた。

 騎士団長が、妙に、強い。

 副団長と鍔迫り合いをしていたかと思えば、すぐさまその剣を押し返し、容赦なく斬りつける。副団長が既のところでそれを避ければ、即座に踏み込んでもう一撃。今度こそ剣を弾き飛ばして、その首筋に剣をまっすぐ突きつける。

 一連の動作は型に嵌ったものであり、柔軟性に欠ける印象を受ける。実戦向きかと言われれば首を傾げてしまうような、そんな動作だ。

 それなのに、妙に強い。それがアレットの中で違和感となり、もやもやと滓のように沈んでいくのだ。

 ……思えば、ソルがアレットを『攫った』時にも、騎士団長は反応が速かった。あれも振り返ってみればやはりおかしな点であったのだが……その時の僅かな引っかかりは、今、大きな違和感へと育っていた。

「さあ、大人しくしてもらおうか。貴様には法廷で証言をしてもらわなければならないからな」

 騎士団長は副団長に剣を突きつけ、周囲の兵士達に命じて彼を拘束させる。……その横でアレットは、違和感の正体を探るべく必死に思考を巡らすのだった。


 そうして魔物と人間達が互いに暴れていると、案外さっさと決着がついてしまった。

 勝者は決まらなかったが、敗者は明確に決まる。そう。副団長達、親勇者派の面々が今回の敗者である。

 逃げ出そうとしたところを魔物達にあっさりと殺され、殺そうとしていた騎士団長や反勇者派の兵士達からは抵抗を受け。そうして彼らは敗者となった。

 ……だが、反勇者派の人間達はともかく、魔物達はここで止まるわけにはいかない。ある程度片が付いたと見たところで……すかさずソルは翼を翻し、アレットへと向かう。

 アレットはソルの気配を感じ取っていたので、敢えて疲労と消耗によってぼんやりしている様子を演出しつつソルを待って……そして。

「きゃあ!」

 がしり、と。ソルに捕まえられて、アレットはひとまず、ほっとするのだった。


「フローレン!?」

 副団長の処理の方に意識が行っていたらしい騎士団長は、アレットがソルによって捕らえられて慌てて振り返るも、遅い。ソルは既に神殿の出口に向かって羽ばたいている。アレットも今度こそぐったりとして、『もう逃げ出す力は残っていません』と存分に表現しつつ、大人しくソルに運ばれていく。

「撤退だ!」

 ソルが叫べば、戦っていた魔物達も慌てて出口へ向かっていく。戦っていたのは皆、動きの速い魔物達ばかり。人間の間を抜けて、或いは人間達を弾き飛ばしながら、出口へと駆けていく。

「おい、人間!確かに、勇者に伝えろ!この神殿に神の力を返せ、と!」

 そしてソルはそう言い残して、神殿を出る。

 ……これで、当初の予定通り。少々殺戮が行き過ぎた感はあるが、人間側の事故によるものだ。仕方がない。

 そう考えて、ソルは……。

「……行かせん!フローレンを、返してもらおう!」

 ……何故か、『目の前に居る』騎士団長を見て、目を瞠った。


 ソルに捕まれてぐったりとしていたアレットもまた、これには流石に目を瞠る。

 騎士団長は確かに、背後に居た。それがどうして、このように目の前へ移動しているのだろうか。

 そして、何より……。

「……魔力?騎士団長が、何故」

 騎士団長は、その体に魔力を纏っていた。

 それはまるで、勇者のように。

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[良い点] 神殿とかで魔力に接してると人間でも魔物化するんですかね? それぞれの勢力図と力の均衡が激動で盛り上がってまいりましたな [一言] 目覚めって言われるとつい、包帯巻いた右腕抑えて「くっ………
[良い点] なるほどね 勇者が量産できれば 勇者単体でも関係ないものね……
[一言] パクスやガーディウムみたいに魔力で身体強化する系だから人間からは魔力持ちとは思われてなかったパターンかな?
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