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転生のおと  作者: 津多 時ロウ
第1章 紙月

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第44話 オレ㉓

 ツチダに1ヶ月以上の滞在とのことで、大家さんとボーネン食堂の店主に3月からのことを話した。二人とも悲しそうな顔をしていたが、同時に励ましてくれた。大家さんに至っては、荷物を置いたままでも良いと言ってくれたが、下手をすれば1年以上滞在することもあることなどを話して、どうにかお断りした。


 当然、マザーにも話したが、「あらそう、行ってらっしゃい。敵を沢山討ち取って武名を上げるのよ!」と、いつも通り物騒なことを言っていた。そんな事態に巻き込まれないように祈るばかりだ。


「体に気を付けることと、毎日のお祈りは忘れないでね」


 一応、聖職者っぽいことも言われた。



 3月1日の朝、いつものように起きて、いつものように井戸からベッケン(たらい)に水を汲んで顔を洗い、いつものように孤児院の水汲み当番の子供、マザー、近所の人達と会話を楽しみ、軽めの朝食をとった後、部屋で革頭巾と鉄兜を除いた防具を着込み、昨晩までに荷造りしておいた背負子にベッケンを被せて背負い、借りていた部屋を出て外から鍵を掛ける。念のため、登録票を身に着けているか再度確認し、いつも通り首からかかっていることを確認すると、共同住宅にある大家さんの部屋をノックして鍵を返し、挨拶をして北東の城門に向かった。


 いざ荷造りをしてみると、家具も食器も調理器具も、服ですら、必要最低限で暮らしていたようで、思った以上に小さくまとめられた。ぐぅぐぅ眠るために買った綿入りの布団だけは、背負子で運ぶにはどうにもかさばりすぎたため、布団屋に引き取ってもらったが、ツチダにも布団屋はあるだろう。


 朝7時の鐘を少し過ぎた頃に出発する乗合馬車に乗り込むと、ちょうど11時の鐘が鳴り始めた頃にツチダに到着した。

 ツチダは古い宿場町だが、規模は小さく、城壁のようなものも、砦のようなものも存在していない。町の範囲も曖昧なようで、町の中心部から少し離れた丘のようなところにも、何ヶ所か家屋の固まりがみられる。

 乗合馬車の停留所付近でも衛兵の姿は見えなかったし、戦略上、この町はあまり重要ではないのだろうな。


 ベッケンを被せた背負子を背負ったまま少し観察した後、中心部からそう離れていないと聞いていた衛兵の詰め所を探した。中心部と思われる広場から、周囲を見渡した限りでは残念ながら見当たらない。


「ベッケンさん、ベッケンさん」


 キョロキョロしていると、しわがれた声が人を呼んでいるのが聞こえた。ベッケンだなんて、変わった名前の人もいたものだと思いながら、ひとまず北西の方にある小道に進もうとしたところ、またあの声が聞こえてきた。


「そこのベッケンの兵隊さん。お前さんのことだよ」


 今度は背後からはっきりと呼び止められた。

 ああ、なるほど。背負子にベッケンを被せたままだったな。ベッケンさんの正体はオレで間違いないな、これは。


「あ、ごめんなさい。オレに何か用ですか?」


 そう言って慎重に振り返ると、見事な白髪の老婆が背中も曲げずに、すぐそばに立っていた。平時とは言え、後ろに誰かいるのにも気が付かないなんて、と思いながらその老婆を少し観察したが、女性にしては珍しく頭巾を被っていないことと背中がピシッとしていること以外は、ごく普通のお婆さんにしか見えない。


「あんまりレディのことをじろじろと見るもんじゃないよ!いやらしいね、まったく!」


「ご、ごめんなさい」


 オレの視線を気付かれてしまったみたいだ。やはり只者とは思えない。ただ、断じてエロい目では見ていないから、そこは否定させてもらおう。心の中で。


「ところで、さっきからうろうろキョロキョロうろうろキョロキョロしてるけど、迷子なのかい?」


「え?何で分かったんですか?」


「そりゃ、あんた、ベッケンなんぞを蓋にした背負子を背負って、如何にも今日町に着きましたという体で広場を右往左往していれば、赤ん坊にだって分かるだろ?」


 そうだった。如何にも今日町に着いて、ベッケンを被せた背負子を背負ったままウロウロしていた只者じゃ無い感じの人は、紛うことなきオレだった。何たる不覚、何たる恥辱。穴があったら叫びたい、いや、入りたい?どっちだったっけ?


 それはさておいて、この矍鑠(かくしゃく)としたご婦人は、町に着いて最初に会話をした人だ。この機会を逃す手はあるまい。


「そうなんですよ。今日からここに衛兵として赴任することになったんですけどね、実は迷子になってしまいまして、困っていたところだったんです。衛兵の詰め所ってどこにあるか分かります?」


「ああ、あっち。あっちだよ。あとは行けば分かるよ」


 お婆さんはそう言って西の方に行く道を指さした。


「ありがとうございます」


「今度は迷子になるんじゃないよ、ベッケンさん」


 ははは、と笑ってお婆さんにお辞儀をして、指差された道を進むと、じきに木の柵で囲まれた広い敷地と、その西側に道に対して直角に建てられた、南北に長い石造りで2階建ての比較的大きな建物を見つけた。近づくと、扉のない門の上に掲げられた板に”衛兵詰め所”と書いてあったから、ここで間違いないだろう。ありがとう、お婆さん。


 門をくぐり、向かって左手の建物の入口を一人で警備していた衛兵に、登録票を見せて事情を説明すると、衛兵長の執務室の場所を言葉少なに教えてくれた。

 教えられたとおりに建物に入ってすぐ右に曲がって廊下を進むと、突き当りに小さく”兵長室”と書かれた板が貼り付けられている部屋があった。


 扉を2回ノックした後、中に聞こえるように大きな声で、傭兵組合のお兄さんに教えて貰った衛兵風の声をかけてみた。


「この度、傭兵組合より派遣されたスヴァンと申します!着任の挨拶に参りました!今、お時間はよろしいでしょうか、衛兵長殿!」



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