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転生のおと  作者: 津多 時ロウ
第1章 紙月
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第38話 オレ⑰

 傭兵3人が揃ったところで行商人さんに断ってから、念のための確認を始める。


「今回の護衛は、通常であれば私が隊長を行なうところ、組合からの指示で後輩が行なうことになっているので、よろしく!」


 紳士がアニキに説明を促すと、アニキは少し間を置いてから話し始めた。


「今回の護衛対象は、行商人1名男性、その荷物、幌馬車と馬車馬1頭だ。赤鉄街道沿いに南下し、ヨシミズまで安全に送り届けるのを使命とする。順調に進んで3日で到着する見込みだ。御者は依頼主が行なう。通常通り2名ずつで護衛し、1名は御者台で前方を警戒、1名は荷台の中から後方を警戒、1名は荷台で休息する。最初は俺とスヴァン、次は先輩とスヴァン、その次は俺と先輩で組んで回していく。ヨシミズの組合で依頼票に蝋印を貰った後は、3名まとまって乗合馬車でイヌイに帰還する。護衛中は組合から支給されたリベリー(お仕着せ布)を着用するように。以上だ。何か質問は?」


「無いです」「無いよ」


 オレと紳士先輩がほとんど同時に返事をすると、アニキから無言でリベリーを手渡された。少々古ぼけてくすんでいるが、赤い生地に傭兵組合の紋章が描かれている。


「このリベリーは赤で目立つだろう?遠目で見ても分かりやすく武装した護衛が付いていると、野盗の連中は襲わないもんなのさ。撃退する以前に襲われなければ万々歳だ」


 アニキが何も説明しなかったためか、紳士先輩が説明してくれた。襲撃されたときのことばかりを考えていたけれど、なるほど、襲われないのが一番良いな。


「初めはお前が前に行け。休憩になったら交代だ」


 いつの間にか革の頭巾と鉄兜を被っていたアニキからの指示で、オレが行商人さんの横に乗ると、待ちかねた馬車がのんびりと動き始めた。大人の男が余裕をもって6人乗れそうな大きな幌馬車だが、この調子なら馬1頭でも問題なさそうだな。



 イヌイから2時間ほど街道を進んだが、行商人さんは食堂に来ているときと比べてほとんど口を開かない。何故だかは分かる。揺れるのだ。

 最近は街道の整備が進んだり、サスペンションという揺れを吸収する装置が登場して、昔よりかなりマシになっているらしいが、それでも車輪が不意に石を踏んでガタンとすることもあるから、舌を噛んでしまわないようにするためにも、迂闊に口を開けられない。

 それでも行商人さんはオレを退屈させまいと、ヨシミズの町の話をしてくれた。


「ヨシミズもね、イヌイと同じように昔から交易の中継拠点として栄えていて、王都に近いこともあって、王族の直轄領なんですよ。区切る川とかが無いからオダ領との境が曖昧なので、境目付近は町や村とその周辺だけが王族の領地になっている感じですね。境目から離れたところ、アシハラ湖から西の海に向かって流れるヨシヅ川と、隣国ラッキから流れるフリューリンク川に挟まれた豊かな土地は、揉めようもなく全て王族直轄ですね。そうそう、ヨシミズの南を流れるヨシヅ川沿いに街道を下ると、王国最大の貿易港があるカネウラという港町に辿り着くんですよ」


「海!海ですか、良いですね。まだ見たことが無いので、オレも一度、海というものを見てみたいです!」


「海は良いですよ。カネウラという町も、とても活気があって良いところですし。年に1,2回は行っているので、いずれ護衛をお願いするかも知れませんね」



 出発から3時間ほどで最初の休憩予定地の集落に着いたので、アニキと前後を入れ替わった。御者台にいるときは、行商人さんが気を利かせて話しかけてくれていたけど、初めての護衛でとても緊張して視界も体も硬くなっているのが自分でも分かった。行商人さんが馬車の点検をしている間に、体を少し動かしてほぐすが、休憩が無ければあのまま御者台で石になっていたかも知れないな。


 その後も休憩を何度か挟みながら何事もなく順調に進み、日が暮れる前には宿泊を予定していた集落に到着できた。集落に到着すると幌馬車を入り口近くの預り所に預け、行商人さんを含めた皆で、宿で夕飯を食べながらしばしの休息と会話を楽しむ。アニキは当番の時間に早いので、食事の後、すぐに宿泊する離れに戻っていった。


 宿は、1階に食堂、2階にいくつかの個室と大部屋のある横長の母屋、それから母屋と直角になるようにほぼ正方形の2つの離れが並び、母屋と離れで囲まれたスペースにも机と椅子が置かれていて、そこでも食事をとれるようになっていた。また、今は火が付いていないが大きめの焚火場もあり、薪は有料だが、自由に使えるそうだ。今夜宿泊する離れはベッドが5台有ったから、護衛をしながら入れ替わりで休むには、大きいかも知れない。


 紳士先輩とオレはその後も暫く行商人さんと翌日の行程も含めて雑談をしていたが、ひとしきり話をして、行商人さんと離れに戻ったところで護衛再開だ。


「スヴァン君、簡単にやり方を確認しよう。ご主人も興味があればご一緒に」


 離れで紳士先輩が少し声を小さくして話し始めた。”ご主人”と呼ばれた行商人さんも興味があったらしく、近くに寄ってきた。


「まず、次の交代は22時過ぎ頃だ。スヴァン君があの後輩を起こして交代する。スヴァン君はそのまま朝の交代までちゃんと寝ること。きちんと休むことはとても大事なことなんだ。その次の交代は明朝6時過ぎ頃で、私と後輩の二人でご主人とスヴァン君を起こして、そのまま食堂に移動して朝食をとる。後は準備ができ次第、出発しよう。明日の出発時の護衛はあの後輩と君だね。私は荷台で眠るお仕事だ。あ、そうそう、夜間の護衛だけど、焚火をしながら離れを見張る当番と幌馬車を見張る当番に別れるよ。幌馬車当番は体が冷えたら離れ当番と交代しよう。はい、スヴァン君、何か質問はあるかな?」


「はい、質問です。この集落には教会の鐘が無いみたいですけど、どうやって交代の時間を確認すれば良いですか?」


「スヴァン君、それはね、」


 今まで黙って聞いていた行商人さんが、オレの質問を聞いたら、ここぞとばかりに元気に話し始める。一応、うっかりした感じで紳士先輩に、良いですか?って事後承諾を得ていたけど。



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