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転生のおと  作者: 津多 時ロウ
第4章 昏天黒地 4.0 スヴァンテ・スヴァンベリ
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4.0.3 還魄器

 シクロとは、スヴァンテ・スヴァンベリの記憶によれば、イビガ・フリーデのメンバーなら誰しもが使える異能である。

 還魄器(げんぱくき)とも言われるそれは、意志の力によって顕現され、ケモノを討ち果たすために振るわれる武器だった。

 この記憶があったことにより、療養中の僕はいっそう混乱したものだったのだが、今ではすっかり当たり前のものとして刻み込まれている。だから、僕は当然のように使えると思っていたのだ。


 けれど僕は今、地下に作られた仄暗い訓練場で焦燥に駆られている。

 理由は簡単だ。

 出ないのだ、シクロが。

 スヴァンテがマルターと名付け、こともなく顕現させていた銃剣は、しかし、いくらイメージしても出てきてはくれなかった。

 記憶の中の彼は、声を出して顕現させていたこともあったが、魔法の呪文のように唱えてみても結果は変わらず、背中を変な汗が流れるだけで、時間を割いてリハビリに付き添ってくれているメンバー、……イビガ・フリーデではケモノと戦う者をヴェヒターと呼んでいるのだったか。そのベテランの女性ヴェヒターに対して、申し訳ないという気持ちが膨らみ、焦りは更に悪化していく。


「スヴァン、いったん()めろ」

「で、でも、エリーヌさん」

「文句でもあるのか?」

「ありま……せん」


 腕組みをして壁に寄りかかっていたエリーヌさんが、成功の気配すら漂わない様子に呆れたのか、有無を言わさぬ声音で止めにかかる。

 誰が見ても悄然とした僕は彼女の横でぐったりと壁にもたれ、ずるずると座りこんでは、暗い天井を仰いだ。

 彼女、エリーヌ・ルブランはスヴァンテの記憶によれば、もうかれこれ二十年はこの世界にいる大ベテランであり、そして口数が少ない。スヴァンテも任務に必要なこと以外は、話したことがないのではないだろうか。

 なぜ、支部長はそのような人物を指名したのか。その長い経験が役に立つだろうということは簡単に思い当たるが、果たして僕はそれをすぐに思い知ることになった。


「偉大な先達によれば、シクロは死をもたらすもののイメージだという。前のシクロを具現化できないのであれば、先日の経験でお前のそれが変わったとも考えられる。……穿て、ペアシン」


 彼女はそう言って、高低の入り混じった二重(ふたえ)の声でシクロを顕現させる。

 仄かに青く光る様々な多面体が空間に踊り、集まった末に手元に現れたのは、何の飾り気も無いライフルだった。やや長いバレルに何を思うのかは分からないが、それがつまり、彼女のイメージなのだ。


 では、僕にとっての死のイメージとはなにか。

 須田半兵衛は、銃による犯罪をニュースで見るたびに心が痛み、自分が被害に遭うことがないようにと怯えていた。

 シュテファンはスモールソードで喉をかき切られた。

 スヴァンは傭兵であるにもかかわらず、スモールソードでただの一度だけヒトを殺し、多様な武器で無数の魔物と動物を狩った。

 コンラートは病に倒れた。

 セルハンは剣とライフルと大砲と、そして魔法で直接的にも間接的にも、沢山のヒトを殺した。


 死をもたらすもののイメージとは何か、改めて自分に問う。

 やがてそれははっきりとしたイメージになり、気付けば僕は、右手に見慣れた細い剣を、左手にはスイングアウト・リボルバーの拳銃を握っていた。


「二種類とは珍しいこともあるものだ。名前は?」


 そう言いながら、エリーヌさんは驚いた様子も見せず、当たり前のように名前を聞いてきた。もちろん、シクロの、だ。

 名前はもう決まっている。僕にぴったりで、それでいて違和感のあるその名は、顕現と同時に頭に流れ、浮かんできたのだ。恐らくヴェヒターにはそれが当たり前なのだろう。当たり前だから、当たり前に聞いたのだ。


「リィンカーネイションです」

「……そうか、良い名だな。絶対に忘れるんじゃないぞ」


 少しの沈黙の後、彼女はそう言った。


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