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転生のおと  作者: 津多 時ロウ
第1章 紙月

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第10話 ボク⑩

「火薬と弾を込める作業が終わったら杖を地面に差し込んで、その上に鉄砲を乗せて下さい。次は右手の指を引き金のところに、右肩に鉄砲のお尻を当てて的を狙ってみてくださいね。

 ……はい、皆さんよくできてますよ。

 それでは一度楽にしてください。

 実際に撃つときは耳栓をしてもらうので、先に流れを説明しますね。

 耳栓をした後、もう1ヶ所に火薬を入れて蓋をしたら、さっきと同じようにして的を狙って下さい。そして、先生が右手を上げたら、引き金を引いて発射してみましょう」


 座学の後、全員で外の訓練場に移動して、鉄砲の試し打ちをした。

 火薬がそれなりに値が張るものだとかで、1人2発しか撃たせてもらえなかったけど、鉄砲というものがどんな武器か分かった気がする。

 ともかく音が大きい。それから当てるのが難しいことや、相手との距離が遠いと十分な威力が出ないことも先生が教えてくれた。

 そのため、集団で相手より出来るだけ近くて有利な位置に移動し、先んじて一斉射撃を行ない、物理的にも精神的にも甚大な被害を与えなければならないのだとか。


「ここまでお話すれば、皆さんにも最近の防具が昔よりも簡素になっている理由が分かったと思います。

 鉄砲の前に甲冑がほぼ無力なことと、昔の甲冑では鉄砲を撃ちづらいこと、敵よりも有利な位置を取るために機動力がより重要視されるようになったこと、これらによって大事な箇所だけ守れるように防具が徐々に簡素化されていったというわけですね」


 先生はさらに続けて、こうも言った。


「けれど、鉄砲も弓矢と同じように無限に撃てるものではありませんし、兵士全員に鉄砲を配備できるお金もありません。昔と同じように剣や槍が活躍する場面もありますから、それぞれの状況に応じた防具を考えることが重要です」


 お金……お金か、いくら強い武器でもお金が沢山ないと配備するのは難しいのか。盲点だったな。



 コン、ゴッ、カン……


 訓練場に木がぶつかり合う小気味いい音が響き渡る。


 訓練用に角の丸い木剣と、持ち手以外は木で作られた小さめの三角盾で、模擬戦を行っている。

 防具と鉄砲の次は盾の授業だ。


 12歳から戦闘訓練があったが、これまで盾は一切使わず、14歳の一度だけ盾の訓練を受ける。

 王家や貴族の紋章にも多く使われている盾だが、その訓練がなぜ一度だけなのかとボクは疑問に思ったが、皆さんが普段目にしている兵士を思い出してください、との先生のお言葉だった。

 護衛につく兵士ですら、荷物の積み込み以外で盾を持っているところを見たことがない。

 つまり、こういうことなのだ。


 盾は甲冑以上に時代遅れ。


 昔、王国建国よりももっと昔は、盾を持って戦う兵士が大勢いるのが当たり前だった。

 ところが、時が流れ全身を覆う甲冑の性能が向上するとともに、徐々に戦場から盾が消えていった。わざわざ盾を持ち歩かなくとも、甲冑だけで十分に体を守れるようになったのだ。

 更に時は流れて防具は簡素化しているが、今度は逆に鉄砲が貫通しないほどの盾となると相当な重量になってしまうことと、尚且つ、機動性を尊ぶ現代の戦場では、重たい盾は移動の妨げになり、やはり手持ちの盾は使われていないのだとか。


 では、なぜ盾の訓練を行うのかというと、戦場で役に立つ可能性のあるものは一通り教えることと、いざとなったら身の回りのものを何でも利用して生き残る柔軟さを身に着けて欲しい、ということだった。



 14歳の訓練も終盤に差し掛かったとき、国王陛下と宰相閣下が視察に来た。

 宰相閣下、つまりボクの伯父は、視察を始める際に軽く挨拶をした。屋敷にいるときと違う、威厳のある顔をしている。


 あ、目が合った。

 顔がふやけた。

 この人が宰相で大丈夫なんだろうか。


 陛下は遠くから生徒の様子を見ていた。

 身長は伯父よりもやや低い程度だから、背が高い部類に入る。やや痩せ型の体形で、顔は理知的な印象を受けた。年齢は髭が無いためか伯父よりも若く見えるが、同じくらいにも見える。


 伯父の挨拶の後、一人呼ばれて国王陛下に挨拶を申し上げたが、その後、


「まだこんなに若いのに、残酷だな……」


 と陛下が伯父にぼそぼそと話していたが、あれは何だったんだろう。




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