✒ 子ギツネの手袋さがし 3
子ギツネは大きくて高く聳え立つ立派な黄金のまつぼっくりの樹を見上げます。
子ギツネには天辺が見えません。
「 ふわぁ〜〜〜。
凄ぉ〜〜く高い樹だねぇ… 」
「 ……坊や、どうやって樹に登るつもりなの? 」
「 …………お母さん…、ボクを人間にして! 」
「 坊や、何を言い出すの? 」
「 子ギツネ坊や、人間に姿を変えてどうするんだい? 」
「 樹に登るんだよ。
ボクには樹を登る事は出来ないよ。
だけど、人間の姿になれたら樹を登れると思うんだ 」
「 確かにねぇ。
人間は器用だから、樹登りは出来ると思うよ。
黄金のまつぼっくりも器用に取れるだろうね 」
「 手袋を買いに行く日、お母さんはボクの手を人間の手に変えてくれたよ。
お願いだよ、お母さん 」
子ギツネは真剣でした。
子ギツネの手袋に対する想いは本物で、子ギツネの意志は固いようです。
「 坊や……。
坊やの気持ちは分かったわ。
でもね…母さんの力だけだと、坊やの片手を人間の手に変えるのが精一杯なの。
ごめんね… 」
「 そうなの?
…………ボク……人間の姿になれないんだ…… 」
子ギツネは母さんギツネの言葉を聞いて、悲しそうな顔をしました。
片手だけ人間の手に変わっても樹に登る事は出来ません。
子ギツネがしょんぼりしていると、カラスが「 カァーーー 」と鳴きました。
空中にはボスが合図を出すまで待機していたカラス達が、綺麗な円を描いて飛んでいます。
「 カラスにもねぇ “ ひみつの魔法 ” があるんだよ。
母さんギツネの使える魔法とは少し違うけどねぇ。
子ギツネ坊やを人間の姿にする手伝いをしてもいいよ 」
「 カラスさん?
有り難う!! 」
「 ボニス……いいの? 」
「 いいよ。
今夜は満月だからねぇ。
それにだ、お猿は『 魔法を使うな 』とは言ってないよ 」
「 そう…だったわね…。
分かったわ。
有り難う、ボニス。
──坊や、ボニスが人間になる魔法を一緒に掛けてくれるわ。
良かったわね 」
「 うん! 」
人間の姿になれると分かり、子ギツネは喜びました。
小さな尻尾がブンブンと揺れています。
人間の姿になれるのが余程嬉しいのでしょう。
母さんギツネとボニスは夜空の向こうで白く輝く満月を見上げながら「 月の魔法!! 」と叫びました。
子ギツネの周りに流れている空気が変わります。
子ギツネの体は淡くて柔らかい優しい光に包まれました。
母さんギツネとボニスが使える “ ひみつの魔法 ” が発動したのです。
満月が放つ月光の力を借りた “ 月の魔法 ” は子ギツネの姿を人間に変えました。
子ギツネは “ 月の魔法 ” の力を借りて、人間の姿になれたのです!!
「 やったぁっ!!
これで樹に登れるよ〜〜〜!!
────さっむ゛っ!!!! 」
人間の姿になれた子ギツネでしたが、あまりの寒さに雪の上に倒れてしまいました!!
子ギツネの体の時は、毛皮に覆われていたから寒い雪の中でも平気でした。
寒い事には変わりないのですが、毛皮が体を守ってくれていたので、凍てつく寒さにも耐える事は出来ました。
然し、人間の姿に変わってしまった子ギツネの身体は毛皮に覆われていません。
体毛は生えているのですが、あって無いようなもので、寒さを防いでくれる事はありません。
子ギツネはあまりの寒さに全身を震わせていました。
ガクガク、ブルブルと全身が震え、ガチガチと口が震えます。
雪の冷たさと風の寒さで、身体は動かす事も出来ず、どんどん意識が遠退いていきます。
何時しか子ギツネは人間の姿のまま凍死してしまいました。
人間の姿に変わった我が子の発した言葉が分からない母さんギツネは、雪の上に倒れてしまった我が子の姿を見て戸惑いました。
黄金のまつぼっくりの樹に登り、黄金のまつぼっくりを取って来なければ、お猿から手袋を返してはもらえません。
全裸でスッポンポンの我が子がピクリ…とも動かないので、母さんギツネは心配になりました。
「 言葉が通じれば良いのに── 」と母さんギツネは悔しく思いました。
ボニスもピクリ…とも動かない子ギツネの様子に首を傾げて見ていました。
ボニスにも人間の姿になった子ギツネの言葉が分からなかったのです。
寒さに耐えられなかった子ギツネは、人間の子供の姿のまま、雪の上で凍死してしまい、息絶えてしまいました。
我が子の異変に気付いたのは母さんギツネでした。
“ 月の魔法 ” の効果が切れた筈なのに我が子の姿が元に戻らないのです。
何度も声を掛けました。
何度も身体を揺すりました。
けれど、子ギツネは目を開けてくれません。
子ギツネの身体は青白く変色しており、冷たくて、固くなっていました。
「 坊や…… 」
母さんギツネは変わり果ててしまった我が子の姿に涙を流しました。
もう、我が子が生きていないのだと気付いてしまったからです。
今までの一部始終を大人しく見ていたお猿が、毛糸の赤い手袋を母さんギツネの前にソッと起きました。
何か良からぬものを感じ取ったのでしょう。
お猿達はバツが悪そうな顔をして去って行きました。
お猿が置いて行った毛糸の赤い手袋を拾った母さんギツネは、涙を流しながら凍死してしまった我が子の両手に探し求めていた手袋をはめてあげました。
皮肉な事ですが、子ギツネが無くしてしまい探し求めていた手袋は、誰もが望まない形となって子ギツネの手へ戻って来たのでした。
子ギツネの手袋を探す冒険の旅は、黄金のまつぼっくりの樹の下で静かに幕を閉じたのです。
めでたし、めでたし。