✒ 子ギツネの手袋さがし 1
◎ 童話ではないですが、「 手袋を買いに 」の中に登場したキツネの親子をモデルにしました。
キツネの親子の後日談を「 さがしもの 」風にアレンジしてお届けします。
◎ 町へ出掛けた子ギツネ。
母さんギツネから教えられた帽子屋さんへ向かった子ギツネは、プチハプニングが起きたものの子供用の手袋を買う事が出来ました。
初めてのおつかいを成功させる事が出来た子ギツネは、意気揚々と母さんギツネの待つ洞穴へ帰りました。
プチ冒険を体験した子ギツネにとって、毛糸の赤い手袋は宝物です。
そんな日から数日後────。
お気に入りで宝物の “ 毛糸の赤い手袋 ” を何処かで落としてしまい無くしてしまいました。
子ギツネの宝物探しが始まるのです。
子ギツネは無事に無くしてしまった手袋を探し出せるのでしょうか?
しんしんしん……。
真っ白い雪が空からチラチラとゆっくり落ちて来る。
降り積もる雪は冷たくて……。
「 ──クッシュン! 」
「 あらあら、坊や。
やっぱり片手だけの手袋だけじゃ駄目ね…。
一体何処に落としたのかしら?? 」
「 …………ごめんなさい…お母さん。
町で買えた毛糸の手袋を無くしちゃって…… 」
「 いいのよ、坊や。
雪が止んだら一緒に探しましょうね 」
「 うん!
早く雪、止まないかな〜〜 」
洞穴の中で母さんギツネに抱かれながら、子ギツネは小さくて円らな瞳を凝らしながら、チラチラと落ちる雪を見詰めるのでした。
「 ──ねぇ、待ってよぉ〜〜〜。
それはボクの手袋だよ!
ボクが落として無くした毛糸の手袋なんだよっ!!
お願いだよっ、返してよぉ〜〜〜!! 」
雪が止んだ事で、子ギツネは母さんギツネと一緒に無くした毛糸の手袋を探していました。
手袋を見付けたのは母さんギツネでした。
手袋を拾いに走った子ギツネでしたが、あと数cmで手が届く所で、手袋が奪われてしまいました。
オコジョです。
真っ白いオコジョが、子ギツネの手袋を頭に被って走り出したのです!!
子ギツネは手袋を横から奪い去ったオコジョを追い掛けて走ります。
母さんギツネが子ギツネを呼んでいます。
けれど、目の前で奪われてしまった手袋を取り返す事しか頭にない子ギツネの耳には母さんギツネの声は届きませんでした。
オコジョは走ります。
オコジョが頭に被った手袋を目印に子ギツネは懸命に走ります。
どんなに一生懸命走っても子ギツネの早さでは、すばしっこいオコジョの早さには追い付けませんでした。
とうとう子ギツネは毛糸の手袋を見失ってしまいました。
「 …………ボクの手袋……。
お母さんが見付けてくれたのに……。
目の前で取られちゃったよぉ……。
ボクの…毛糸の……あったかい…………うわぁ〜〜〜〜んわんわんわん…… 」
手袋を取り返せなかった子ギツネは大きな声で泣きました。
わんわんわんわん泣きました。
どのくらい泣いていたでしょう。
声も渇れて涙も渇れた子ギツネは、落ち込んだ様子でトボトボと雪の上を力なく歩きます。
母さんギツネの元へ帰ろうとする子ギツネでしたが、母さんギツネと住んでいる洞穴の場所が分かりません。
子ギツネはオコジョを追い掛ける事に夢中になってしまい迷子になってしまったのです。
「 お…お母さんっ…!!
何処なの、何処に居るの、お母さんっ!!
おかぁ〜〜〜さ〜〜〜ん〜〜!! 」
子ギツネは泣いて渇れてしまった声で、母さんギツネを懸命に呼びました。
あちこち走りました。
雪に何度も埋もれながらも、母さんギツネを懸命に探している子ギツネでしたが、母さんギツネの姿は何処にもありません。
母さんギツネにも会えず、洞穴にも帰れない子ギツネは、トボトボと雪の上を歩き続けました。
「 おやおや、子ギツネの坊やじゃないかい。
1人で歩いていたら熊に襲われるよ 」
何日目の事でしょうか。
ひとりぼっちで雪の上を歩き続けている子ギツネのを見兼ねた1羽のカラスが子ギツネに声を掛けました。
「 落として無くしてしまった手袋を探していたんだよ…。
お母さんが見付けてくれたのに、オコジョに取られちゃったんだ…… 」
「 ふぅん?
手袋を……ねぇ??
それって、毛糸の赤い手袋かな? 」
「 ──えっ??
ボクの手袋を見たの?? 」
「 手袋を帽子みたいに被ってるオコジョなら南南東で見たよ。
君の居る此処からだと、南南東はあっち方面になるね 」
「 ……あっちに行けば手袋を取り返せるの? 」
「 取り返せるかは、子ギツネ坊や次第だよ。
行くなら、道案内してもいいよ。
森の外に出た事もないだろうし 」
「 いいの??
有り難う!! 」
「 いいよ、いいよ。
1人で旅するのも飽きちゃったからね! 」
こうして子ギツネは、1羽のカラスと共に手袋を帽子のように被ったオコジョを探す旅を始めたのです。
カラスと旅を始めてから1週間が過ぎました。
探していた手袋を横取りして去って行ったオコジョを見付ける事が出来た子ギツネでしたが、オコジョは既に手袋を持っていませんでした。
オコジョの話では、「 手袋はオオカミの子供に取られてしまった 」と言うのです。
「 選りに選って、オオカミの子供とは分が悪い。
こりゃあ、諦めた方がいいよ。
此処までにしよう。
オコジョは手袋を泣く泣く渡して命を助けてもらったんだ。
大人のキツネが束になってもオオカミには敵わないんだよ。
諦めるのも勇気だよ 」
「 …………い…嫌だよぉ…。
あの手袋は……町で買った特別な手袋なんだよ… 」
「 市販の手袋なら、また買えばいいよ。
手袋は諦めて、母さんギツネが待ってる洞穴へ帰ろう。
帰り道も案内するよ 」
「 …………嫌だよ。
ボクはあの手袋が良いんだもん!
ボクは1人になっても手袋を探すよ!
オオカミの子供を見付けるんだ!! 」
子ギツネの意志は固いようで、オオカミの子供に渡ってしまった手袋を探す事を宣言した子ギツネは、オコジョの前を去りました。
子ギツネはカラスの忠告を聞かないまま、オコジョから毛糸の赤い手袋を奪い取ったオオカミの子供を探す旅に出たのでした。
何の手掛かりもない状態で、子ギツネの新たな冒険が今、始まったのです。
「 やれやれだねぇ。
世話の妬ける子ギツネ坊やだよ!
母さんギツネの代わりに、面倒見てやるかねぇ 」
1人でオオカミの子供を探しに行った子ギツネの後を追って、カラスも飛び立ちました。
そうです。
カラスは子ギツネの母さんギツネと親しい友なのです。
オコジョを追って1人で走って行ってしまった我が子を心配した母さんギツネが、友人のカラスに子ギツネの事を頼んだのです。
母さんギツネは友人のカラスからの伝言で、子ギツネの居場所を逐次知る事が出来ていました。
母さんギツネは雪の上を走ります。
森の中を抜け、子ギツネとカラスが向かっている方角を目指して、懸命に走ります。
早く我が子の元へ着かなければ──!!
母さんギツネの気持ちはザワザワと騒がしい警戒音が鳴っています。
早く我が子をこの手で抱きしめたい!!
母さんギツネは必死に走りました。
母さんギツネが子ギツネとカラスに会えるのは何時になるのでしょうか。
キツネの親子が無事に再会を果たせる事を祈りましょう。
キツネの親子に妖精の祝福があらんことを────。