第9層 代償と介抱
身体の悪寒と痛みで意識が戻ってくる。
質の悪い二日酔いに高熱の風邪を同時に食らったうえで、全身筋肉痛と全身打撲状態の身体、さらに頭の中を百足の小さいのが這いまわっているような感覚に襲われる。
最悪の状態だった。
霞む視界の中、なんとか立ち上がる。
朦朧とする頭の中で、何があったのかを考えるが思考がまと纏まらない。
壁を手探りに水を貯めている瓶まで足を運び、顔を突っ込み水を飲む。そうすると少し落ち着いた。
部屋の中は少し明るい。朝か、昼か、まだ日は上がっているのだろう。
しばらく瓶に身体を預けた状態でぼーっとしていたのだが、ふいに入り口付近に倒れている人影に目がいき、そこでメーリィが倒れていたのを思い出す。
おれは慌てて飛び起きる。
激痛で意識が飛びそうになるが、急いで倒れてる彼女に駆け寄る。
すぐに呼吸を確認する。
息はある。だが顔色は悪い。熱も相当高く、汗をかいていた。
俺は這いながら瓶まで戻り、器に水を入れて持っていく。
意識はないようだ。
仕方なく水を口に含み、口移しで水を与える。
突然口に入ってきた水に、彼女はむせて全部吐いてしまった。
俺はもう一度水を与える。今度はしっかりと飲んでくれた。
何度か繰り返して水を与えた後、激痛で動くのもままならないがなんとか彼女の身体を持ち上げ、身体を引きづってベッドへ移動させる。
今度は苦労して台所に移動したが、食べ物らしい食べ物はなかった。
俺は迷宮に持っていくために用意していた干し肉にむしゃぶりつき、少しでも栄養を身体にいれる。何度も嗚咽しながらなんとか胃に収める。
そして唯一あったリンゴを噛み砕いて、メーリィに無理やり流し込んだ。
何度も吐いて三分の一くらいしか食べさせられなかったが、一旦そこで俺は安心して意識を失った‥‥。
何度か意識を取り戻しては同じことをループして
俺は夢の中なのか現実なのか分からないような時間を過ごし、
なんとか頭の中だけでもすっきりしたのは外が明るくなる時間帯だった。
俺はすぐにメーリィの様子をみる。熱は少し収まったようだ。声をかけると薄っすら目を開ける。
だがなにも認識していないようだった。
とりあえず水を与えてお湯を沸かす。
俺もそうだが、メーリィもひどい匂いだった。
とにかくお湯で自分とメーリィの身体を拭き、あまり綺麗とは言えないが楽な服に着替えさせボロボロになったベッドの上のマットなどを退けて、客が来た時用の毛布、ダンジョンで使う外套、冬用のコートなど我が家にある厚手の服からなにから引っ張りだし、ベッドの代わりにする。
そこにメーリィを寝かせて一旦落ち着く。
とにかく衰弱している。食べ物をなんとかしないと。
買い物に行こうと外に出たが、まだ早朝とも呼べぬ時間のようだった。
とりあえずお湯を沸かし、乾パンをふやかし、残っていたリンゴをぶち込んでドロドロになるまで煮詰める。
しっかり冷ませて
「メーリィ、食べ物だ、食えるか?」
声をかけるが彼女は薄っすら目を開けただけで返事はない。
仕方なくまたしても口移しで食べさせる。今回はかろうじて意識はあるようなので自分で飲み込んでくれる。
そうやって2日間、彼女は朦朧とした意識の中、少しずつ回復していった。
「せんぱぁい。おなかすいたぁ。たべさせてぇぇ~」
昨日、なんとか身体が動くようになった俺は買い物に行き、新しい寝床と食べ物、着るものを準備してなんとか人としての尊厳を取り戻した。
それと同時にメーリィも最悪な状態から、自分でご飯を食べれる程度には回復し、起き上がってしゃべるくらいの余裕はでてきたようだった
「もう自分で食べれるだろ?さっさと回復してじぶんちに帰ってくれ」
俺は渋い顔をしながらベッドでぶーたれてる彼女を冷たく突き放す。
「ぶぅ~~~」
そういうとバタンと横になる。目を瞑り少し眉間にしわを寄せている顔を見ると
「まだ、少ししんどいのか?」
そう聞くとパッと花が咲いたようにこちらを向き
「はいっ!!だからたべさせてくださいっ!!」
と力づよく答える。
俺はその顔芸が面白くって呆れた笑いで
「仕方ないな」
そう言ってミルクで煮たオートミールの入った器を手に取り横に座った。
食事を終え、メーリィはすぐまた寝てしまった。
まだ万全とはいえないようだ。
俺の方もまだ頭痛と疲労は残っている。
だが、41階層から戻るための代償、と考えるならまだお釣りがくる。あれから5日が過ぎていた。
そろそろ協会に顔を出しておかねばならないが
とにかく状況を確認したかった。
俺の視界には
『相棒と踊れ』
STAND BY
という文字が控えめに見えている。
俺はお湯を沸かしつつ考える。
今回の俺たちが倒れたのも、やはりこのシステムのせいと考えるのが妥当だろう。
システムを使った時の代償だと考えて間違いないはずだ。
こうなると未知のシステムをどう利用するべきなのかについて考える。
「とにかく情報を得ることから始めるべきだな」
湧いたお湯で苦いコーヒーを入れつつ、独り言を呟く。
今後やるべきことを頭の中で整理した。




