第4層 S級の面々
勧誘されてから1週間が過ぎ、俺は迷宮入口にきていた。
今日が約束の41階の探索日だったからだ。
あの日、女の誘惑に負けたわけではないが、断じて負けたわけではないがっ!!
…いい女だったなぁ。
いや、違う。俺は頭を振り煩悩を払う。
結局、俺はあの日に今回の話を引き受けることを決めた。
思惑はどうであれ、41階に足を踏み入れる機会なんて今後ないだろう。少しでも勉強させてもらって今後に活かしたい。そう思ったからだった。
明方に服を着て身支度を整える彼女に、そのことを伝えると眼鏡をかけながらこちらを見て微笑み
「そうか。それは助かる。装備の新調や準備はこちらも支援するから近々この店に行ってくれ」
彼女はそう言って一枚のメモをテーブルに置くと、ボロいベッドで寝転がっている俺に近づいてきて口づけをすると
「では期待しているよ。アジェンド・タチバナ」
そう囁いて颯爽と去っていった。
……そういえば名を聞いてなかったな…
そんなことを考えながらまだ『月光の湾曲刀』のメンバーは来ないので今のうちに装備を確認する。
あの女性の紹介で行った店はクランのお抱え鍛冶屋だった。
そこで見たこともない上等な装備を一式用意してくれた。…半額で。それでも見たことのない金額になり、俺が途方に暮れていると鍛冶屋の親父は一般人の好で6割で付けにしてくれた。
・・・・地獄の借金生活。
だがさすが最上級の装備、軽くて動きやすく丈夫だ。迷宮で使いやすい長さの剣、取り回しがよく、手甲に装着できる円盾。兜は邪魔になるから嫌いだが今回はきちんと装備しておく。
細かい道具類も確認していると
「あんたがアジェンドかい?」
後ろから声をかけられて振り返る。
そこには長髪の優男が立っていた。
見たことがある。『月光の湾曲刀』の最強剣士、クロックア・ドウミョウジ。通り名はたしか『捕食者』と呼ばれてたはずだ。
その横には2mを超える巨漢ながら優しい笑みを湛えた男が一緒にいた。この人は知らないな。
俺は立ち上がってクロックアと向き合い
「アジェンド・タチバナだ、今日はよろしく。クロックアさん」
礼儀よく挨拶をして手を差し出す。
剣以外装備してないその男は俺を素通りして
「こっちだ。他のやつらはもう来てる。すぐ出るぜ、なんぜ『紅き竜王』の奴らが先に迷宮に入ったらしいからな」
スタスタと大男と共に受付の方に進んでいく。
俺は特に気にすることなく手を下ろし、クロックアの後を追いかけることにした。
…よくあることさ。
クロックアについて行くと受付前に残りのメンバーらしい5人が待っていた。
「おっそーい。クロー!!急がないとカスーの奴らが先に踏破しちゃうかもよー?」
やたら元気のいいセミロングのウェーブのかかった髪の女性が文句を言う。
「すまねー。辛気臭せーのが見つからなくてな」
すいませんね。辛気臭くて。俺は心の中で呟く。
どうも歓迎されてないどころではないようだ。
俺を勧誘にきた女性がいないのが気がかりで話を聞いてくれそうな大男に
「俺を勧誘に来た女性は今日は一緒じゃないのか?」
そう聞いてみた。
……シカトされた。
どうやら一緒に行くわけではなかったらしい。少しショックだった。
「ねー弱いくん。さっさと登録してくれるかなー?」
さっきのパーマ女が話しかけるのも嫌といった顔で登録を促す。
これは前途多難だな‥‥。
俺は受付のおっさんの元に行き登録用の石板に手を置く。能力表が表示されその横の部隊表に登録される。
「うわー。マジでF級なんだぁ。萎えるぅ~~」
パーマ女は露骨に嫌そうな顔をする。
俺はもうなにも言わず他の面子を見る。
クッロクア、大男、パーマ女。
そしてフードを目深に被った男だか女だか分からない人物。
全身高級そうな鎧で身を包んだ、多分男。
影の薄い顔をした細い軽装備の中年。
そして腰まで届く綺麗な黒髪ストレートヘアーの清楚系美人。
とても優しい笑みを浮かべている。だがこの女は有名人だ。通り名だけはしっている。『毒吐聖美人』
虫も殺さぬような顔をしてものすごい口が悪いらしい。罵るとかでなくもう言葉で殺すレベルだと聞いたことがある。ついでに呪詛系の魔法を得意としているらしい。
なんとも豪勢なメンバーで俺はため息をつく。
とりあえず毒吐き女には近づかないでいよう…。




