第27層 シズクの変貌
「うおおおおぉぉぉぉ!!」
雄叫びをあげながら蜥蜴人に猛スピードで突進し、相手の攻撃より早く、破砕槌の一撃で敵を粉砕する。
そのまま近くの蜥蜴人の攻撃を盾で受け流して、返す破砕槌で頭部を粉砕する。
8階層まで降りてもシズクの猛進撃は止まらない。
俺はメーリィとマロールの護衛に徹し、シズクではなくこちらを狙ってきた魔物をきちんと処理する。
「オラオラ!!どんとこい!!おらっ!!ガードが甘ぇ!!」
メイスで滅多打ちにして蜥蜴人の盾防御の上から殴りつけて、力技で撃破する。
まるっきり別人のように乱暴な口調でシズクは次々と魔物を撃破する。
「シズクちゃん、ちょっと怖い…」
メーリィはすこし怯えて俺の腕に掴まる。
さすがに俺も失笑せざる得ない。あそこまで豹変されると人格ごと変わるシステムなんじゃないだろうな?と疑うほどであった。
そういえば相互の精神的繋がりも、メーリィの時より弱い感覚だった。
シズクは今までにない自分の力を持て余して酔っている、くらいのうっすらした感覚は伝わってくるが、シズクが今なにを考えているのはいまいち伝わってこない。
感情面の繋がりは弱いように感じる。
だがメーリィの時と違い、『敵』と認識する感覚は共有してると感じる。
今、俺からは、シズクの背後からこっそり近づこうとする蜥蜴人が見えている。この見えている蜥蜴人を俺とシズクは情報として共有していた。
俺が視認しているシズクの背後の蜥蜴人をシズクは振り返ることなく認識できている。
認識されている蜥蜴人が曲剣を振りかぶって、シズクの背後から斬りつけるが、シズクは振り返りもせずに手に持った破砕槌を後方へぶん投げる。投げた破砕槌は蜥蜴人の頭を吹っ飛ばしてダウンさせる。
そのまま塵となり消滅する蜥蜴人を確認もせずに
「ふー、ここら辺は粗方片付いたなっ!!」
シズクは自分の周りの塵と化していく魔物たちを見下ろす。
この層程度なら、シズク一人でも楽勝ムードであった。
「とりあえず、一息つこう。シズクも少し休んでくれ」
俺は辺りを警戒するため、皆から少し離れ周りを。【魔物感知】で警戒、索敵する。
周りには魔物の反応は感じない。
俺は一旦
「『特殊システム』解除」
と呟く。その瞬間、身体が少し重く感じ、足元がふらついたが、倒れたり動けなくなったりするほどではなかった。使用し始めてからかれこれ5時間以上経過している。
休んでいるみんなの元に戻ると、シズクがぐったりして項垂れていた。
その横でメーリィがやさしく慰めている。
俺は2人の元に駆け寄り
「どうした?」
メーリィに訊ねると、メーリィが困った顔で俺をみて
「シズクちゃんが…」
と言ってシズクに視線を落とす。
俺もシズクを見ると彼は頭を抱えて、ブツブツと何か言っていた。
「…ぁぁ、ボクは…ボクはなんてことを・・・・。みなさん。すいません、すいません。暴言ばかり吐いて…」
シズクは自分の感情を制御できなかったことを悔いているようだった。
俺はシズクに近づき、彼の肩に手を置いて
「まぁびっくりの豹変ぶりだったけど、シズクのおかげで、あっという間に8階層までこれた。身体の方はどうだ?違和感があったりしないか?」
システムを切って彼に異変がないかどうかを確認する。
シズクは顔をあげ、半泣きで
「グスッ…いいえ、と、とくには…。ただ思った以上に身体はだるい…です」
シズクの方も身体的負担は軽いようだった。『長期持続型』というのはやはり代償の方も軽いようだった。
ぶぅおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!
急に階層全体を震撼させるような咆哮が俺たちのいる通路の前から鳴り響く。
いきなりのことで俺たちはびっくりして、武器を持って立ち上がり咆哮のした方向に身構える。
だがすぐに襲ってくることはないようだった。先ほど【魔物感知】に引っかかった魔物はいない。
俺は少し前に出て地面に耳を当てる。
ズゥン、ズゥン。と大きな音が地面を伝って聞こえてくる。
「そんなに遠くはない。大型のようだ。数も単体。だが・・・・この階層は大型の目撃は聞いたことがないが」
俺も情報としてしか知らないため、確証がなく曖昧に呟く。
「そうだな。8階層は全体的に狭いため大型は目撃された報告はほとんどない。…報告があったのは稀魔物だ」
マロールは音のする方向を真剣な顔で見据えたままそう言った。
稀魔物
迷宮でごく稀に発見される魔物である。
形状や出現階層が違っていたりする、程度の情報しかなく、その素材自体が今まで見たこともないものであったりして、初めて稀魔物であったと判定されることが多い。
その強さは、その階層に似合わぬ部類の強さである場合が多いと聞く。
気づかず戦闘して亡くなった冒険者も多い。
俺は今まで稀魔物とは遭遇したことがない。
2階層などにもいるようなのだが、それこそ稀にしか遭遇しないのだ。
「よりによって今日、遭遇するかねぇ」
新しいことだらけだな、冒険者業12年目にして毎日が冒険だ。俺は少し自嘲気味に笑う。俺はシズクとメーリィを見る。
「さて、どうする?…と聞くまでもないか」
二人はすでに戦う方向で、腹を括っているようだった。
俺はマロールを見て
「あなた、F級じゃないですよね?本当の格付、教えてもらってもいいですか?」
登録したときにはF級と書かれていたが、今の発言、そしてなにより『特殊システム』のリストに彼の名前はなかった。
マロールは俺に視線だけを向けて
「ふん、察しがいいな。私は本来C級だ。貴様らが不甲斐ない場合は連れて帰るのも仕事にはいってるのでな」
彼は悪びれることなく自分の本来の格付を語る。
「それで?稀魔物、どうするんだい?正直僕はこの人数では相手にしたくないんだがね‥」
F級3人を抱えて稀魔物と戦うのはいくらC級でも避けたいのだろう。
俺はニヤリと笑い
「今は試したいことが多いんでね、少しでも倒しがいのある敵は助かる。すまないが今回は手を貸してもらうよ」
マロールにそう言って俺は前に歩き出した。
体調不良でほぼ書き終わってましたが面白いと感じず惰性で書いた文だったので昨日upするのは諦めました。
おかげで少し面白く修正できたと思います。
状況が変わったので更新頻度が落ちるかもしれません。
詳細は近いうち上げるエッセイにて!!