第19層 眩しい笑顔
今日のおすすめは魚料理だった。
相変わらずただスパイスを効かせておけばいいと思っている、濃い味付けの料理をビールで流し込みながら腹を満たす。
次第店の中は席が埋まり始める。
迷宮帰りの冒険者たちが、今日の成果をお互い自慢げに語っている。
だいたい酒場で飲める日は、それなりの稼ぎを確保した時と相場が決まっているので、皆明るく声がでかくなるのがこういう店の特徴だった。
何人か顔見知りに声をかけられ
E級の古馴染みに
「あれ?なんだ古株。おめー、死んだんじゃなかったのかよ?」
「あんたより先には死なないさ」
などと悪態を突き合いながら、最近の景気を聞く。
次に駆け出しのF級の女冒険者が俺を見つけて、小走りに近づいてきて
「アジェンドさんだぁ、久々じゃん。さいきんどーぉ?」
「目下休業中でね。いい情報あったら教えてくれ」
そう言って軽く近況を聞き、軽いアドバイスなんかをしていると周りの先輩冒険者たちがあーでもないこうでもないと口をはさむ。
俺たち冒険者は差別はあれど、なんだかんだ横繋がりは大事だった。
「んじゃあ、今度一緒に部隊組んでよね!」
そう新米の女の子は投げキッスを残して去っていく。
俺は愛想良く手を振って見送ってると
「楽しそうですねぇ。せんぱい?今度どうするのか詳しく聞かせてもらえますかぁ?」
背後で黒いオーラとドスの効いた声が聞こえて俺は少し引きつる.
「い、いやぁ二階層の穴場を、今度教えてやるという約束をだな…」
俺の言い訳を聞きながら、前の席に座るご機嫌斜めのメーリィ。
そんな彼女を見て、俺は少し驚いた。
珍しく、いや、初めて見るような新鮮さが彼女にあったからだった。
髪を整え、サイドテールにして花の髪飾りを付けている。少し化粧をしているのかいつもより目元がはっきりしている。そして薄い白桃色の唇は何やら艶かしく、そして少し洒落っ気のある肩を露出した可愛らしい服装。
…うっかり見惚れてしまった。
「??せんぱい?どうかしました?」
話の途中で止まってしまった俺を、あどけない顔で覗き込んでくる。
「あ、あぁ。別に・・・」
俺は言葉を濁し目を背ける.
うっかり見惚れたなどと口が裂けても言えない。
そこで思い出したように話題を切り替え
「体調はどうだ?無理して来てないだろうな?」
俺はバツの悪そうな顔でそう問うと、メーリィはテーブルに肘をついて
「そー言われると思ってちゃんと調子良くなってから来ましたよぅ。あれくらいの時間なら復帰に時間がかかりませんね」
そう言いながらちょうど横を通った女給に、にこやかに飲み物と食べ物をお願いするメーリィ。
元気そうな彼女の姿を見て俺は少し肩をなでおろす。
今日はさらに輝いて見えて少し照れる。そんな自分の気持ちを誤魔化すように
「次からは迷宮探索だ、お互い無理はしないようにしよう」
そう言うとメーリィは嬉しそうにニコリと微笑み
「そうですね。頑張っていっぱい潜りましょうね」
満面の笑みの彼女が少し眩しくて、俺はそっぽを向いた。
その後他愛のない話をしてご飯を食べ、すれ違うなじみたちと情報交換をしたり、軽口を叩いたりしながら久々の酒を楽しむ。
メーリィも楽しく女給たちと謎のテンションで飲み比べを始め、ハイペースに出来上がっていく。
気がつけば俺も彼女もいい感じに酔っぱらい
「せんぱぁい、今日はたのしいですねぇ」
机にうつ伏してニコニコのメーリィ。
その様を俺はちょっとお高いウィスキーを舐めるように飲みながら、目を細めてみている。
今日は呑みにきて正解だったな。そんなことを考えていると
「おんやぁ?この店には最近お化けが出るのかなぁ?どこかで見た一般人の幽霊がこんな所に座っていやがるっ!!」
そう勢いよく椅子を蹴られて俺は椅子から転げ落ちて、尻もちを着く。
周りの冒険者が何事かとこちらを見る。
俺の持っていた酒が半分くらい零れてしまう。
…ああ、もったいない…。
俺はため息をつき、零れた酒を見る。
「せんぱいっ!!大丈夫ですか?」
慌てて立ち上がるメーリィ。それを制するように手を上げて無事を示し
「大丈夫だ」
そう言って俺はゆっくりと立ち上がり、
「やぁ、マケローさん。今日もご機嫌なようで」
心の底からうんざりしながら、俺は振り返らずに、椅子を蹴った相手に声をかける。
「てめぇ、死んだんじゃなかったのかよ?なんで生きてやがる?」
立ち上がった俺をさらに蹴りを入れる。
俺は足を蹴られつつ
「まぁ、なんとか生きてます。運がよかったもんで」
そう言ってヘラヘラ笑って振り返る。
「てめぇなに笑ってんだぁ?舐めてんのかぁ?」
「マッケンローさんにたてついてんじゃねーよ?」
「今日もボコボコにしてやろうかぁ?ああん?」
取り巻きがざわつき始める。
これは…面倒だ。
俺は本格的にうんざりする。楽しい酒がこれでは台無しだ。
別の店で飲み直すか、家でもう少し飲むとするか…
「今日はもう簡便してください。もう帰りますんで…」
そう言ってお辞儀をしてから振り返り、メーリィに目配せをする。
彼女もコクリと頷き、席を立つ。
「じゃあ、すんません、失礼します」
俺はペコペコお辞儀をして彼らの前を去ろうとする。
だがマッケンローはそんな俺を見ていなかった。
彼の視線はめかしこんだメーリィを見て下卑た笑みを浮かべていた。
「おやぁ?兄貴の奴隷ちゃんじゃあねぇか、てめーも生きてたのかぁ?
兄貴からは死んだって聞いてもったいねーと思ってたのによぅ。
おれぁ、兄貴が飽きたらあんたをもらおうと思ってたんだぜぇ。けっけっけ」
そういいながらメーリィに近づく。
その言葉でメーリィの顔が強張り目を逸らして俯く。
そんなメーリィを覗き込むようにしてマッケンローが
「兄貴にはご奉仕したんだろぅ?俺『の』も頼むぜぇ。そのおっぱいでよぅ。けっけっけ」
その言葉に。
41層で出会った竜の紋章の入った男の顔がちらつき、
俺は
大きくため息をつく。
そしてクルリと振り返り、マッケンローの肩に手をかけ後ろに強く引っ張り、足を引っかけて引き倒して、メーリィとの間に割って入る。
「マケローさん、申し訳ないがこれ以上、彼女に絡まないでいただいてもいいですかね?」
俺は冷たい目でマッケンローを見下ろす。
「てめぇ!!アニキになにしやがるっ!!」
「F級が調子にのんなよっ!!」
「兄貴、大丈夫ですか?」
手下がピーピー喚き始める。
何が起こったか分からず尻もちを着いたまま、おれを見上げて呆けていたマッケンローが見る見る真っ赤な怒り顔へと変貌していく。
そして勢いよく立ち上がりながら
「てめぇ!!F級《Fランク》!なにをやったかわかってんのかっ!!覚悟はできてんだろうなっ!!」
凄い勢いで喚きちらして立ち上がり、今にも殴りかかりそうな勢いだったが、俺はそれを無視してメーリィに近づいて、驚いている彼女の頭に手を置き
「大丈夫か?少し待っててくれるか?」
そう優しく声をかける。メーリィは驚きとも焦りとも取れる顔で
「せっ、せんぱい。気にしなくていいですからっ、帰りましょう!!」
そう声を出す。
そんなメーリィの背後からにゅっと手が伸びてきて、赤毛の女給が彼女の肩に手を回し頬を摺り寄せるように密着して
「まぁまぁ、いいじゃないの~。ここは、男を立ててあげなさいよ。さ、座ってわたしと飲み直しましょう♪」
そう言ってメーリィを座らせてビールを渡す、
メーリィはいきなりのことで少しパニクッて
「え?え?え?」
キョロキョロしながら言われるままに席に座り直す。
俺はそれを見て失笑をしてから、隣で事の成り行きを面白そうにみていた、若い冒険者の男に
「すまない。君のその手袋を貸してもらえるかい?」
そう聞くと男はなんのことか分からないという顔をして
「あ、ああ、いいぜ?なんに使うんだ?」
そう言って左手の手袋を外して貸してくれる。
俺はその手袋に金貨を挟んでテーブルに置き
「さて、マケロー君。悪いがここからはお前の名誉をかけてもらうぞ。彼女の汚名を晴らすために、だ」
そう言って俺はマケローへの怒りをあらわにした。
なんか筆が乗らずに悪戦苦闘でした。
でも推敲してたら少しのってきましたよっと。
ここが楽しいところなのに気分が乗らないと面白くないですからねっ!!
でもバトルはまた次回ですw
タイトルに困ったけどこれいいか。