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第14層 鋼刃の操兵

 メヌエラの作り出した鉄の巨人は、腕が4本、二本には剣を持ち、二本は大きな拳を作っている。

頭と思われる部分は、赤い目のようなものが三つ。クルクルと場所を移動しながら動いている。

足は四つ足のようだが後ろ足は車輪でできている。

なんとも歪で奇妙な人形のような物体だった。

最初は土人形ゴーレムの類かと思ったが、どうも感じが違う。


「そうか。精霊か!!」


俺が回答に至ると、メヌエラは感心したように


「ご名答。初見ではなかなか気づかないのだが、君はさすがというべきだな。」


 精霊使い(エレメンタラー)、精霊と呼ばれるものを使役して戦うと言われる者たちで、特殊な素質がないと使えないと聞いたことがる。

昔、F級(Fランク)の仲間に使用する者がいたので知っていた。

こんなすげーのじゃなかったが…


 そんなことを考えていると、でかい鋼の精霊がものすごいスピードで突っ込んできた。

さすがに度肝を抜かれる速度だったため、意表をつかれ後ろに飛び退く。

俺がいた位置に、拳が地面に突き刺さっていた。


「すごいな」


 さすがに素直に感嘆する。


「そんなこと言ってる場合じゃないですよっ!!」


 メーリィは俺を叱責して、敵に姿勢を低くして飛び込んでいく。

振り下ろされる鉄剣を、軽く躱して斬りつける。


バコォォォォン


と言うものすごい音とともに木剣が砕け散った。

メーリィも俺も、そしてメヌエラまでもが


「あ」


という声を上げて呆然とする。


 ‥‥俺たちは練習用の木剣だったのだ。

全員が肩透かしを食ったように動きが止まる。

一番恥ずかしそうだったのはメヌエラだった。


「あ、あの・・・その・・・剣取ってきましょうか?」


そう言ってあたふたするメーリィ。

その姿を見て吹き出すメヌエラ


「ぶっ、あははははは。いや、いいよ。すまない。そういえば君たちは練習用の木剣だったな。つい真剣な斬り合いだったので失念していたよ」


 そう言って鋼鉄の精霊に触れると一瞬で鉄の塊へと戻りゴトリと地面に落ちる。

それをメヌエラは拾いながら


「私は謝罪に来たのであって、戦いに来たのではなかったな。すまない。君たちの熱い蜜月に、つい混ざりたくなってしまった」


 そう言って涼し気な目で笑い


「この続きはいずれベッドの上でするとしよう」


 その言い方に俺は複雑な顔をする。

メーリィに至っては赤面して俯いている。

メヌエラはもう一度俺にお辞儀をして


「今回の件は本当にすまなかった。よければまた会いに来てもいいかな?」


 俺は頭をぼりぼり掻きながら


「べつに断る理由はないな。S級(Sランク)の知り合いがいるというのはなにかと便利そうだ」


 そういって俺は握手を求める。

彼女は頭を上げて優しく微笑み


「ではよろしく。また熱い夜を共に過ごす機会があればいいな」


 そう言って握手をする。


「ちょ、それはだめですぅ」


メーリィが俺の前に割り込む。


 そんな彼女を愛おしそうに見るメヌエラは、メーリィの頬に手を這わせ


「素直でいい子だ。大丈夫、君も同じくらい愛してあげるから」


 今にも唇を奪いそうなほど接近して甘い声でそう囁く。

メーリィは顔を真っ赤にして、硬直して動けないでいる。

俺はそんなメーリィの頭に手を置いて


「あまりからかわないでやってくれ」


 そうメヌエラにお願いしておく。

メヌエラは心外な、という顔をしてからいじわるな笑みを浮かべ


「私は本気だよ?そういうの好きなんだ。君にとっては天国だろう?」


 そう言った。

俺は一瞬、思考を走らせたが…しまった、と手を置いているメーリィを見ると…

酷いジト目で睨んでいた…さらに手を振り払われる。


「せんぱい、それはさすがにドン引きです!!」


 距離を置かれてしまう。

その一連の行動を見てメヌエラは少し驚き


「君たちは本当に息ぴったりなんだな」


 そう言って俺たちをまじまじと見る。


「…ああ、まるで以心伝心だろ?」


 そう言いながら俺は明後日の方向をみてはぐらかす。


「ふぅん…。まぁいいさ。ではまた今度みんなでご飯でも食べに行こう。私は今日はお邪魔虫のようなので退散するよ」


 そう言ってメヌエラは踵を返す。そしてなにか思い出したように


「ああ、そうだ。ランナが君に謝りたそうにしていたから、一応私が謝っておこう。どうせ彼女と話すことがあったとしても君には伝わらないだろうからな」


 首だけ振り返ってそう告げられる。

あの毒吐き女が?


「へぇ、あの人そんな殊勝な心があるのか?」


俺は意外な顔をする。なんせ第一声で罵倒されている。そんなタイプには見えなかった。

その俺を見て少し悲しそうな顔をするメヌエラ


「あれは育ちがちょっと特殊でね。言葉遣いをきちんと学んでないんだ。まぁ性格も引っ込み思案だから、ああなってしまってるんだが…。あまり悪く思わんでやってくれ」


 そう言うと小さく手を上げて去っていった。

俺は彼女が暗がりに飲まれるまで見送った。


 そして振り返ると不貞腐れてるメーリィがいた。

ああ、これは面倒だな。


「だれが。面倒ですかっ!」


そう突っ込むメーリィ。

あ、そうだった。

俺は自分の視界に映っている


『相棒と踊れ』(バディリンクシステム)

モード『短期集中型』(フォックストロット)起動中

相棒バディ

▶メーリィ・カドマエ


を確認してもう一つの試しておきたかったことを試すことにする。

大きく息を吸って気持ちを落ち着け


「特殊システム解除」


 と言ってみる。

そうすると


『相棒と踊れ』(バディリンクシステム)

STAND BY


 と変わる。よし、このまま連続起動も可能そうだ。

と思った矢先、

身体が一気に重くなり、疲労と肉体の痛みで頭の中がぐらぐらする。

一瞬立っているのもやっとな気分になったがなんとか踏ん張る。

やはり、代償リスクはこれか。

 だが前回ほどひどい状態ではなかった。

これはたぶん継続時間なのだろうな、と俺は予想している。

俺はハッとして振り返る


「メーリィ!!」


彼女はうずくまり荒い息を上げていた。

すぐに駆け寄り彼女の容態を見る。

意識はあるようだ。しゃべる余裕はないようだが

こちらを見て冷汗をかいているにも関わらず笑おうとして失敗した顔になっている。


 これも予想していたが、相棒側の方が代償リスクはやはり過酷なようだ。

まだ、立っていられる俺より、もう立つ気力すらないメーリィ。

これはこれで使うのが躊躇われるな。俺は少し罪悪感を感じ


「うちで休んでいけ。ほら、おぶってやるから」


 俺は背中を見せ彼女に乗るように示唆する。

彼女は動くのもままならないようなスピードで俺の背中に身体を預ける。

彼女のたわわな乳房を背中で感じつつ

俺は立ち上がり家に向かって歩き始める。


「せんぱぁい、こんなことでめげないでくださいね。私はこんなのつらくないんですからぁ」


繋がっていないのに俺の罪悪感を感じたのだろう。そう呂律の回らない声で耳元で囁くメーリィ。

俺はそんな彼女のやさしさに


「ああ、わかってる。わかってるさ」


そう返した俺の声は眠ってしまった彼女には届かなかった。

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