第13層 深夜の再会
「S級軍団への対応は今日中に対応しておきます。では明後日、練闘場にて。お忘れないよう」
そうデモントに別れ際に釘を刺され俺たちは迷宮入口を後にした。
その日の夜中、おれとメーリィはうちの裏の空き地で向かい合っていた。
空き地の何か所かに明かりを置いてあるが、なんとか相手を視認できる程度の明るさしかない。
お互い動きやすい格好。手には木剣を持っている。
「じゃあ、いくぞ」
俺はメーリィを見てそういうと、彼女は少し頬を染めて高揚感でいっぱいのような顔で、大きく頷いた。
「特殊システム、『相棒と踊れ』」起動!!」
俺は彼女には聞こえる程度の声で宣言する。
視界の右隅の
『相棒と踊れ』
STAND BY
が
『相棒と踊れ』
モード『短期集中型』起動中
相棒
▶メーリィ・カドマエ
に変わる.
身体が軽くなり、いかなる動きも思うがままになった気がする.
俺は軽く剣を振る。いつもより軽い力でいつも以上の速度が出てる感覚に酔いしれてしまいそうだった。
俺は正面のメーリィを見る。
彼女もまた身体の調子が上がったのを確認する様に、軽いジャンプから左右にステップを踏む.
そして俺に向かってニコリと笑うと、凄まじい左右のフェイントから一気に踏み込んで来て、上段から木剣が振り下ろされる。
かなりの速度であったが俺は難なくその一撃を受け止めて右へ流し、そのままメーリィの態勢を右側へ崩してから袈裟斬りに斬りつける。
だがそこにはすでにメーリィはいない。
崩れた体制をそのまま利用して前へ転がることで追撃を免れていた。
メーリィはそのまま身体を180度回転させながら横なぎに斬りかかる。
今度は俺が前転してメーリィの剣戟から逃れ、距離を開けて対峙する。
お互いの動きが手に取るように分かるので、無駄のない全力攻撃をいなし合う、型稽古のような形になっていた。
何度か交差し、ぶつかり合い、躱し、入れ替わる。
そんな時間が過ぎていき
つばぜり合いから俺が力で圧倒してメーリィを押し返す。
彼女は力では勝てぬと踏んで素早く後方へ飛び構え直す。
「すごいね。まるで濃密な情交みたいだね。見てるだけで感じて濡れてしまいそうだよ」
突然の艶のある声にぎょっとして声の方向を向くと
空き地の外に眼鏡をかけた女性が立っていた。
暗がりで見えにくいがすらりとした立ち姿に見覚えがあった。
「あんたはっ!!」
俺は驚き、うっかり彼女との情事の光景を思い浮かべてしまう。その瞬間、しまった!!と思った時には遅かった。
「せ、せ、せ、せ・・・せんぱいのうわきもの~~~」
突然泣き出すメーリィ。
だれが浮気者だ。俺は頭を抑える。
「なんだね。こんなかわいい彼女がいるなら言ってくれればよかったのだよ。なんなら私は3人で構わないよ?」
眼鏡の女性は飲み込みが早いというか、脳内が桃色と言うのか…思っていたより問題児のようだった。
とりあえずメーリィは放置して
「今日は何の用なんだ?勧誘ならお断りだぜ?」
少し冷たくあしらう。そりゃそうだ、こっちとら死にかけたのだから。
先ほどまでからかうような笑みを浮かべていた女性は少し委縮した顔になって、まっすぐに立ち、深々と頭を下げる。
「その件は本当にすまない。君が生きていると今日聞いて、いてもたってもいられなくて突然押しかけた。本当に、すまないことをしたと思っている」
俺はそんな彼女の姿を見て、気になったので質問をしてみることにした。
「もしかして…君は特殊システムのことを知らなかったのか?」
そう聞くとしばらくじっと動かなかった彼女は申し訳程度に頷き、肯定する。
「言い訳にしか聞こえないと思う。知っていたのは当人のランナとクロックア、協会の上層部だけだった。私は本来メンバーだったのだが、当日に別件で残ることになってね。君が帰らぬ人になったという話と共に聞かされた・・・・」
なるほどね。彼女的には真面目に『協会の新しい試み』のために俺を見つけたというのには嘘偽りはなかったというわけだ。
そんな彼女にメーリィが前に出て食ってかかった。
「あなたのせいでせんぱいは死にかけたんですよ!!ごめんなさい。ですむはずないじゃないですかっ!!ねぇ?せんぱい」
そう振り返ったメーリィは俺の顔を見て、しばらく黙った後、怒られた子犬のようにシュンとする。
俺はそんなメーリィに近づき、頭を撫でてやる。
「頭を上げてくれ。今回はたしかに俺は死にかけた。でもおかげて得た物もあり、こいつを連れて帰ってこれたのも事実なんだから。そういう意味では誘ってくれて感謝しているんだ」
俺がそう言うと隣でメーリィは真っ赤になってもじもじとしている。
眼鏡の女性も頭を上げて俺を見て
「…そうか。だがこの借りはいつか必ず返すと約束しよう」
そう言って眼鏡の位置を直して薄く笑った。
そしてしばしの沈黙の後、彼女の目の色が変わり
「ところで、先ほどの君たちの立ち回り、見せてもらったんだが…君は本当にF級かい?」
鋭い視線で俺たちを見る。
俺はギクリとなりメーリィを見る。
彼女は素知らぬ顔でそっぽを向いている。
「‥‥えーと、それはですねぇ」
俺が微妙にお茶を濁してるのをみて女性は意地悪な笑みを浮かべ
「‥‥まぁいいさ。それが君が、いやそちらの彼女もそうなのだろうが41階層から戻ってこれた理由なのだろうな」
女性はそう言って空き地に入ってくる。
先ほどまでと打って変わってものすごいオーラのようなものを感じる。
息が詰まりそうな緊張感が漂ってきた。
女性は背中に手を回しなにやらごそごそしながら
「せっかく面白いものを見せてくれたのだ。少し、手合わせをしてみないかい?」
そういうと背中から何かを出してドスンと地面に転がす。
それは掌に収まる程度の小さな鉄?の塊だった。
「…本気か?F級と手合わせなんて」
わざとF級を強く推してみる。
だが、彼女は冷たく微笑み
「今の動きがF級なら世の中の人はF級についての認知を改めるべきだな。まるでS級同士の本気の試合のようだったよ?」
すでに彼女は戦闘モードなのだろう。ものすごいプレッシャーで目が離せない。
「それに君たちも知りたいんじゃないかね?『自分たちがどれほど強いのか?』を」
見透かしたような言葉を紡ぐ。
俺はメーリィを見る。彼女も状況が変わったことを肌で感じ、すでにやる気のようだった。コクリと頷く。俺も女性に向き直り腰を落として
「では、ぜひ手合わせをお願いしようか。ただ、一つだけ聞いても?」
そう質問を投げかける。
ものすごいプレッシャーを放ちつつ、小さく小首を傾げる彼女は愛らしかった。
「何をだい?」
「俺はまだあなたの名前をおしえてもらってない」
剣を構えながらそう答えると
女性は少し驚いた顔をしてから優しく微笑み
「ああ、そうだったな。失念していた」
そう言って右手を突き出し、地面に落ちた塊に掌をかざす。
掌から目に見えてエネルギーが発せられ、地面の塊に流れ込んでいく。
鉄の塊が、ボコッボコッと内側からなにかに押されるように変化し、大きくなっていく。
どんどんどんどん大きくなっていく。
「私はS級軍団、『月光の湾曲刀』所属。メヌエラ・トキトーだ。
人は私を『鋼刃の操兵』と呼ぶよ」
彼女の落とした鉄の塊は4mを超える大きな奇怪な人形?と変わっていた。