第12層 特殊システム
デモントが退出して
「ぷはぁぁぁぁ~~~~~っ」
今まで息を止めてたのかっていうくらい大きく息を吐くメーリィ。
俺はコーヒーに口をつける。
う、冷めてる…。
「気が気じゃありませんでしたよぅ。よくあんな偉い人とあんなやり取りできますね。せんぱいは」
この場にいるだけで疲れたのか椅子から滑るようにだらしない恰好になるメーリィ。
俺は冷めたコーヒーを最後まで飲み干し名残惜しそうにカップを置く。
「この状況は実は考えていた状況なんだよ。そうじゃなきゃあんなにペラペラしゃべれるか」
俺はぶっきらぼうに答える。
その時、ドアがノックされて先ほどの女性がコーヒーポットを持ってきてくれて、俺のカップに注ぐ。そしてポットをテーブルに置き、
「しばらく時間がかかるそうです。お手数ですがしばしお待ちください」
そう言って深々と頭を下げる。
俺はカップを手に取り淹れ立てのコーヒーの香りを楽しみながら
「これさえあれば全然何時間でも待ちますよ」
そういって笑った。
女性もその仕草が面白かったのかくすりと笑い、お辞儀をして退出していった。
「…キザでキモイですよ」
メーリィの冷たい視線。
俺は少し赤面しつつ
「うるさい。たまには言ってみたくなる時もある」
そう言って熱いコーヒーをまた口に含んだ。
そこそこの時間を待たされその間、メーリィとたわいのない会話をしていると
扉が開き、デモントが帰ってきた。
「おまたせしました。少し別件で済ませねばならぬことがあったので」
謝罪をしてから俺の前に座り
「まずはこれに目を通してください」
そう言って巻物を一本手渡してくる。
俺はそれを開いて入念に目を通す。
文章に問題はない。ギルド印も押してあり、あとは本人のサインのみという状態であった。
俺は巻物をまき直してデモントに返す。
「問題はないようですね」
そう言って座り直し
「ではまず、こちらの知りたいことを話してもらっていいですか?『S級の特殊システム』について」
デモントも座り直して少し苦い顔をして
「…怒らないで聞いてください。S級の特殊システム、『最後に立つ男』は40階層で見つかった碑文に書かれていたものです。」
「これを解読できたのは『毒吐聖美人』ランナ・クサナギ。そして『七不思議の獣』デロイト・ダテ」
デロイトの名が出た時にメーリィの顔が少し曇る。たぶん竜王にいたS級なのだろう。
「システムの解放条件は碑文を読む。ですが
発動条件は
・40階層より下の階層である。
・F級と部隊を組む。
・部隊の一人を犠牲にする。
なんです。そして発動する効果は…」
「部隊を強制的に帰還させる。か。」
俺が割り込むとデモントは、少し申し訳なさそうにコクリと頷いた。
「その際に、装備品はすべて現地に取り残されてしまうというデメリットもありますが、今後どんどん厳しくなる迷宮探索において、これほど有意義なシステムはないでしょう」
たしかに。S級部隊を全員生還させるためにF級を1人犠牲にすればいいだけ。というのはなんと費用対効果のいいシステムなのだろう、とは思わなくもない。
だが、置き去りにされた俺たちとしてはいいシステムですね。と頷く気にはならなかった。
「これがS級の特殊システムと呼ばれるものの全容です」
デモントは自分は手札を切ったとでも言いたげに両の手を広げて見せた。
そして俺を鋭い眼で見て
「今度はそちらの番ですよ」
俺は促されるように知ってることを話す。
「俺が得たF級の特殊システムは『相棒と踊れ』」
真剣な表情で聞くデモント
「システム解放条件はうろ覚えで悪いが
・40階層到達
・F級が2名いること
・ダンジョンでの活動期間が10年であること。
そして・『魔物暴走』状態であること。だったと思う」
それを聞くと目を見開くデモント
「すごい。厳しい条件ですな。F級で10年?失礼ですがアジェンドさんは…?」
俺は苦虫を潰したような顔で
「12年目だ」
それを聞いてさらに驚くデモント。
「すごいですね。1年続かない者が多いF級で‥‥おっと、話の腰をおりましたな。それで?|
『相棒と踊れ』《バディリンクシステム》でしたかな?その効果と発動条件を」
そう話の続きを促される。
俺は気を取り直して
「条件は確証はないが相棒、つまりF級が一緒のこと。
たぶんそれだけだ。
そして効果だが…これはまだ確定とは言えない。
俺もよくわかってないという前提で聞いてくれ。
まず、能力の飛躍的向上。
F級の俺たちが単独で41階層の魔物をなで斬りにできるレベルのでの向上だ」
これにはさすがのデモントは驚くを通り越して呆然としていた。
「ど、どういう原…」
質問しようとしたデモントを遮り
「原理もなにもわかっていない。と言ってるだろう?とにかく起こったことから推測して話している。と理解してくれると助かる」
そう言うとデモントはコクリと頷いた。
俺はまた話出す
「そして意識の同調、というかこれは相棒を指定して行われるシステムのようで、まぁその時はこのメーリィしかいなかったから彼女が対象となったわけだが…意思疎通がスムーズ‥‥。なんといったらいいのかな…・」
俺は言葉に困りメーリィを見る。
彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。
それを見たデモントは
「ぁぁ、なんとく今のでわかりましたよ。それの強化版ってことでいいんですね?」
逆に俺は何を言っているのかわからなかったがメーリィが大きく頷いた。
「なるほど。それだけですか?」
デモントは話を進める。
「それと薬瓶を使ったら彼女もその効果を受けていると感じたらしい」
「ふむ。先ほどの同調と同じように、肉体的にも同調するのですかな?怪我などは?」
そう言われて、その時怪我をしなかったことを思い出し
「怪我は負ってないから分からないな。もしかしたら共有するのかもしれない」
そう返事をすると、デモントは
「‥‥F級なのに41階層で怪我すら追わないか。すごいですね。それだけですか?」
おれは頷き
「ああ、効果と呼べるのを確認できたのはそれくらいだ。…ただ、たぶん代償があって、システム停止後、俺たち二人とも意識を失って5日間、動けなかった」
その話に素早く食いつくデモント
「ほぅ。それは迷宮から戻ってすぐですか?」
「いいや、家までは帰り着いた。そのとたんの話だった」
俺がそう告げるとデモントがさらに質問をする。
「ふむ。つまり地上に戻ってもしばらくはシステムは動いていたのですね?動けない、とはどれくらいの感じなんですか?全く動けない?意識がない?」
まくしたてるように質問をしてくるデモント。
俺はやや押され気味に
「システムは戻ってきてもしばらくは機能してたと思う。動けなかったのは俺は2日ほどだったが完治までは4日ほどかかった。メーリィの方がひどくて4日は動けなかった」
デモントは深く考えているようだった。
「これはいろいろ試してみる気はあるのですか?」
厳しい眼で俺を見る。
「そのつもりだ。詳細がわからなければ他の者に教えることができないからな」
デモントは大きく息を吐き天井を見上げる。
「にわかに信じがたい話ですなぁ。とりあえず目で見てみないと」
突然、俺をの方に向き直り
「システムはいつでも起動できるのですか?」
そう聞かれて
俺は即答に困る。
「一応使えそうではあるが…今すぐか?」
そう言うと
「ええ、いますぐ。そうですね。すぐやれるのなら錬闘場を使うというのはどうでしょう?相手もこちらで用意しますから」
俺は少し悩み
「後日ではダメかな?俺も少し試してみてからでないと不安で‥‥」
そう言うとデモントが実に残念そうな顔をして
「う~~~ん。一部始終を私が解明したいのですがねぇ…。まぁいいでしょう。こちらも準備をしなければならないですからな。相手はそうですね…C級クラスの者でよろしいですかな?」
そう言われて
「…そうですね。そのあたりで。腕の立つ者をお願いします」
デモントはすごく嬉しそうに
「これは楽しみになってきました。あなたの言う通りなら革新的ですよ。今のランク制はぶち壊れますな」
少し興奮気味にそう言い
「あとは…それが真実かどうかを見せてもらうだけですね」
そう言って鋭い眼で俺を見た。