80 エピローグ
ここまでお読みいただきましてありがとうございました。
あれから2か月。
ついに『鋼の戦線』の解散手続きが終わった。
俺の元には未支給だった退職金が支払われた。
具体的な金額は言えないがひと財産になるまとまった金額であることは間違いない。
これはありがたく俺の老後の蓄えにさせてもらおう。
クランの解散手続きにより『鋼の戦線』のクランハウスが空くことになった。
このクランハウスは、ケインとヴィクトールの二人が新しく作るクランのクランハウスになるらしい。
そして清算手続きでは『鋼の戦線』のクラン名も競売に掛けられケインとヴィクトールが共同で落札した。
既に落ち目であったこのクランの名前を他に欲しがる奴は流石にいなかったようで開始価格で落札できたとケインとヴィクトールが複雑な表情で話していた。
「それで結局、ガルムの奴は奴隷落ちか」
俺は今週号の『週刊冒険者タイムズ』を読んでそう呟いた。
記事によると当初魔道コンピューターを売却することで流用された積立金の補填をする予定だったのだが、最近ガルムが雇った事務職の退職金として現物支給されることになったため、それができなかったということだ。
何でも雇用契約書に退職時の条件として件の魔道コンピューターの譲渡条項が入っていたらしい。
入ったばかりの奴の退職金としてそんな高額な物を渡すことを認めるなんて、ろくに契約書を読んでいなかったんだろう。
その結果、ガルムの私有財産全てをかき集めても流用された積立金の補填には足りなかったとのことだ。
結局ガルムは無一文になるだけでは済まず、借金奴隷として売られることになった。
一応『元』高ランクの冒険者だ。
危険地帯で奴隷として魔物と戦わせるのであればこれほど適当な人材はいないだろう。
「おーい、おっさん。冒険者ギルドにいくぞ!」
「おう、ちょっと待ってくれ」
俺は読んでいた『週刊冒険者タイムズ』をテーブルの上に置くとみんなが待っていた玄関へと向かった。
今日はうちのパーティーのみんなと一緒に冒険者ギルドへ行く予定だ。
何をするかって?
以前棚上げになっていた俺が冒険者になるかどうかという話だが話し合いの結果、俺は冒険者登録することになり、ついに冒険者としてデビューすることになったんだ。
30ウン歳で冒険者デビューだぜ?
勿論、事務職と兼業で引き続き俺がこのパーティーの事務全般をすることは変わりない。
さあ、これからますます忙しくなりそうだ!
俺たちはみんな揃って玄関から外へと飛び出した。
俺たちの戦いはこれからだ!
(完)
あれっ?
そろそろエンディングでスタッフロールが流れるんじゃないの?
何とか先生の次回作にご期待下さいとか出るんだろ?
もう1回か?
「俺たちの戦いはこれからだー!」
今度は声を大にして叫んでみた。
おかしい、エンディングにいかないぞ……。
「おーい、おっさん、何してんだよ。早くいくぞ~」
「おうっ、ちょっと待ってくれ」
仕方ない、取り敢えず冒険者ギルドに行こう。
きっと、そこで冒険者登録したらエンディングだろう。
「ということで冒険者登録に来ました」
「えっ、トミーさんがですか?」
なじみの受付嬢のカレンちゃんが目をぱちくりさせて俺の顔を見た。
おおうっ、長年顔を合わせてきたがそんな顔をするんだなっていう驚きマックスの表情だ。
俺は備え付けの冒険者登録申込書にマジックペン(極細)でさらさらと必要事項を記載するとカレンちゃんに手渡した。
「あのっ、トミーさん、大変申し上げにくいんですけど……」
「ん、何? どこか間違って書いたところがあった?」
そんなに間違えそうなところはないと思うが俺も舞い上がって間違えてしまったのだろうか?
ははっ、これは失敬。
「申し訳ありませんがこれを受け付けることはできません」
「はっ?」
えっ、何で?
いったい何が悪いの?
はっ! まさか俺が童貞だからか!?
「あの、ご存知ありませんか? 冒険者の初回登録については年齢制限がありまして30歳以下というギルドの規則が……」
何だその『おっさん排除条項』は!
不当な『おっさん』差別じゃないかっ!
訴えてやるっ!
「おい、どうしたどうした?」
「あっ、ギルドマスター。実はトミーさんが……」
窓口でのひと悶着を聞きつけてギルドマスターのウォーレンさんがやってきた。
なんでも話によると以前、冒険者ギルドでは、お金に困った30過ぎのおっさんが人生の一発逆転を狙って冒険者に登録することがしばしばあったらしい。
しかし、体力の衰えたスブの素人がいきなり冒険者になって成功するはずもなく、焦って無謀なクエストを受けるだのなんだのでそのことごとくが無残な最期を遂げたということだ。
それは、その本人の問題というだけに留まらず、ギルドにも悪影響が生じたとかで、登録時の年齢制限ができたらしい。
ただ、この規則には続きがあって『ただし、ギルドマスターの許可を受けた者はこの限りではない』という文言があるそうだ。
これは元騎士で退役した御仁が冒険者になることがあり、そういう有意な人材を冒険者として活用できるようにということだった。
俺は、ギルドマスターに『一応ここだけの話』ということで、俺のアーティファクトについての説明をして、『ヒーラー』としての有意な能力があることを実演することで何とか許可をもらうことができた。
ああ良かった。
いくら俺が事務の専門とはいってもこれまで冒険者になろうだなんて思ってもいなかったし、冒険者資格についてあまり確認するようなこともなかったからな。
何事も慢心しては駄目だということだ。
俺はこうして何とか冒険者になり、その後いろいろあって『最強の補助職』とまで呼ばれるようになった。
そして俺たち『華乙女団』はAランクパーティーへと駆け上がることになるのだがそれはまた別のお話。
【完結御礼】
本作(本編)はこれにて完結となります。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
本編は完結とさせていただきますが、後日談などの構想もありますので、よろしければブックマークはしばらくそのままにしていただけますと幸いです。
エタらずここまでくることができました。
これもひとえに、本作を読んでいただき、また、ブックマーク・評価によって応援していただきました皆様のおかげです。
応援いただきまして大変励みになりました。
心から御礼申し上げます。
本作は、皆様から応援をいただき、ありがたくも長い間ランキングに載せていただきました。
そのおかげで本作は多くの方の目に留まり、毎日多くの方に読んでいただくことができました。
作者冥利に尽きます。
本当にありがとうございました。
まだ評価をしていただいていない皆様。
評価について上方修正をしていただける皆様。
是非、下の☆を★に変えていただけましたら喜びます。
ひとつご祝儀をお願い致します。
本作についていろいろと書きたいことはあるのですがここに書きますと興が削がれますので活動報告に書こうと思います。
お時間のある方は覗いてみて下さい。