8 おっさん事情を知る
ブックマーク・評価をいただきました皆様ありがとうございました。
「じゃあ朝食を食べようよ。早く食べないと冷めちゃうよ」
「うん、ご飯は大事」
お互いの自己紹介も終わりアンジェの言葉にエルフっ子のサーシャが賛同した。
「「「「「いただきま~す」」」」」
今日の朝ごはんはベーコンエッグにまるっこいパン、それにくず野菜が入ったスープ。
栄養バランスも考えられた献立だ。
俺は食事をしながらさっきのみんなの態度について褒めることにした。
パーティーメンバー同士の関係を深めるコツはいいことはいいと、とにかく褒めることだ。
「それにしてもみんな、事務仕事の大変なところをわかってくれてるんだな。その歳でそこまで理解してもらえるなんておじさんは嬉しいぞ」
「いや、まあ、だってな」
「はい、まあ、こちらもいろいろとありまして」
「???」
俺がユリアとアンジェのやり取りに首をかしげていると「その話は食事の後にゆっくりと」ということでまずは食事を楽しむことになった。
「ここが一応、このパーティーの事務室です」
朝食後にアンジェに連れて来られたのはパーティーハウスの1階にあるとある部屋だった。
部屋は6畳くらいの広さで部屋の中にはそこそこ大きな事務机が置かれている。
そしてその上には何やら書類らしき紙が乱雑に置かれていて床にも散乱していた。
俺はそれを一枚拾い上げてみると「うっ」と詰まった。
「……これは何だ?」
書類に何かが書かれてはいるのだがそれはミミズがのたくったようなものが羅列されているようにしか見えない。
一応、字のようだったためかろうじて読めるものは読んではみた。
しかし、誤字、脱字が多く、中身も文章の体をなしていない。
「ううっ、一応報告書のつもりなんだけど……」
「報告書? これが?」
子どもの文字の書き取り練習でももう少し上手だと思うレベルだ。
「それでこれがどうかしたのか?」
「なかなか書けないし、何とか書いても突き返されちゃうんだ……」
冒険者は単にクエストをこなせばいいわけではない。
クエストをこなして魔石や素材を収めさえすればいいとか思っている者もいるかもしれないが、それは古きよき時代の昔の話だ。
今や冒険者もクエストの受注や達成の都度、ギルドできちんとした手続きをとる必要がある。
それには書類のやり取りが必要不可欠だ。
「だったら以前はどうしてたんだ?」
「ボクたち、最近Cランクになったばかりなんだ。以前はDランクだったから」
ああ、特例冒険者ね。
入門のEランク、半人前のDランクのパーティーに厳格な手続きを課してしまうと冒険者のなり手がなくなるし、費用対効果でも大変だろうということで『特例冒険者』という制度がある。
その場合、報告や税務申告は極めて簡易的なものでいいということになっている。
しかも冒険者ギルドの支部にもよるがある程度、無償もしくは格安で代行してくれるところもある。
このレベルの冒険者がもたらす情報はギルドからしてもたかが知れているし、お役所としてもそこまで儲けの出ない半人前どもに納税を期待していないということなんだろう。
一応は対外的にきちんとやっていますというアピールと、今後Cランク以上になったときにそれまで何もする必要がなかったものからいきなり厳格にしてしまうとギャップが大きくなるのを防ぐという意味もあるらしい。
Dランク以下は半人前ゆえに、ある意味こうした緩い救済制度に助けられている。
しかし、Cランク、つまり一人前の冒険者パーティーとなればそうはいかない。
一人前という立場に見当ったそれ相応の義務・責任が発生する。
報告や税務申告は通常申告となり、書式もきちんとしたものを使うことが求められる。
報告の頻度も以前よりも頻繁にしなければならないし、内容についても中身のあるものが求められる。
「それでCランクになったとたん、そのギャップで苦労しているということか」
「うん、うちのパーティーでも事務の人を雇おうって話になってて、でもなかなかいい人が見つからなくて。それでどうしようかって話をしてたらおじさんがいたって話なんだけど」
何という運命のいたずら!
やっぱり日頃の行いだろうな。そうだよな! なっ!
神様、ありがとうございます。
今度教会に行ったときにはお布施を少し増やしときます!
俺は神に感謝した。
読んでいただきありがとうございます。
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