79 おっさん気付く
「おーい、おっさん。『冒険者タイムズ』の号外が出てるぜ」
「ふ~ん、今回は何の記事だ?」
俺がパーティーハウスの食堂で食後の一服をしているとユリアが声を掛けてきた。
俺は『冒険者タイムズ』を受け取ると、目を通して絶句した。
――元Sランククラン『鋼の戦線』に解散命令!
その記事は俺にとって衝撃だった。
結局、王国監査室の強制捜査により、『鋼の戦線』の構成員のために積み立てられていた退職金の未支給及びクランマスターであるガルムによる流用が判明した。
その流用された積立金の穴埋めをするため、ガルムの私有財産は直ちに監査室によって差押えられた。
さらに今回、ガルムが監査室に対して虚偽の報告をした罰として高額の罰金も科されるという。
一部ガルムが私的に流用した積立金についてはガルム自身の退職金の積立分もあったことから、それをガルム自身が使ったという扱いとなるようだ。
今回の資金流用で高額な最新の魔道コンピューターも購入していたらしく、これを売却することでガルムの資産全てと合わせて何とか資金流用分の穴埋めができるのではないかというのがその記事の内容だった。
ただ、それはそれとして先日の不祥事に続き今回の問題が起こったということで、冒険者ギルドはついにクランに対する解散命令に踏み切ることになったとのことだ。
既にクランの清算管理人が選任されて解散手続きが始まっているらしい。
「おじさん、おじさんにお客さんだよ」
俺が冒険者タイムズを読み終わる頃、アンジェにそう声を掛けられた。
「客?」
アンジェの感じからケインやヴィクトールではなさそうだ。
わざわざ家にまで来るような知人の心当たりもないが、まあ、いい。
行けばわかるだろう。
「急な来訪申し訳ありません」
玄関に出ると若い男がいた。
名前は知らない。
おそらく初めて会う。
はじめて?
本当に?
ちょっと待て!
どこだ?
どこかで見たことがあるような……。
「ああ、名乗らず申し訳ありません。私は王国監査室のライアスと申します。今日はトミーさんに書類のお渡しに参りました」
「書類?」
「ええ、トミーさんが以前お勤めだった『鋼の戦線』というクランに関してなのですが、本来トミーさんがお受け取りになるはずの退職金が支払われていませんでした。現在、このクランについて解散及びそれに伴う清算手続きが行われていまして」
「ああ、冒険者タイムズの記事にあったやつだな」
「でしたら話が早い。今後流用された積立金の回収が行われ、その後配当という手続きに入ります。トミーさんに関しては今日お届けの書類をそのまま債権届として出していただければあとはこちらで配当致します。この書類に署名だけしていただければと思いまして」
俺はライアスと名乗る男が持ってきた書類に目を通した。
「俺の退職金、こんなにあったのか……」
「確か10年以上お勤めだったとか。それに加えて先代のクランマスターはトミーさんについてはかなり多めに積立をされていたようですね」
たしかにあの人は、事務職に過ぎなかった俺の将来を特に心配してくれていた。
俺の給料が少なかったのは積立分に多く回してくれていたからかもしれないな。
俺は書類の内容に問題がないことを確認し、署名するとそのままライアスに渡した。
「はい、確かにいただきました。清算手続きは1か月はかかるでしょうから配当までだいたい2か月ほどお待ちいただければと」
それにしても、この男、やはりどこかで見たことがある。
いったいどこで見たんだろうか?
俺は、う~ん、と過去の記憶を掘り起こしたがやはりよくわからなかった。
「では、私はこれで失礼しますね。あっ、そうそう、機会がありましたらまた一緒に飲みましょう」
あっ!
思い出したっ!
この男、酒場で前に一緒に飲んだことがある奴だ。
間違いなく俺がクランをクビになった日の酒場でカウンターの隣にいた男だ。
その後も確か顔を見掛けて話をしたことがあったはずだ。
「改めまして。先日は、捜査へのご協力、ありがとうございました。いろいろとお話をしていただいて大変助かりました」
男は口元に笑みを浮かべて俺に対して慇懃に一礼すると、そう言い残して足早に俺の前から去っていった。
まあ、恐らくこの男はもう二度と俺の目の前に現れることはないだろう。
俺の勘がそう告げていた。
【次回予告】
次話で完結です。
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是非一度お試し下さい。
追放ざまぁものではありませんが本作が合った方には親和性が高い作風のつもりです。