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78 そのころの古巣15

 ※ 第三者視点です


「くそっ、何でこんなことにっ!」



 かつてこの街に君臨していた「元」Sランククラン、今ではCランククランに成り下がった『鋼の戦線』のクランハウス。


 そのマスタールームでガルムはそう怒鳴り散らした。


 新たに加入したばかりだったBランクパーティーからは既にクラン脱退の意思が示されている。

 

 ガルムのパーティーのメンバーはフレンドリーファイヤーによる身体への致命的な被害は免れたが、元々ガルムの子飼いだったダニーパーティーのメンバーは未だ病院のベッドの上だ。


 賠償金や入院費用でクランの会計は火の車だ。


 そうなると五体満足の自分たちがクエストを受けてクランを回さなければならない。


 しかし、今回の不祥事でガルムのパーティーはDランクに降格となっている。


 Dランクのパーティーが受けることができるのはDランクのクエストと一つ上のCランクのクエストまでだ。 


 ガルムの本心としては今さらCランクやDランクのクエストをちまちまこなすということはあり得ない。


 しかし、だからといってギルドの規定上どうしようもないというのが現状だ。




 高ランク案件を受けるためにクランを解散して新たに別のクランに入ること、パーティー自体を解散して別のパーティーに入れてもらうことも理屈の上はできなくはない。


 しかし、現実には不可能だ。


 今回ガルムのしたことはこの街の冒険者たちに衝撃を与えるものだった。


 元々『鋼の戦線』は御三家と呼ばれるほどの名門クランだ。


 良くも悪くも冒険者の注目を集めていたクランだった。


 そんなクランをクランマスターとなってわずかな期間で窮地に追いやる者を抱える物好きはいない。


 それに加えて元々ガルム個人はクランマスターになる以前から他の冒険者たちを見下みくだす言動をしていたことで周囲の評判はすこぶる悪いものだった。


 今回のことでガルムに対して溜飲を下げた者は実際のところかなりの数に上る。


 そんな彼に手を差し伸べる者は当然のようにいなかった。






「Cランクのクエストですね。承りました」


 ガルムがギルドで受任手続きをしているのを他のパーティーの冒険者たちが白けた目で見ていた。


「おいおい、こいつらよくまだこの街にいられるよな。恥というものを知らないのかよ」


「さすがは天下の鋼様はがねさまだ。つらの厚さも鋼級はがねきゅうだな」


「で、受けるのはCランククエストか。独占できない案件を必死だな」


「だったらうちも同じのを受けるか、まあ、そのせいでカチ合ったら早い者勝ちだし恨むなよな」



 以前にガルムから見下した言動をされていた他の冒険者たちがわざと聞こえるような声で話をしていた。


 これは一部の冒険者だけというわけではない。


「鋼じゃなくて、最早『銅』だな。『()の戦線』だ」


「ちがいねぇ。『銅線』だな」


「ははっ、簡単に曲がりそうだな」


 そんな蔑む声がそこかしこで聞こえた。


 しかし、そんな扱いを受けてもなおガルムは諦めていなかった。



(くっそぉ~、直ぐにSランクに返り咲いてやるからな! 見てろよ!)



 ガルムは受任手続を終えると直ぐにクランハウスへと戻った。


 そして、自分たちのパーティーのメンバーを集めるとそのメンバーを前にこう言った。


「俺たちはSランクのクランだ。その実力は十分にある。直ぐにもSランクに戻ってやろうぜ!」



 ―-ガルムがそう檄を飛ばし、パーティーの一体感を高めようとしたちょうどその時



「失礼、おじゃましますよ」


 抑揚のない平淡な声で一人の若い男がクランハウスに入ってきた。


「ああっ? 何だお前! いったい何の用だ!」


 いいところで水を差してきた見ず知らずの男にガルムは怒りの声を上げた。


「王国監査室の者です、今からこのクラン『鋼の戦線』のクランハウスを強制捜査します。全員動かないで下さいね」


 男はそう言うと、ぺらっとした1枚紙をガルムの目の前に提示した。


 その刹那、男の背後からメタルプレートの鎧で全身を固めた屈強そうな騎士たちが一斉になだれ込んできた。


「うわっ、何なんだお前らは!」


 さしもの高ランク冒険者とはいえ、準備万端整えた上級騎士に奇襲されてしまえば抵抗のしようがなかった。


「抵抗しないでくださいね。抵抗すると監査妨害で拘束しますよ?」


「わっ、わかった! 抵抗しない、それは約束しよう」


 ガルムはそういって男に対して両手を挙げた。






「では、確認させてもらいましょう。このクランには通常会計の他に特別会計があるはずです。王国への届け出にあるとおりの積立金が保管されているかを確認させていただきましょう」


「特別会計? 積立金?」


「おや、クランマスターともあろうお方が何をおっしゃっているんでしょう? このクランでは先代クランマスターの時代に構成員の退職金の積み立てをしているとの申告になっていますよ。その積立金分、税金が安くなっていたわけですからね。当然、あるはずですよね? 積立金」


 まとまった金と聞いてガルムは青くなった。


 自分がクランマスターとなり、通常の資産とは別に区分けのわからないまとまった金が確かに金庫の中にあった。

 しかし、それらは魔道コンピューターの購入の他、その他諸々に使い切ってしまっていた。


 そしてその一部は自分たちの飲食代や遊興費にも使っていた。



「どうしました? まさか、ない、わけないですよね? それとも退職金の支払いにもう使われたのですかね?」


 このクランから退職した者。


 ここ最近は、トミーを追放してからケインパーティーやヴィクトールパーティーのメンバーが軒並み退職したという扱いとなっている。


 そうだ、トミーの退職金として支払ったことにすればいい、トミーにであれば後で何とでも辻褄を合わせることができる。


 ガルムはそう思ってしまった。


 安易にも。


「そっ、そうだっ、トミーに、トミーの奴の退職金にほとんど払っちまった。あいつは使えない事務職だからよ。うちを出て行ったら雇ってくれるようなとこはないだろうからな。十分な退職金を払ってやらねーと生きていけなかっただろうしな」


「ほうっ、それではそのトミー氏が退職するときに全て支払いをしたと」


「ああ、そうだ。あいつがこのクランを辞めるときにな」


「それは退職当日、ということでよろしいか?」


「ああ、そうだ。そもそも退職してからあいつがうちに来たことはねーからな。退職したその日にだ」


「そうですか。それは残念です」


「ああ、そういうことだ。そういうことで今、このクランには積立金がないってことだ」


 ガルムは気落ちした表情を浮かべる目の前の若い男の顔を見て内心ほくそ笑んだ。


「残念です。騎士のみなさん、この男は虚偽の申告をしました。直ちに検挙して下さい」


「なっ、なにっ! 検挙だとっ! 俺が嘘を言ったって何の証拠があるんだ?」


「証拠? ありますよ。だってトミー氏には1ゼニーも支払われていないことは既に調査済みですからね」


 この日、「元」Sランククラン『鋼の戦線』の命脈はこうして尽きた。

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 「新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい」

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 是非一度お試し下さい。

 

 追放ざまぁものではありませんが本作が合った方には親和性が高い作風のつもりです。

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 新作始めました。  是非お試し下さい。  

新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい
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