76 おっさんそのときを迎える
――レイアと別れた翌々日
「おっさん、おっさん! これ見ろよ!」
この街周辺の冒険者の情報を扱う新聞『週刊冒険者タイムズ』の号外を手にしてユリアが俺の部屋に飛び込んできた。
記事には、俺の古巣であるSランククラン『鋼の戦線』が3ランクもの降格処分となり、その結果Cランククランになったことが報道されていた。
「……何をやったらクランランクがいきなり3ランクも降格になるんだ?」
長年冒険者業界にいる俺としてもそんな話は聞いたことがない。
不祥事の場合は通常1ランク降格、よほどのことでも2ランク降格となるかどうかだ。
それが3ランクも降格となればもはや前代未聞の珍事である。
「え~と、無許可でダンジョン探索をし、他のパーティーへの攻略妨害、それから……」
「それだけで3ランクも降格になるのか? ちょっと見せてくれよ」
俺はそう言ってユリアから号外を受け取ると、詳細にまで目をとおした。
「ふ~」
俺は大きくため息をつくと部屋の端に置かれているベッドにどかっと腰を下ろした。
あまりにもあまりな内容に俺は頭痛がした。
「おいおい、おっさん。どうしたんだよ。もっと喜べよ、ここはおっさんを追い出したところなんだろう?」
「いや、まあ、な。ただこのクランは元々俺の恩人に当たる人が作ったクランなんだ。後釜がアホだっただけで、ちょっと複雑なんだよ。まあ、俺としては追い出されたおかげでこうしてユリアたちと一緒にいられるわけだし、今にして思えば逆に感謝してるくらいだよ」
「か~、おっさん、人が良すぎだろ。まあ、そんなおっさんだからあたしたちは……」
目の前でユリアが急にモジモジし始めた。
トイレにでも行きたいんだろうか?
まあ、それにしてもダンジョンへの無許可探索をした挙句に独占探索許可を受けていたパーティーの殲滅戦の流れ弾に被弾するなんて相当の運の悪さとしかいいようがない。
その結果、独占探索許可を受けていたパーティーはダンジョン攻略を中止せざるを得なったとのことだ。
しかも、そのパーティー。
他の街から遠征に来ていて、しかもSランク冒険者にヘルプの依頼をしてのガチ攻略だったというから被害も甚大だという。
結局は、『鋼の戦線』が被害者パーティーに莫大な賠償金を支払うということで示談が成立してその結果を受けて冒険者ギルドから『鋼の戦線』への処分が出たという経緯らしい。
他の街の冒険者が絡む以上、なあなあの処分では済まされない。
しかも『鋼の戦線』はこの街周辺では冒険者の顔ともなるクランだ。
そんなところがこんなとんでもないことをやらかせば、周囲へのけじめとして生半可な処分で済ませるわけにはいかないだろう。
「それで3ランクの降格か……」
もしも賠償金が支払えず、示談が成立しなかったとしらこんな処分じゃ済まなかっただろう。
それからこの街の冒険者ギルドの監督責任も問題になるところだったらしいが、どうやらそれは回避されるようだ。
被害者側のパーティーは、悪いのはあくまでもクラン単独であり、この街の冒険者ギルドの指導・監督自体には落ち度はないと言ってくれているらしい。王都の冒険者ギルド本部にもこの街のギルドが処分されないよう、嘆願書を出してくれたとのことだ。
まあ、普通、まさかSランクのクランがダンジョンの無許可探索をやるだなんて思わないだろうしな。
で、結局、無許可でダンジョン探索をしていてフレンドリーファイヤーに遭った『鋼の戦線』はガルムの部下であるダニーがリーダーをしていたパーティーは全員が入院中でうち3人がかなりの重傷、新たにパーティーに加わったBランクパーティーは5人中、3人が入院中とのことだ。
ガルムがリーダーのパーティーは魔法具のおかげで大怪我はなかったようだが、直後にそれなりの救護は必要だったらしい。かなり高価な魔道具もことごとく粉砕してとんでもない損失だとか。これは運がいいというべきか、それとも悪いというべきか。
ちなみに新たに加わったBランクパーティーは『鋼の戦線』を離脱することになったとのことだがそりゃまあ、当たり前だろう。
「おーい、トミー、いるか~」
玄関から俺を呼ぶ声がする。
この声はケインだな。
「おー、今行くから待ってくれ」
俺は部屋の窓から外に向かってそう声を掛けた。
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追放ざまぁものではありませんが本作が合った方には親和性が高い作風のつもりです。