7 おっさん事故紹介する
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「じゃあ、最後におじさんね」
「うん? ああそうだな」
みんなの自己紹介が終わるとアンジェに指名されて俺は椅子から立ち上がった。
TPOをわきまえるのが大人の男というものだ。
いつもはふざけている感じでも決めるときは決める、これがコツだ。
「名前はトミーといいます。昨日までSランククラン『鋼の戦線』で事務職をしていました。いろいろありまして辞めることになったのですが、特に不正や問題行動をしてのものではありませんのでご安心下さい。事務全般できます。よろしくお願いします」
俺はぺこりとお辞儀をして席に座る。
「Sランククランの『鋼の戦線』って御三家でしょ? そんなすごいところの事務だったんだ~。でもそんないいところ、どうして辞めちゃったの? わたしたちが雇って、やっぱりあとで戻って来いって言われない?」
あー、やっぱりそう思うよな~。
俺の古巣は『鋼の戦線』というそこらの冒険者でもみんな知ってる超有名どころだ。
自慢じゃないが、この街周辺ではトップスリーに入る名門クランで俗に御三家と呼ばれている。
「ああ、まあ、辞めたというよりも恥ずかしい話、辞めさせられたというか追い出されたというか……」
俺は一応こういう理由で辞めさせられたんだ、という説明として昨日のクランマスターとのやり取りをみんなに言って聞かせた。
「何それ! ひどい! そんなことってないよ!」
「そうですわね。ちょっと横暴というか何と言うか、まったくなっていませんわね」
「あー多分、その人、現場しかしてない現場畑の人なんだろ? 事務仕事がどれだけ大変かわかってないんだろうな」
アンジェ、ルージュ、ユリアがそう言って俺に同情してくれる。
みんな何て良い娘たちなんだ。
俺も結婚して娘ができたらこういう娘に育てたいな。
まあ、まず嫁さん探さないといけないけどな。
「じゃあ、おじさん、もう戻ることはないよね」
「ああ、いえ、はい。俺にも意地がありますから」
「もうっ、おじさん、そんな畏まった口調しなくていいよっ!」
「いや、でも一応雇い主なわけだし……」
アンジェは会社でいったら社長のようなものだ。
平社員がタメ口で話しては格好がつかないだろう。
「じゃあ、パーティーリーダーとして命令。おじさんはわたしたちに一切敬語は不要。ざっくばらんに話すこと!」
「わかりました、いや、わかった。これでいいか?」
「うん。じゃあ、改めてよろしくねっ、おじさんっ!」
アンジェがそう言ったところで改めてみんなから「よろしく~」と言われた。
「はいは~い。じゃあ、そんなおじさんに質問で~す」
一段落ついたところでアンジェが元気に声を掛けてきた。
俺の古巣の話でしんみりしてしまった空気を吹き飛ばすいい元気だ。
こういうところでこのパーティーのリーダーを任されているのだろう。
いいぞ、受けて立つ。
俺は鷹揚に『よかろう』と頷きを返した。
「おじさんは奥さんとかお子さんは、いないんですか?」
――ぐさっ
おっさんに999のダメージ!
おっさんは精神的に死んだ……。
「お~い、おっさん? 生きてるか~」
「どうやらその質問はしてはだめなもののようですわね」
「(コクコク)」
こうして一つの事故によりパーティーメンバーたちには一つ俺のことを知ってもらうことができた。