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69 そのころの古巣14

 ※ 第三者視点です

 冒険者ギルドのマスタールーム。


 その部屋のあるじであるウォーレンは執務椅子の背もたれに身体を預け、目を瞑むったまま苦虫を噛み潰したような表情で腕組みをしている。


 執務机の前にはこの街が誇るSランククラン『鋼の戦線』のクランマスターであるガルムの姿があった。


「おい、ギルマス! 話があるなら早くしてくれ。こっちは被害者なんだ、話がないなら早く解放してくれ」


 ガルムたち『鋼の戦線』はAランクダンジョン『嘆きの谷』の7階層、ボス部屋近くに到達したところ、突如背後から大規模魔法の被害に遭った。


 ガルムがリーダーを務めるパーティーは、ボス部屋前のもっとも奥まった場所にいたこと、それに加えて対魔障壁を展開する魔法具マジックアイテムを装備していた他、致命傷レベルの攻撃を受けたときに身代わりとなる魔法具マジックアイテムを所持していたことから身体への致命的な被害は免れることができた。

 

 しかし、いずれの魔法具マジックアイテムも役目を終えたとばかりに粉々に砕け散った。


 この種の魔法具マジックアイテムは大変高価であり、この経済的被害だけでもかなりのものだ。


 ガルムパーティー以外の者たちは十分な魔法具マジックアイテムを所持していなかったため、甚大な身体的被害を受けることになった。


 特に殿しんがりをしていたダニーパーティーはより『火元』に近い場所にいたためその被害は甚大であった。


「被害者……か。本当にそうだとしたらどんなにかよかっただろうな」


「……いったいどういうことだ?」


 まるで自分たちが被害者ではないかのような物言いにガルムは首を傾げた。


「お前、本当にわからないのか? いいだろう。じゃあ、ギルド発行のダンジョン探索許可証を出してもらおうか」


「ああ、それなら……」


 そう言いかけてガルムは動きを止めた。


 いや、止めざるを得なかった。


 ダンジョンに入る際には冒険者ギルドに探索許可願いを出し、ギルドから探索許可を得てからダンジョンに入る。


 これは冒険者であれば誰もが知っている冒険者として当たり前の規則ルールだ。


 たまに本当に初心者のEランクパーティーが手続きを怠ってギルドから大目玉を食らうことはギルドの風物詩だ。


 しかし、大抵は実害がないので笑い話で済む。


 こと『鋼の戦線』では冒険者ギルドが絡む事務手続きは長年ひとりの男が担ってきた。


 この男がクランにいる間は、クランに所属するあるパーティーが「ダンジョンに潜るぞ」と言えば、次の日にはギルドからの許可証がいつの間にか手元に置かれていた。


 そしてそのパーティーは何の疑問も持たずにダンジョン探索を行っていた。


 しかし、()()()は既に『鋼の戦線』にはいない。


 誰かが追放してしまったからだ。


 ガルムを補佐していたダニーはある程度の事務仕事を担っていたが、ガルムが今回のダンジョンアタックを決めた時点ではまだ病院のベッドの上だった。


 当然のことながら今回の許可手続きに絡んだことはない。


 直前にガルムが雇い入れたクリストフには魔道コンピューターを使って報告書を作成する業務の指示はしたが、それ以外は何も教えていない。

 おそらくダンジョン探索に許可がいるという規則ルールすら知らないだろう。


 目の前のギルドマスターが言いたいことを理解したガルムは自分たちのした信じられないミスに顔色を青くした。


「しっ、しかし、無許可探索だからって俺たちが被害者であることには変わらないだろう!」


 ただでは自分たちの非は認めない。


 ガルムはそう言って自分たちの正当化をはかろうとした。


 しかし、目の前の男はこともなげにそれを否定する。


「今回、うちが探索許可を出した先はたった1つだけだ。それも『独占探索許可』だ。この意味はお前でもわかるよな?」


「!?」



 ――独占探索許可



 要はギルドが『唯一』そのダンジョンを探索する許可を与えたという意味である。


 しかし、こと高ランク冒険者に対して示す本当の意味はそれ以外にある。




 このダンジョンには他の冒険者はいない。


 つまり、周囲への力の行使にあたって一切の遠慮は不要である。


 そして、万が一、その場に許可を得ていなかった者がいかなる理由によりそこにいたとしても、その者への被害について非を問うことは一切ない。




 これにはそういう意味が含まれている。


「だから、お前らが被害者になるということは万に一つもねぇ。それどころか、被害者はあちらさんだ。今回お前らをやったのがどういう連中か、お前わかってんのか?」


「……いや、知らないな。他の御三家の連中か?」


 ウォーレンは「ハハハ」と乾いた笑い声をあげ、「だとしたらどんなによかっただろうな」とぽつりとつぶやいた。


「お前らをやったのは他の街に拠点を置くAランクのパーティーを中心とした一団だ。ご丁寧にSランクのヘルプを付けての探索だ。こう言えばお前でもこれがどういう探索かがわかるだろう?」


 他の街を拠点にするパーティーがわざわざ他の街のダンジョンに遠征するということ。


 それはつまり、ダンジョン踏破を含んだそれなりの目的を持った『本気の攻略』ということだ。


 これにSランク冒険者のヘルプ付きということはほぼダンジョン踏破が目的だったと言っていいだろう。


 そして今回の事故によってそれを中断させてしまったとしたら。


 本当の意味でどちらが『被害者』かは子どもでもわかることであった。



「うちにはあちらさんから猛抗議が来ている。独占探索許可のはずがこともあろうにこの街のSランククランが無許可で探索してたんだからな。いったいこの街の冒険者ギルドの管理はどうなってるんだと詰め寄られたぜ」


 ウォーレンはそう言って自嘲気味に笑った。


「おそらくあちらさんの街の冒険者ギルドからも追って正式な抗議がくるだろう。あちらさんの攻略を妨害したわけだからな。おそらく王都のギルド本部からも俺への呼び出しがあるだろう。こりゃギルマスをクビかもしれないな」


 その言葉にガルムは顔面蒼白になった。


 この街の冒険者ギルドのギルドマスターのウォーレンは、元Sランクの冒険者。


 この街では伝説的と言っていい冒険者の1人で、引退した元冒険者からはもとより、現役の冒険者の多くからも尊敬され信頼を集めている。


 そんなギルドマスターの顔に泥を塗り、あまつさえそのクビを飛ばすような大チョンボをしたとなればこの街で冒険者としていられないだろう。


「すっ、すまねぇ。俺たちができることは何でもする。だから……」


「ああ、あちらさんからお前たち宛の請求書を預かってる。あちらさんとの話がきちんとつけば俺のクビもクビの皮一枚つながるかもしれねぇな。まあ、そこんところはこっちじゃどうにもならねぇから頼むわ。お前らへの処分はその話が終わった後だ」


 ウォーレンは話は終わりと視線を切ると手を払ってガルムを部屋から追い出した。

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新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい
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