68 おっさんギルドの混乱に遭遇する
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俺たち『華乙女団』はBランクパーティーに昇格してからも順調にクエストをこなしていた。
今日も俺は成功したクエストの報告書を出しに冒険者ギルドへとやってきた。
いつものように冒険者ギルドの扉を開けるとピリピリとした剣呑な雰囲気を感じる。
こんなギルドの空気は久しぶりだ。
いつだったかダンジョンスタンピードが起こったときがちょうどこんな雰囲気だった。
「他の連中に連絡はとれないのか?」
「第一陣はそろそろ現地に到着のはずです。第二陣は城門付近に移動して待機して下さい」
「収容予定の治癒院は3か所の予定。うち重傷者受け入れ予定の1か所は受け入れ準備できています」
ギルドのバックヤードは喧噪に包まれ、ロビーには何人もの魔法使いと思われる冒険者が集まっていた。
身なりから回復職ばかりのようだ。
何か大きな事故でもあったのだろうか?
俺は何食わぬ顔で受付へと行くとなじみの受付嬢のカレンちゃんに話し掛けた。
「何か物々しい雰囲気だけど何かあった?」
「あっ、トミーさん。そうなんですよ、大事件です!」
「事件? それって魔物絡み?」
「いえ、今回魔物は無関係です。FFですよ」
「ああ、FFか……」
冒険者ギルド内部の符牒、通称『FF』。
これはFRIENDLY FIREの略称だ。
この業界にいる者で、ある程度の年数いってる奴なら大抵知ってる一般的な部類の符牒だ。
通常、フレンドリーファイヤーは同じパーティーでの同士討ちを指す言葉だが、ギルドにおいては異なる冒険者パーティー間でのものを含んだ意味合いも持っている。
ギルドでは前者を狭義のFFと言い、後者を広義のFFと言うそうだ。
「で、今回はどっちなんだ?」
「広義の方です」
つまり異なるパーティー間でのものということだ。
異なるパーティー同士とはいっても純粋な事故の場合と私闘の場合の二通りがある。
いずれにしてもギルドにおいて然るべき対応をしなければならない事件であるためギルドマスターは頭が痛いだろう。
「しかし、こんなにヒーラーが出張らないといけないなんて、かなり大規模なやつだったんだな。どこであったんだ?」
「嘆きの谷です」
嘆きの谷か……。
非戦闘職の俺でも知ってる高難易度ダンジョンじゃねーか。
というか、それならAランク以上のパーティー同士だろ?
そんなベテラン連中が一体なにやってんだ?
普通、フレンドリーファイヤーは力を上手く制御できない初心者冒険者がやらかすことだ。
特に魔力は多いものの魔力制御が甘い魔法職が自分のパーティーの仲間やたまたま近くにいた他のパーティーを巻き込んでの事故となることが多い。
他はまあ、パーティー同士のいざこざも一応はこの分類に入る。
これも血の気の多い10代のパーティー同士でのトラブルがだいたいだ。
その年齢を中心とするパーティーはDランクやCランクが多い。
だからどうにも高ランクパーティーが潜るだろう『嘆きの谷』でフレンドリーファイヤーが起こったということ自体、俺には理解できない。
一体どういう経緯でそうなったのだろうか。想像もつかないな。
聞くところによると、ギルドでもまだ多数の重傷者を含む怪我人が出ているという一報があったというだけで詳細な情報はまだわかっていないらしい。
まあ、うちのパーティーには関係のないことだし、報告書を出したらとっとと帰るか。
このときの俺は、まさか古巣やこの前酒場で知り合った爆乳美女が関わっているとは思いもしなかった。