67 そのころの古巣13
※ 第三者視点です
「よしっ、次にいくぞっ!」
Aランクダンジョン『嘆きの谷』を攻略中のガルムたちは順調に歩みを進めていた。
元々ガルムたちのパーティーはAランクのパーティーである。
その人間性はさておいて、冒険者としての実力と実績はそれ相応のものを持っている。
しかも、金に飽かせて聖印と呼ばれる聖属性を付与された武器を使っているためアンデッドに対して遅れをとることもない。
ガルムたちが進む先に現れるのは魔物ばかりで他の冒険者パーティーの姿はない。
これがBランク以下のダンジョンであれば不自然ではないかと気付くこともあるかもしれないが。
しかし、ここはAランクのしかもその中でも最上位のダンジョンだ。
もともとここに挑戦できるレベルの冒険者自体が多くない。
それに加えてアンデッドがメインとなるこのダンジョンは単純に金銭面だけで見れば準備に必要な費用がかさむことからコストパフォーマンスが悪く敬遠される場所である。
そのためガルムたちは他の冒険者たちの姿が見えないことに違和感を覚えることはなかった。
「くそっ、きりがないな」
ガルムたちが7階層にまで到達したときガルムたちレイドメンバーには流石に疲労が溜まっていた。
この『嘆きの谷』は、出てくる魔物がアンデッド系というだけにとどまらず、その魔物の量こそが冒険者泣かせと言われるゆえんである。
そんな大量の魔物を相手にしていてはいくら上位冒険者パーティーとはいえ、自ずと限界が見えてくる。
さらにそれを助長する事情として、ガルムたちは聖印の付与された武器を使ってはいたが、実はレイドメンバー全員に行き渡るだけのものは用意することができていなかった。
そのため日頃はアタッカーとして攻撃に参加しているメンバーが今回は中衛もしくは後衛の盾役になるなどいつもと違う連携となっていたこともあり、勝手が違ったということもあった。
「マスター、どうしますか? このまま正面からいくと流石にもちませんよ」
「そうだな。正面から全ての相手をする必要はない。俺達の目的はダンジョンの踏破、そうでなくてもできる限り深い階層の探索だ。相手をしなくてもいい魔物は放置してとにかく進むぞ!」
ガルムはパーティーのメンバーからの疑問にそう答えた。
そして主に聖印を付与された武器を持つ特定のメンバーを殿に指定して階層をとにかく進むことにした。
一方、冒険者ギルドから『唯一』正規のダンジョン攻略の許可を得ていたフレイアのパーティーはダンジョンに入って直ぐに違和感に襲われた。
「魔物が多いと聞いていたが存外少ないわね」
「直前まで他のパーティーが入っていて魔物が復活していないだけかもしれませんね。油断せずいきましょう」
そもそもこのパーティーの目的はこのダンジョンの踏破である。
そのため、魔物が少なく前に進めるのであれば文句があろうはずがない。
こうしてフレイアたちはガルムたちが切り開いた道をたどり、どんどんと奥深くへと進んでいく。
そうして予定よりも早くに7階層にまで到達した。
「この階は魔物が多いな。フレイアさん、準備をお願いします」
「わかったわ、まかせて頂戴。その代わりサポートはお願いね」
フレイアがそう言うと、精神を集中させ、詠唱を始める。
その間、他の前衛職はフレイアが魔物に襲われないよう盾役を務め、魔法職はフレイアの魔法発動に併せて結界魔法を展開できるよう、詠唱を始めた。
「ヘル・フレア!」
詠唱を完成させ魔法を発動させたフレイアの言葉とともにダンジョン内に炎の奔流がほとばしる。
ダンジョンの通路に沿って炎の塊が全てを焼き尽くしながら縦横無尽に駆け抜けていく。
通路の分岐も関係なくフレイアによって次々に生み出される炎がその階層の全てを埋め尽くそうと奥へ奥へと進んで行った。
そこにいた魔物だったものはその形を維持できるはずもなく、なすすべなく跡形もなく消滅する。
「ぐうっ……」
フレイアの側で結界魔法を展開する魔法使いの男の表情が歪む。
フレイアの使う魔法の力が大き過ぎてその余波が魔法を行使するフレイアたちの側にも及ぶからだ。
少なくない爆風が結界魔法によって防がれる。
この魔法を展開しなければかなりの累が及んだことは容易に想像できた。
Aランク冒険者の意地にかけて仲間への被害は防がなければならない。
魔法使いの男は歯を食いしばりながら結界魔法を全力で展開し続ける。
そうしてフレイアの魔法の発動が終わると、ようやく結界魔法を解除することができた。
フレイアたちの進む先には無数の魔石と魔物の素材がそこかしこに転がっていた。
「……こいつはスゲーな」
パーティーのリーダーの男はそう呟き、すぐ側に立つ魔女の圧倒的な力に改めて戦慄した。
「さあ、進みましょう」
フレイアの言葉に他のメンバーも我にかえり、こうして再び進み始めた。
その先に地獄の業火に焼かれた者たちがいることを知らないままに。