59 そのころの古巣11
※ 第三者視点です
「諸君、栄えある我がクランにようこそ」
ガルムは新たにクラン『鋼の戦線』に参加することになったパーティーのメンバーを前にそう演説をぶった。
ケイン率いるAランクパーティーがクランを離脱した後、クランマスターであるガルムはクランに参加する新たなパーティーを募った。
勢いが落ちつつあったとはいえ、そこは御三家と呼ばれるトップクラン。
参加希望パーティーが殺到した。
しかし、それはBランク以下のパーティーばかりであり、ガルムが内心求めていたAランクパーティーは一つとしてなかった。
今回、ガルムがクランへの参加パーティーを募ったのには理由がある。
クランのランクは基本的には各パーティーが持つギルドポイントの合計にそのクラン独自のギルドポイントを加えた点数によって決まる。
しかし、ケイン率いるAランクパーティーが離脱したため、その分、クラン全体のポイントが大きく減少した。
そのうえ、ダニーパーティーのギルド指名依頼での失態でのペナルティ、そしてつい先日、冒険者ギルドからヴィクトールパーティーによる虚偽報告に関してのペナルティが決定された。
その結果、この時点で『鋼の戦線』全体が持つギルドポイントはSランククランとなるための水準を割り込んでしまったのだ。
冒険者ギルドの規定では、クラン構成員の変動によってギルドポイントが減少し、これまでのランクの水準を一時的に下回ったからといって直ちにランク降格とはならない。
一定の猶予期間が設けられていて、その期間内にギルドポイントが回復すれば継続して元のランクが維持されるという仕組みになっている。
ガルムとすれば、Sランクを維持するのに新規参加パーティーがAランク以上のハイランクパーティーであることが最も都合が良かった。
しかし、次善の策としてガルムはBランクのパーティーのうち、もっともギルドポイントの高いパーティーを新たにクランに迎え入れた。
「このままだと足りないな」
マスタールームでガルムがそうひとりごちた。
今回クランに参加することになったBランクパーティーはBの上級でありAランク到達までもう少しというところだ。
このパーティーがAランクに到達すれば、通常のギルドポイントに加えて、昇格によるランク報酬分が上乗せされるのでクランの合計点数が大きく回復するという計算になる。
なお、単にポイントだけを集めるのであればBランクパーティーを複数抱えればいいと思うかもしれないが、規定上そういうことでは基準をクリアできないことになっている。
例えば、Dランクパーティーを100集めたクランがあって、その合計ポイントがいくら高くてもSランククランと扱われることはない。
そういう話である。
いずれにしてもガルムにとっては新規加入のこのパーティーを猶予期間内に、Aランクに昇格させることが必要不可欠であった。
「ダンジョン攻略しかないか……」
――ダンジョン攻略。
冒険者の活動における花形のひとつである。
ダンジョンはその難易度によってランク付けされており、高難易度のダンジョンを攻略した場合、得られる利益と名誉は計り知れない。
Sランククランである『鋼の戦線』は新規に加入したBランクパーティーのギルドポイントを稼ぐため、クランに所属する複数のパーティーでレイドを組んでのダンジョン攻略を行うことにした。
攻略対象となるのは『とあるAランクダンジョン』。
そのダンジョンはAランクとはいえ、その難易度はSランクに近いAである。
このダンジョンはいわゆる特殊系のダンジョンで攻略の準備には時間と費用がかかるもののその一方で攻略に対するギルドポイントの面ではかなりおいしいダンジョンだ。さらに目的のダンジョンでは同じくギルドポイントの面で割のいい素材やアイテムが多いことでも知られている。
Bランクパーティーが単に昇格しただけでは心もとない。
そんな今のガルムにとって最も都合のいいダンジョンだった。
「よしっ、ダンジョンに潜るぞ! 行き先は『嘆きの谷』だ。すぐに準備しろ!」
こうして『鋼の戦線』の最大の崩壊劇が幕を開けることになった。