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57 おっさん出会う

 うちのたちとケインたちパーティーがBランクダンジョン『ナフカの洞穴』に向かったその日。


 俺は夕方の就業時間まで仕事をするとその後の時間はフリーだ。


 パーティーのみんなは今夜ダンジョン内で野営をするため俺は一人で過ごすことになる。


 1人で夕食を食べてもあれなので久しぶりに酒場へ飲みに出ることにした。


 いや、ケインたちからの聞き取りで週に1、2度酒場にいくのは一応仕事だからノーカンだ。







「マスター、しばらく」


 俺はいきつけの酒場へと入ると、一人でくるときにいつも座っているカウンター席に座った。


 1人で飲んでいるとどこかで見たことがあるような男が俺の隣の席に座ったのでちょっと話をした。

 う~ん、いったいどこで会って何を話したのかは思い出せないが、まあ、思い出せないということはたいしたことではないのだろう。


 隣の席の男がいつの間にかいなくなっていたので、それから俺はマスターととりとめもない話をする。


 といってもマスターは基本的に聞いて頷くことがほとんどで、8割方俺が一人でしゃべっているという有様だ。



「失礼。お隣、空いているかしら?」


 俺が3杯目のエールをちょうど飲み終わろうという頃、ふいに声を掛けられた。


「ああ、空いてるぞ」


 俺はその声に振り向きもせずそう応えた。


 俺に掛けられた声は声だけから判断すれば若い女性の声だ。


 ここは冒険者が多い酒場だから若い女性とはいえ冒険者なのだろう。


 そういえばアンジェたちと初めて会ったのもここだった。


 ここは意外と女性の冒険者に人気なのだろうか?


 左隣に声の主が座ったのを気配で感じたため何気なくそちらを向いて俺は一瞬固まった。


 隣に座ったのは赤色の髪を肩口まで伸ばしている紺色の魔女服を身に纏う若い女性だった。


 パッと見て年齢はアンジェたちよりも少し上のお姉さんというところだろう。


 その手には脱いだばかりの濃紺色のとんがり帽子を持っている。


 しかし、そんなことはどうでもいい。


 そう思えてしまうほどの圧倒的なものに俺の視線は釘付けになった。


 魔女服は胸元が大きく開いたタイプのもので、そこには上乳がど~んとはみ出していらっしゃる。


 正直、お尻がそこにあるのかと目を疑った。


「流石にそんなに見られるとちょっと照れるわね」


 おっと、思わず胸元をガン見してしまった。


 女性は男の視線に敏感だというからな。


 気を付けなければ。


「失礼お嬢さん。あまりにも刺激的で、おじさんびっくりしちゃったよ」


 こういうときはかる~く返すのが正しい大人の対応だ。


 あくまでも『全然たいしたことないっすよね?』って感じでうやむやにしてしまうのがベストだろう。


「あら、おじさまを誘惑してしまったかしら? ごめんなさいね」


 さらに軽く返された。


 なんかマウントをとられた感じだ。


 おっさん相手にマウントをとろうだなんてまったく何て娘だ。


 いや、物理的に上に乗ってもらえるならいくらでも下になるんだけどな。


 まあ、下世話な話はさておき、見たところ魔法使いみたいだ。


 やはり冒険者なんだろう。


「初めて見る顔だが外からか?」


「ええ、この街は初めてね」


 女性はそう言って、マスターに果実酒を注文した。


 俺も残ったエールを飲み干すとマスターに追加のエールを注文した。


 女性は目鼻立ちがはっきりした色白の美人さんで意思の強そうな目をしている。


 赤色の髪の毛は長めで背中にかかるくらいまで伸ばされている。


 きれいに梳かれているのか見るからにさらさらしていそうだ。


 冒険者ともなれば他の街に移動してのクエストも当然ある。


 勿論、国を跨ぐこともあるだろう。


 そんな移動の果てでありながら女性として相応のコンディションを維持していることに俺はわずかに驚きを覚えた。


「俺はこの街から出たことがほとんどないんだが、この街はどうだ? 何か他の街と比べて違ってるとこはあるか?」


「この街から出ないってあなたは冒険者じゃないの?」


 なるほど、俺は冒険者と思われたのか。


 それは悪いことをしたな。


「ああ、俺は冒険者じゃない。事務の方だよ」


 女性はなるほどと言ってマスターが目の前に置いた果実酒の入ったグラスを手に取った。


 俺の手元にも追加のエールが置かれた。


「じゃあ、今日の出会いに乾杯しましょうか?」


 たまたま酒場で出会った女性とこうして杯を重ねた。

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新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい
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