56 おっさん申請する
「装備は整ったな。じゃあ、そろそろダンジョンでも潜るか」
アンジェたち『華乙女団』の指導を買ってくれたケインがみんなの装備を見てそう評価した。
あれからうちのパーティーのメンバーたちはケインパーティーのメンバーから戦闘絡みの指導を受け、一方で装備については俺の『マジックペン』による付与魔法で性能の底上げができた。
他には前衛の2人には身体の枢要部を守る防具も購入した。
まあ、胸当てとかそういうやつだな。
身体の動きを阻害しない品質の良いものは値段も張ったが、この前に冒険者ギルドから出た金一封を使ってパーティー予算から支出した。
通常個人の装備は本人の個人資産から買うものだが、前衛は後衛のために身体を張っているということでパーティー全体の利益になるという理由からだ。
「ケインさん、ダンジョンってどこのですか?」
「ああ、『ナフカの洞穴』っていうBランクのダンジョンだな」
Bランクのダンジョンと聞いてアンジェたちに緊張の色が見える。
この前、Bランククエストで痛い目をみたことの反動だろう。
「心配するな。BランクっていってもC寄りの下の方だし、嬢ちゃんたちと相性のいいところで選んでいる。それに俺たちのパーティーも一緒にいくからな。まああれだ。アライアンスだな」
アライアンスとは複数のパーティーが一時的に同一のグループを形成することだ。
正式にクランを結成する前のお試しとしてされることもある。
「アライアンスか~。うちがやるのは初めてだぜ」
ユリアがテンション高くそう言った。
「そうなのか? まあ、それならそれで経験だ。ただ、俺たちは基本手を出さないからな。危なくなったら助けてやるから思う存分やってみな」
ケインの言葉に皆が頷いた。
うんうん、みんな少しずつ成長しているな。
自分の子どものように成長していく姿を見るのはおっさんとしてもうれしい。
「ってことで、アライアンス案件の報告書はうちのも含めてそっち持ちでいいよな?」
ケインが俺に向かってそう確認を求めた。
ふむ。
まあ、普通であればAランク冒険者にお守りをしてもらうなんて滅多にない話だ。
どうせうちの報告書と書く内容は基本的に一緒だろうしな。
おっと、その前に分け前の話を詰めておかないとな。
俺は「5分5分ならいいぞ」と返すと、ケインは「元々そのつもりだ。嬢ちゃんたちから巻き上げるつもりはねーよ」と言われた。
要は、アライアンスで獲得した魔石や素材などの成果物をパーティー間でどう配分するかの事前取り決めの話だ。
お守りをしてもらっての攻略であれば、通常『4:6』とか『3:7』でお守りする側が多く成果を獲得するということが多い。
ケインの言葉に、俺は「であれば了解」と答えるとケインは苦笑いしながら頷いた。
アンジェたちが潜る予定のダンジョンは、Bランクダンジョンの中でもオーソドックスなダンジョンだ。
俺は早速、冒険者ギルドに提出する申請書を作成することにした。
ダンジョンに潜るには、事前に冒険者ギルドに申請をし、許可を受ける必要がある。
申請書、正式には『ダンジョン探索許可願』というのだが、これにはいつ、どんなメンバーで、どこまで潜る予定か、帰還予定はいつかを記載する。
なぜこのような手続きが必要かというと、以前は冒険者が好き勝手にダンジョンに潜り、ギルドがその状態を把握することができなかったからだ。
あるパーティーがいつまで経っても戻ってこなかったら場合によっては捜索する必要があるが、そもそもどこのダンジョンに誰がいるかがわからなければそんなこともしようがない。
ギルドとしては、どのダンジョンに、どの冒険者パーティーがいるのかという現状を最低限把握する必要があった。
ここで『届出制』ではなく『許可制』となっていることにも理由がある。
ダンジョンに多数の冒険者が一斉に入ってしまうと、結局ダンジョンに入ったはいいが何も得ることができなかったということもあり得る。
冒険者という人的資源が無駄にならないよう、ダンジョンに入ることができるパーティーの数はギルドによって事前に調整されているというわけだ。
ダンジョン内の魔物や宝箱が出現する頻度はある程度把握されているので、それに合わせた調整がされている。
勿論、初心者冒険者にありがちだが、潜るダンジョンのレベルがそのパーティーのレベルに合っていないと看做されると許可が出ないということもある。
ギルドとしてもある程度は自己責任としてパーティーの判断を尊重するがさすがに半分自殺の様な探索までは見過ごすことはできないというわけだ。
俺は作成した申請書を冒険者ギルドに提出し、即日、あっさりとギルドから許可をもらうことができた。
許可の内容は、『華乙女団』と『ケインパーティー』とのアライアンスで、明後日から、帰還予定はその翌日として、Bランクダンジョン『ナフカの洞穴』をできる限り攻略するというものだ。
明後日は早く起きてまたみんなのお弁当を作るとしよう。