46 おっさん待つ
ここまで読んでいただきありとうございます。
ブックマーク・評価をしていただきました皆様ありがとうございます。
待ち合わせ場所の中央広場はその名のとおり街の中心エリアにある。
その噴水前に俺は一人佇んでいた。
今日は安息日で休みの人が多いためだろう。広場はごった返している。
しかしここで待ち合わせをしているのはいずれもカップルばかりだ。
10代後半から20代前半くらいのどちらかというと見た目勝ち組の連中が目に付く。
というか俺たちの様にカップルじゃない待ち合わせなんてしている奴がいるんだろうか?
周囲の人たち(主にカップル)からの俺への視線が痛い。
朝ルージュに削られたばかりの俺の精神的HPがゴリゴリ削られていく。
まったく、歩いてもいないのにダメージを受けるとかとんでもない毒の沼地だぜ。
ここは一つ俺の特殊スキルでこいつらの会話を聞いてみるか。
俺はこっちを見て何やらひそひそ話をしている一組の若いカップルに照準を絞った。
男の方は軽薄そうなチャライにいちゃん。
女の方はちょっと化粧濃い目なねえちゃんだ。
【特殊スキルON】
『おっさんが何でこんなところに? まったく場違いなおっさんだぜ』
『あれって絶対に童貞よね? 誰と待ち合わせしてるんだろう?』
『ばかっ、目を合わせるなって。童貞のおっさんと目を合わせると妊娠するぞっ』
『ええっ、それホント!? でも私のお腹の中にはもうあなたの……』
『え゛っ』
『えっ?(にっこり)』
ぷぷっ、ざまぁ!
【特殊スキルOFF】
まあ、ほんとにそんな特殊スキルが俺にあるのなら俺はとっくに貴族様お抱えのエージェントになってるってもんだ。
生産性のない被害妄想で時間をつぶしていると周囲がふとざわざわし始めた。
なんだ?
何か有名な吟遊詩人とか踊り子さんとかでもこの街に来たのか?
俺がそのざわめきの方に目を向けるとその中心には見知った顔の若い女性。
というか今まさに待ち合わせをしているその当人であるルージュの姿があった。
「おじさま、お待たせ致しましたわ」
満面の笑みでお嬢様(暫定)が登場。
周囲の娘さんたちはシンプルなワンピースとかの装いが多い中で、すげーな。
絢爛豪華、フリフリレースとごてごての装飾マシマシな赤色のドレス姿でいらっしゃいました。
えっとお嬢様? お茶会の会場はこちらではございませんことよ?(冷や汗)
「もう、おじさまっ! わたくしに見惚れるのもわかりますが何か一言ありませんの?」
おっとあまりのことに呆けてしまっていた。
人間、あまりのことに直面するとフリーズするというのは本当だったな。
しかし危ない危ない、また女心がわかっていないと言われるところだった。
今日の精神的HPは正直もうかなり削られているからな。
ここの選択肢は重要だ。
俺は三十数年蓄積してきたいざというときの知識を総動員した。
確か、女性は細かい変化に気付かない男に腹が立つと聞いたことがある。
よしっ!
「ルージュ、今日はその金髪縦ロールの数、いつもより巻いてる数が1つ多いな。よく似合ってるぞ」
「まあっ、流石はおじさまっ! わたくしの今日一番のこだわりに真っ先に気付かれるなんて流石ですわっ」
おっ、どうやら当たりを引いたようだ。
そうだろう、そうだろう。
俺はできる大人だからな。
この日の買い物を終えて意気揚々と帰ってみんなにこの話をしたらアンジェとユリアには盛大にため息をつかれた。
解せぬ。
あれっ? 買い物はって?
親父には濡れてもすぐに乾く手ぬぐいを、お袋には櫛を買ったよ。