43 そのころの古巣9
※ 第三者視点です
「ヴィクトールパーティー、業務停止1週間だ。しっかり反省しろ!」
再び冒険者ギルドに呼ばれたのはSランククラン『鋼の戦線』に所属する1パーティーのリーダーであるヴィクトールだ。
ヴィクトールの目の前には冒険者ギルドのトップ、すなわちギルドマスターであるウォーレンが険しい表情でヴィクトールを睨んでいる。
「いっ、いったい俺たちが何をしたって言うんだ!」
ヴィクトール自身もAランクの冒険者でありAランクパーティーのリーダーである。
とはいえ、目の前にいるギルドマスターは元Sランクの冒険者。
引退してなお、その体躯は衰えを見せておらず、ヴィクトールにとっては今だに超えられない先人の壁のひとつでもある。
「何をしたか、か……。いいだろう教えてやる。その前にまずはこいつを説明してもらおうか!」
そう言ってウォーレンがヴィクトールの手元に放ったのは1通の書類である。
「これが何だって……」
ヴィクトールは書類を手に持ったままウォーレンに視線を送った。
「お前は、去年、街の冒険者総出でバブルフロッグを駆除したのを覚えているか?」
「ああ、それは勿論覚えているさ。あれは大変だったからな」
「そうだな。で、ギルドではその反省を踏まえてバブルフロッグをあれから徹底的に叩いた。今年に入ってもギルドではあの池の周囲は徹底してマークしている。その結果、今年は1体も目撃情報がなかった」
「あっ、ああ……」
「で、それはつい先日、お前のパーティーの報告書として出されたものだ。これにはお前たちがバブルフロッグを討伐したって書かれている」
「!?」
「これがホントだったらギルドの大失態だ。お前、これが事実だって言い張るのか?」
「いやっ、そのっ……」
「まあ、正直見るからに嘘の内容過ぎてこっちも直ぐにわかったからよ。実害はなかったし、これまでのお前らの貢献も考えて、最大限おまけしてやったわけだよ。そこんところわかるよな?」
「あっ、ああ……」
「じゃあ、とっとと報告書を書き直してこい! 1週間あれば流石にできるだろうが! 報告期限徒過のうえに虚偽報告とか、お前、冒険者ギルド舐めてんのか!」
――ビリビリビリ
元とはいえSランク冒険者の怒気に空気が震えた。
これにはさすがのヴィクトールも肝を冷やす。
そして這う這うの体で冒険者ギルドのマスタールームをあとにした。
「おっ、ヴィクトールじゃねーか。こんなところで奇遇だな。そんな青い顔してどうしたよ?」
ヴィクトールが2階にある冒険者ギルドのマスタールームから出てきて1階のロビーに降りると顔なじみのケインが受付カウンターで何やら手続きしていた。
「……お前、クランを辞めたんだってな。それでちゃんとやっていけてるのかよ?」
「ははっ、バカを言え。元々俺たちは単独でもAランクパーティーだぜ? 今もこうしてクエストの報告書を提出に来たところだ」
さっきまで件の報告書でとんでもない目にあったヴィクトールはその単語に一瞬背筋が伸びた。
そして目の前のケインが出そうとしている報告書が気になった。
「はい、ケインさん、報告書確かに受け取りました。今回もお疲れ様でした」
「あいよ。じゃあ、またな」
あっさりと報告書は受理された。
その内容は全く問題なさそうだ。
「ちょっ、ちょっと待てよ。お前、報告書ちゃんと書けたのか?」
「おうよ。やっぱトミーはいいよな。あいつはいい仕事をするぜ」
「……いったいどういうことだ?」
ケインはヴィクトールに対してこれまでのいきさつを説明した。
「……あいつら、ぶっ殺す!」
ヴィクトールは今日のことを含めてガルムたちに対する殺意を抑えることができそうもない。
念のためにと受付嬢であるカレンに訊くとヴィクトールの報告書を提出したのはダニーということだった。
ヴィクトールは修羅の顔をして『鋼の戦線』のクランハウスへと向かうのだった。