40 おっさん手紙を書く
本日、4000個目のブックマークをいただきました。
多くの方にお読みいただきありがとうございます。
引き続き読んでいただけると嬉しいです。
先日ユリアのマッサージをしたことで故郷の両親のことを思い出した。
お袋に宛ててときどき手紙を出しているし、向こうから返信が来ることもある。
親父と仲が悪いわけではないが男親と手紙をやり取りするのはちょっとこっぱずかしい。
まあ、お袋宛の手紙に親父宛のことも書いているし、その逆も然りだ。
少なくとも両親とは並みの親子として無難に関係は築けていると思っている。
そういえば俺は『鋼の戦線』の借り上げ住居からこのパーティーハウスに住む場所が変わったからな。
職場も変わったことだし今の状況を手紙で伝えておいた方がいいだろう。
前回手紙を送ってからそれなりの時間も経っているしちょうどいい機会だ。
この日の夕食が終わり、みんなが順番に風呂に入っている間、俺は事務室に入った。
便箋と封筒を用意して事務机に置くと俺はマジックペンを顕現させる。
ペン先の太さを手紙を書くのに適した極細に設定して、と。
故あって職場を変わったこと、住む場所が変わったこと、健康に問題はないこと、相変わらず嫁はいない……ことを書き連ねていく。
あれっ、目に涙がにじんで前が見えないや。
こうして自分自身で精神的ダメージを受けて四苦八苦したものの手紙自体はわりと直ぐに書き終わった。
この手紙を送るだけだと物足りないな。
何か一緒に物を送るとしよう。
手紙だけを送るのも一緒にちょっとした小物を付けて送るのも費用的に大きな違いはない。
となれば親孝行の一つでもしておこうというものだ。
俺の実家は田舎の村だし、近くにある町もそこまで大きな町ではない。
今俺が住んでいるこの街の方がずっと都会だし物も溢れている。
田舎の両親がもらって嬉しい物か……。
あまり大き過ぎる物だと運ぶのも大変だし手紙とは別料金を取られてしまう。
何がいいだろうか?
「おじさま、何をされていらっしゃいますの?」
俺が頭をひねって考えていると突然声を掛けられた。
声のした方に視線を向けると事務室のドアをわずかに開けて顔を覗かせるルージュの姿があった。
「ああ、お袋に手紙を書こうかと思ってな。職場も住居も変わったからな」
「まあ、そうでしたの。それは素晴らしいことですわね」
そう言ってルージュは部屋の中へと入ってきた。
「もう風呂に入ったのか?」
「ええ、今日はわたくしが最初に入る日でしたの」
うちの娘たちは日によって風呂に入る順番をローテーションで決めている。
そのローテーションでは今日はルージュが一番風呂の日だったようだ。
それにしてもルージュの風呂上りの姿は色っぽいな。
先日のユリアも正直ヤバかったがルージュは何というかボリューム的な意味でヤバい。
多分、というか明らかにこのパーティーの中で胸が一番大きいのはルージュだ。
あとルージュはお尻も大きくていわゆる安産型と呼ばれる体型だ。
子どもを産んでもらおうと思うならこれほど適した女性はいないだろう。
「おじさま? わたくしをじっと見つめられていかがなさいました?」
おっと、思わずルージュをガン見してしまったようだ。
だってさ、そんなナイスバディのルージュが風呂上りに頬を上気させて、着ているのは薄手のネグリジェだぜ。
髪をしっとりとさせたうえに髪型は昼間見慣れたゴージャス縦ロールじゃなくて普通に下ろされているというレアリティ付き!
同じ場所に住んでいないとこんな姿は見ることができないだろう。
正直見ないという選択肢はないな。
「そういえばルージュのご両親はどこにいるんだ? たまには帰ったり手紙を送ったりしてるか?」
「ときどき手紙を送るくらいですわね。わたくしの両親はこの国にはおりませんので帰るのは一苦労ですわ。もっとも、時間があっても帰る気はございませんが」
「そうか、まあ、どこの家庭もいろいろあるだろうからな……」
ルージュに親の話題はちょっと地雷だったかな?
あまり他人のプライベートに首を突っ込むのは危険だからこれ以上は止めておこう。
「あっ、別に両親と仲が悪いわけではありませんのよ。他の事情と申しますか……」
「いや、そこまで詮索する気はないさ」
「……それはそれで興味を持たれていないようで癪に障りますわね」
ええっ!?
何?
ルージュってこんな面倒な娘だったっけ?
それともだんだん打ち解けてきて本来の素が出てきたってことでしょうか?
「そっ、そうだっ! 両親に何か送ろうと思うんだが何がいいか悩んでたんだ。何かいい考えはないか?」
「あら、ご両親に贈り物ですの?」
「まあ、贈り物というか送り物というか。大層な物じゃなくていいんだが……」
「う~ん、直ぐには思い浮かびませんわね。そうですわ! でしたら今度街でご一緒に選びませんこと? わたくしがおじさまのご両親への送り物を選んで差し上げますわ」
「いや、貴重な休みにそこまでしてくれなくてもいいさ。このくらいは俺が適当に決めるよ」
「むっ、おじさまはこの前のお休み、サーシャとデートだったそうではありませんか? わたくしとは出掛けたくないとおっしゃいますの?」
え~、あれってデートだったの?
といいいますか俺の財布の中身が惨殺されてデートというか『デッド』だったんですけど……。
「おじさま、サーシャは良くてわたくしはダメだとはおっしゃいませんわよね?」
ルージュが期待している眼で俺を見ている。
「わかった。だったらよろしく頼む」
俺の答えにルージュは満足したように頷いた。