35 おっさん休日が増える
この世界、1週間に1度、安息日と呼ばれる休日が設けられている。
冒険者たちもこの日に休みを合わせるパーティーが多い。
それ以外にも、冒険者の仕事はタフな内容が多いため、適宜パーティーごとで自由に休みをとっている。
我が『華乙女団』の面々も安息日以外に平均して週にもう1日休みをとっている。
冒険者はクエストが終わったときに臨時の休みをとることも多い。
アンジェたちは昨日ギルド指名の調査依頼から帰ってきたということもあり翌日の今日は休みをとっている。
本来、休みとなるのはアンジェたち冒険者だけで俺の様な事務職は対象外だ。
しかし、いつもの時間に朝食をとって仕事を始めようとした俺に対してみんなから待ったがかかった。
「ボクたちが休みなのにおじさんは仕事なのはおかしいよ!」
「いや、契約書には『週に1度、安息日をもって休日とする』としか書かれてないからそう言われてもな……」
「でしたら契約書を作りなおしてはいかがかしら? 元々それは雛型のままでしょうし当事者で自由に決めて良いはずですわ」
アンジェにルージュが助け船を出した。
ルージュの言うことはもっともだ。
王国法では私人間の契約には『契約自由の原則』というものが存在する。
例外的に弱者保護などの強行法規があって、例えば『労働者に休みを与えない』という内容の取り決めをしようとして、いくら当事者の労働者がいいと言ってもその合意は無効になる。
今回は、弱者である労働者、つまり俺にとって有利な内容に書き換える以上、法律上は特に問題はない。
「じゃあ、契約書を書き換えるか……」
結局、俺の休みは安息日に加えてパーティーが休みと定めた日も休みとなった。
通常、冒険者にしか適用されないルールが俺の様な事務職にまで恩恵が及ぶということは稀だ。
ワークライフバランスを重視するのであれば給料の安さを穴埋めできた以上の価値がある。
「よしっ、これでおじさんも今日は休みだね。いっしょにゴロゴロしようよ」
「ああ、そうだな、っと言いたいとこだが、昼過ぎに多分俺に来客があると思う。それまでにちょっと確認しておきたいこともあるし、休みにするのはちょっと待ってくれ」
「え~、誰か来るの? ボクの知ってる人?」
ケインが来る予定だけど、そういえばうちの娘たちはケインのこと知ってるのかな?
古巣にいたとき俺もこのパーティーのことは知らなかったし、面識はない可能性が高いな。
「まさかおっさんのコレか?」
ユリアがそう言って右手の小指を立てた。
それって『彼女』かってことだよね。
俺よりも古い世代がやってたやり方だけどよく知ってるな。
ひょっとしてユリアって見た目若いけど実はエルフの血が入ってて本当の年齢は俺より上だったりしないだろうな。
「あら、おじさまも隅に置けないのですわね。その様な方がいらっしゃるのでしたら是非ご紹介いただきたいですわ」
「いや、そんなんじゃないから。そんな女性いないから」
あ~、何か俺って縁がないんだよな~。
いったい他の人はどうやって相手を探してくっついてるんだっ。
俺は世の不条理を嘆きながらみんなの誤解を解こうとしたが……。
「いや、誰もおっさんに彼女がいるなんて思ってないし」
ユリアの言葉に他のみんなも頷いた。
いつもは周りの言葉に反応しないサーシャまでもだ!
俺は心でそっと泣いた。
弄ばれた……。