31 おっさん調査結果を聞く
みんなが帰ってきてそれぞれが部屋で着替えをしている間に俺は作っている途中だった夕食作りの仕上げをした。
先に風呂に入るかどうかを聞いたところ、先に夕飯を食べたいというのが満場一致の意見だった。
昨日は野営でお風呂に入れなかっただろうから年頃の娘ともなれば先にお風呂と言うかと思っていた。
しかし、昨日の夜からほぼ丸一日携帯食だったこともあってか暖かい食事に軍配が上がったようだ。
ダメ押しになったのは俺が作っていたレッドブルのデミグラスソース煮込みの匂いのようだ。
ふふふ、俺の料理はまた誰かを虜にしてしまったようだな。
というか、効果が覿面過ぎてサーシャがもう幽鬼のような表情で迫ってきた。
「はい、食事に決定! 異論は認めない!」と宣言しないと俺が食べられそうだ。
いや、別の意味でいいならどうぞ俺を食べて下さい。
熟成した30年ものですが。
まあ、兎にも角にもうちの『はらぺ娘』たちはまだまだ色気より食い気のようで、おっさんとしては安牌である。
そんなこんなで夕餉の時間ですよ。
「うわっ、おじさん、すごいっ! 今日は何かあったの?」
「そうですわね。何かのお祝いでしょうか?」
「そうだな、初めてギルドから指名をもらったこととその仕事を無事に終えたお祝いというところだな」
「へぇ~、すごいじゃん。じゃあ、早速食べようぜ」
「早く! 食べる!」
うおっ!? サーシャがしゃべった!
何話ぶりだろうか?
しかもこんな力強い言葉は初めて聞いたな。
「よしっ、じゃあ食べるか」
「「「「「いただきま~す」」」」」
こうして1日ぶりとなるみんなとの食事を始めた。
みんなから口々に『美味しい』とおほめの言葉をいただき小生は満足であります。
サーシャは再び無口モードだが『今話しかけるな』という勢いで食べているのでご満足いただけたようで何よりだ。
「それで今回の調査結果はどうだったんだ?」
「おー、そうだ、それなんだけどさ。おっさん、お手柄だぜ。あの森の奥、ちょっとヤバイことになっててさ。今度、もっと上のランクの冒険者パーティーで討伐隊が出るって話だぜ」
高ランクパーティーで討伐隊を組むとなったらそれは結構な案件だ。
話を聞けば森の奥にグリーンキャタピラーの群生地があったようだ。
この魔物はDランクの魔物なので群生してもせいぜい脅威度はCランクがいいところだ。
このグリーンキャタピラーという魔物。
多くは成長しても大きなグリーンキャタピラーになって終わりということがほとんどだ。
しかし、やっかいなのが元々が青虫だけあって、成長というか進化というか変態して蛾の魔物になることがある。
「ってことは『しびれファレーナ』か? それだけなら大騒ぎするほどでもないと思うが大量発生ならあるいは……」
しびれファレーナというマヒ毒をまき散らすCランクの蛾の魔物はたまに大発生することがある。
そうなると討伐ランクはぐっと上がるだろう。
「それが『女王蛾』が確認されたとおっしゃってましたわ。わたくしたちはよくわかりませんでしたが……」
ああ、そりゃダメだ。
クイーンが率いる一団とかもう完全にAランク案件だ。
「ということで今回は調査のみで撤収。近いうちに改めて討伐隊を組んで殲滅するってギルドの人が言ってたよ」
クイーンがばら撒く幻覚作用のある鱗粉対策は必須だからな。
準備と戦力の拡充が必要というところだろう。
元々、半信半疑から始まった調査だ。
そこまでガチな戦闘を予定していない調査隊の構成だったみたいだし、早期発見で状況も深刻ではなかったんだろう。
「なら、今回の件は無難にこなせたということだな」
「いえ、無難だ何てその程度ではありませんわよ」
「そうだよ。今回はボクたち、というかユリアが大活躍したんだから」
どうもユリアのスキル『悪意察知』を使って広範囲に探索した結果、例の生息地を発見できたらしい。
「そうか、じゃあ今回の勲一等はユリアか」
「へへ~、そういうことだぜ。というわけでおっさん、あたしに何かご褒美をくれよ」
「ご褒美? ああ、まあ俺ができることならいいぞ。ただし、金のかかることは要相談だな」
「いや、おっさんにはそっちは期待してないさ。そうだな~、長い時間森を歩いて、もう脚がガチガチなんだよ。とくにふくらはぎ何てもうパンパンでさ~。おっさん、あたしの脚のマッサージしてくれよ」
えっ。
マッサージ?
それは誰に対するご褒美でしょうか?
というわけでユリアに対する労いとして俺は風呂上りにユリアの脚をマッサージすることになった。