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28 おっさん尻込みする

【良い子のお約束】お酒は20歳になってから。

 パーティーハウスへと戻った俺は午後の仕事を終え、夕方になると待ち合わせ場所となっている酒場へと向かった。


 酒場では既にケインが一人でエールを飲みながら俺を待っていた。


「悪い、待たせたな」


「そっちは仕事だろ? こっちは今日、元々休みだからな。気にすんな」


 冒険者の休みはパーティーそれぞれで決められる。


 週に一度、全体の安息日が休みのことが多いが、それ以外にもクエストの後に休息として休みをとることも多い。


 それ以外にもリーダーの一存で休みになることもあるなど冒険者は自由度が高い。


 これが『冒険者は自由業』と言われる所以ゆえんだ。


 一方で冒険者パーティーに雇われている俺のような事務職は冒険者が休みだからといって必ずしも休みとは限らない。


 事務職は契約上安息日のみが休みというケースが多く、以前『鋼の戦線』で働いていたときもそうだった。


 今回『華乙女団』と交わした契約書は冒険者ギルドの雛型が元になっているが、その雛型もそういう内容となっている。


 だから今の俺の休みも契約上は安息日のみだ。


 ケインが座っていたのは2人用のテーブル席で、俺はテーブルを挟んだ向かいの席に座った。


「よしっ、駆け付け一杯だな」


 予め俺が来ることを伝えていたんだろう。


 俺用のグラスが最初から用意されていてケインがエールの入った瓶を片手で掴んで俺に差し出した。


 ――トクトクトク


 黄金色の液体がグラスを満たす。


「じゃあ、乾杯といこうぜ」


「ああ、お疲れっ」


 グラスとグラスを軽く合わせるとチンっという高い音がした。


「ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、プハー。やっぱりエールは最初の一杯が美味いな」


「おっ、いい飲みっぷりじゃねーか。トミー、お前そんなに飲める奴だったか?」


「ああ、『鋼』にいたときは飲みに行くのも大概仕事の一環だったからな。他のパーティーを梯子はしごすることも多かったからそこまで酔うわけにはいかなかったしな」


「何だ、今日はいいのか?」


「今日は仕事じゃないからな。形の上ではボランティアで今はその礼を受けてるだけだ」


「よくわからねーがお前がそれでいいんならいいさ。まあ、飲めよ」



 ――トットットットッ


 ケインが勢いよく瓶を傾けた。


「おいっ、溢れるだろ! お前実はもう相当飲んでるんじゃねーか?」


「バカいえ。エールなんて水みたいなもんだろ! 何杯飲んだって酔うもんかよ。夜はまだ始まったばかりだぜ」


 そういえば『鋼』にいるときからケインはかなり酒を飲む方だった。


 変な絡み方はしないが酒を飲みすぎると多少饒舌になって動作がおぼつかなくなるのはまあ、ご愛嬌か。


 俺は酔い始めて上機嫌なケインと取り留めもない話をしつつ今日のメインとなるケインのクエストについての話も聞いていく。


「そこでよ~、そのとき俺がこう『バシっ』とやったわけよ」


「へー、ケインの力でやられちゃそりゃひとたまりもないな」


「おうよ、ちょっとやり過ぎちまって素材が痛んじまった。買取金額が落ちるってミケルの奴にはしこたま文句言われたぜ」


 ミケルというのはケインのパーティーの魔法使いだ。

 個人の冒険者ランクはBランクの若者で風魔法を得意としている細めでシュッとしたイケメンだ。

 Bランクと言ってもA寄りのBなので近いうちにAランクに上がるだろう。


「そうそう、お前がいねーから素材の換金も俺たちでしに行ったわけよ。それでかなり買い叩かれたな。で、俺が文句を言ったらニックが出てきやがって若いのを脅すなって説教くらっちまったぜ」


「ははっ、ギルドの買取っていったらまだ若い連中だろ。そりゃケインに凄まれたら怖いに決まってるさ」


 こうして語らいながら時間が過ぎていった。


「おっと、そろそろいい時間だな。俺は次の店に行くがお前はどうする? 今日なら奢ってやるぜ?  ああ、奢ると言っても飲み食いの分だけだがな」


 そう言ってケインは意味深に笑みを浮かべた。


「んっ、ということはそういう店か……」


 ケインが行こうとしている店はいわゆる『大人の社交場』だ。


 露出の多い煌びやかなドレスを身に纏った美人のお姉さん、といっても俺からすればもう何年も前から年下ばかりになってしまったが、隣に座ってお酌をしてくれるお店だ。


 1人で30分飲み食いするだけでもこの酒場で今日俺たち2人が飲み食いした分の料金くらいにはなる。


 正直、ただの事務職に過ぎない俺がプライベートで行こうと思うレベルの店ではない。


 ただ、どちらにしても、この手の店に純粋に酒を飲みに行くという奴は少数派だろう。


 店では気に入った女性がいれば追加料金を支払って併設された個室に連れ込むことができる。


 いわゆる『夜の運動』をすることができるという店で何というかそっちがメインだ。




「いや、俺はやめとくよ」


「そうか。まあ、無理強いはしないさ」


 今もアンジェたちは街の外で野営をしているんだ。


 そんなときにいくら今が労働時間外だからって羽目を外して女遊びをするということは憚られた。


 そう、離れていても俺もパーティー(華乙女団)の一員だ!


 まあ、本音を言えば急に『今日どうよ?』と言われても心の準備はできてないし童貞卒業する勇気はありません。


 恥を忍んでいうと尻込みしてしまったんです。


 ああ、そうだよ。


 俺はチキン野郎さ!


 そんな俺にはこれがお似合いだぜ!


 俺はこの日の締めに鶏肉の煮込みを頼んで平らげて帰った。


 帰って記憶の新しいうちに頼まれた報告書の下書きを軽くして今日はとっとと寝ることにした。

 

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新米錬金術師は辺境の村でスローライフを送りたい
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