27 おっさん頼まれる
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仕事中、俺たちのパーティーハウスにやってきたのは、俺の古巣であるSランククラン『鋼の戦線』でパーティーのリーダーをしているケインだった。
ケインから何やら話があるとかで外に連れられ2人で近くの喫茶店へと入った。
「端的に訊くが、クランを辞めたのはお前の意思か? どういった経緯で辞めるって話になったんだ?」
喫茶店に入って直ぐ、まだ注文もしていないのにケインが開口一番をそう訊いてきた。
俺は隠す必要がないため、クランマスターであるガルムとのあの日のやり取りを話して聞かせた。
徐々にケインの顔が赤くなり、話が終わるころには憤怒の表情となった。
流石は現役の高ランク冒険者。
その怒気は俺に向けられていないにも関わらず俺の肝を冷やすのに十分なものだった。
「まさか、あのバカ、そんなことをしやがってたとは。まあ、お前を疑うわけじゃないが、一応は確認をとらせてくれ。で、それはそれとして一つ相談したいことがあるんだが……」
結局、ケインからの相談は報告書を作って欲しいという話だった。
魔道コンピューターは扱いが難しく、少しの文章を書くにも手で書いた方が早いらしい。
じゃあ、自分で手書きで、となるところだが、古巣の報告書は長い間俺が作っていたので今さら自分たちで作ろうと思ってもどうにも勝手が掴めないらしい。
提出期限も迫っているので少なくとも今回のものは何とか頼みたいということだった。
「わかった、今回については代わりに作成しよう。夕飯でも奢ってくれればいい。今後どうするかはまた相談させてくれ」
「恩に着る。取り敢えず今回のやつが何とかなるのは助かる」
俺も今や『華乙女団』に雇われている事務職だ。
いくら昔なじみからの頼みとはいえ勝手に仕事を請け負うことはできない。
俺が『華乙女団』と交わした労働契約書、まあ、冒険者ギルドが出している雛型の部分だが副業禁止の規定がある。
もし俺が正式に『業』として、つまり反復継続する意思で仕事をするということになれば雇い主であるアンジェたちの事前の許可が必要だ。
今後のことはアンジェたちが帰ってきたら相談してから決めよう。
「で、どうする。早い方がいいんなら今日の夜とかどうだ?」
「こっちも今夜の予定はねえし早い方が助かる」
こうして今夜はケインと夕飯を一緒に食べることになった。
今日はちょうどみんながいないし、久しぶりにケインと飯を食いながらいろいろと話しをするのもいいだろう。
今日はみんながいないので元々外で食べようと思っていたが報告書の『謝礼』(断じて報酬ではない)として夕食代も浮くのは正直嬉しい。
結局俺が『鋼の戦線』にいたとき、独り身なのに金が溜まらなかったのは、仕事の一環としてクランメンバーのクエスト終わりに一緒に酒場へ飲みに出て、報告書を作るための話を聞いていたということが大きい。
一晩で複数のパーティーから聞き取りをすることもあり、それが結構な出費だった。
高給取りの冒険者側に出してもらうことも勿論あったが、俺が年上だったのと、中座することも結構あったので、そのときは自分が食べた分プラスアルファのお金は置いて帰ったことの方が多かった。
まあ、恥ずかしながら、俺もいい恰好をしたかったということもある。
そういう意味では自業自得だったのかもしれない。
ただ、今回はこうして飲食代はもってもらえるので懐具合の点では問題ない。
報告書を作るための聞き取りも兼ねられるので一石二鳥だ。
俺たちは、今日の夕方に酒場で落ち合うことを約束して喫茶店を出た。