24 おっさん話を持ち帰る
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俺は冒険者ギルドでニックから詳しい話を聞き終わると部屋を出た。
帰り際に受付カウンターで昨日うちの娘たちが採取した薬体草を提出してクエスト終了の手続きをした。
他に魔石や素材を持ち込み換金すると足早にパーティーハウスへと戻った。
ニックからの打診を俺の一存で決めることはできない。
というか俺はそもそも雇われの事務職に過ぎない。
そもそもパーティーの方針の決定権どころか議決権すらない。
今日はうちの娘たちは午前中は休んで午後から街の外に出るという予定だ。
特定のクエストを受けてではなく魔石目当ての魔物狩りや常時依頼の素材採取をすると聞いている。
パーティーハウスへ戻ったときちょうどみんなが朝食を食べ始めるタイミングだった。
今日は午前中休みということでいつもよりも遅い朝食だ。
冒険者ギルドに出掛けるときに朝食を食べずに出掛けるから俺の分も作っておいてもらうようお願いしていたので俺の分もちゃんとあった。
「今日はやけに早く出掛けたんだね。何かあったの?」
朝食のパンを口に頬張りながらアンジェが聞いてきた。
仕事の話だし食事が終わってからにしようと思っていたんだが本人が聞いてきたからいいだろう。
「ああ、昨日のクエストのことでちょっと気になることがあったからな」
俺はみんなに俺が覚えた違和感を説明した。
「う~ん、そう言われれば確かにそうかもしれないけど、どうかな~」
「そうですわね。わたくしの感覚としては魔獣の生息場所をそこまではっきり分けることができるとは思いませんわ。誤差の範囲ではないでしょうか」
ユリアとルージュは俺とは受け取り方が違うようだ。
まあ、確かに実際に現場に出ている冒険者と俺のように街にいて情報だけで判断する事務職とでは同じこと、同じ情報に接しても受け取り方、感じ方が違うのだろう。
どうしても俺の方は机上の話になってしまう。
「でもでも、そういうおじさんだから気付けることだってあると思うんだ」
アンジェはそう言って俺を支持してくれた。
まあ、今回もちょっと気になるから念のためという程度のことだ。
何もなければ何もないのが一番だ。
「それでだ。冒険者ギルドからうちに話があってな」
「話?」
俺はみんなにまだ内々の話ということが前提ではあるが冒険者ギルドから我が『華乙女団』に北の森の調査隊に加わらないかという打診があったことを説明した。
今回編成予定の調査隊の構成はAランクパーティー1つ、Bランクパーティー1つ、そしてCランクパーティー1つの3パーティーという話だ。
このうちCランクパーティーの候補として我が『華乙女団』にお誘いがあったというわけだ。
「えっ、それって何なの? クエスト? 依頼?」
アンジェが疑問を口にした。
他の3人もあまり理解できていない表情だ。
というかサーシャは素知らぬ顔をして朝食を食べ続けている。
まあ、この前までDランクのパーティーだったのだから仕方がないだろう。
一般的に冒険者パーティーが受けるクエストは主に3つの種類からなる。
冒険者ギルドで特に受任の手続きがいらない常時依頼、これは魔石や素材など常時買取をしてもらえる物が対象だ。成果物を買い取りに出すだけでいい。
そしていわゆる張り出されたクエストを受ける通常依頼、これは受任の手続と終了時の報告が必要となる。
そして依頼者から名指しで依頼を受ける指名依頼だ。
「今回のはどれになるの?」
「まあ、広く言えば冒険者ギルドが依頼者の指名依頼だな」
「な~んだ、だったら最初からそう言ってよ」
「おいおい、これをそんな括りで一緒にするなよ。ギルドからの依頼っていうのはかなり特別なことなんだぞ」
いくつもある冒険者パーティーの中から冒険者ギルドが自分たちを選んでくれるということはそんなに軽いものではない。
冒険者や冒険者パーティーに最も重要なもの。
クエストを遂行する能力は勿論大事だろう。
しかし、一番大事なものは『信頼』であると思う。
信頼を得るには一朝一夕にはいかない。
それはこれまでの地道な積み重ねがあってこそであり、逆に失うときは一瞬だ。
そういう意味では『華乙女団』のこれまでの活動がギルドに認められたということだ。
まあ、俺とニックの関係もあるにはあったのかもしれないが、あいつは仕事に関しては厳しい男だ。
縁故だけでなあなあで済ませることは絶対にない。
つまり俺のことを抜きにして少なくとも我が『華乙女団』は冒険者ギルドから一定の信頼を得ているということだ。
「で、どうする? 受けるか?」
冒険者ギルドからの指名を断ることは普通ない。
だから俺のこの質問はいわゆる様式美だ。
アンジェは他のメンバーに視線を送る。
ユリアとルージュは大きく頷き、サーシャは咀嚼していた朝ごはんをゴクンと飲み込んだ。
「受けるよ。おじさん」
俺の問いにアンジェははっきりと答えた。