22 おっさん違和感を覚える
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
「「「ただいま~」」」
「お帰り~」
今日も今日とてうちの娘たちがクエストをこなして帰ってきた。
声は聞こえなかったがサーシャもちゃんと帰ってきているな。
「みんな今日もお疲れだったな。ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
いや、この先を言うのは止めておこう。
冗談でもおっさんがこんなこと言うと何か良からぬことが起こる気がする。
気を取り直して俺はみんなをねぎらうと今日の成果物を預かった。
今日みんなが行ってきたのは採取クエストだ。
持って帰ってきたのはその目的物の薬体草10束。
肉厚の薬草で10枚で一束だから全部で100枚採取したことになるな。
うん,虫食いのない状態がいいものばかりだ。
このまま収めて全く問題ないだろう。
そして他にはクエストの道中で倒したんだろう魔物や魔獣の魔石や素材といったところだな。
んっ?
俺の鑑定スキルはレベルが低いため魔石を視ただけでは何の魔物や魔獣のものかまではわからない。
しかし、素材の方は予備知識さえあればスキルに頼らなくてもおおよそそれが何かくらいは検討がつく。
アンジェたちが今日行った場所を考えれば俺の目の前にある素材にはちょっと違和感がある。
確認しておくか……。
「お~い、アンジェ~」
「えっ、おじさんなに?」
ちょうど風呂場へ行こうとしていたアンジェを呼び止めた。
「今日行ったのは『北の森』の浅いところだよな?」
「えっ、うん、そうだけど? それがどうかしたの?」
俺たちは昨日の夜にミーティングをして今日のクエストで行く予定の場所は俺を含めたみんなで事前に確認していた。
今日のクエストは薬体草の採取だ。
薬体草は中級ポーションの原料になる薬草でこの近くでは『北の森』と呼ばれている文字どおりこの街の北にある森の浅いエリアによく生えている。
「森の浅いところで採れなくて森の奥まで探しにいったりしたか?」
「ううん。逆に森に入って直ぐに見つかったし、森の奥には入ってないよ」
「それからもう1つ。持って帰った素材だけど、これ、ワイルドボアの牙だよな?」
「そうだよ、ワイルドボアが急にどひゅーってきたからボクたち慌てちゃって。最後はサーシャがビシッ、ドスッて倒したんだよ」
「そうか、わかった。呼び止めて悪かったな」
俺がそう言うとアンジェは「お風呂お風呂~♪」と言いながら脱衣所へと入っていった。
俺は他のメンバーにも話を聞くことにした。
この日はワイルドボアの牙が10本も持ち帰られていた。
1体で2本の牙だから5体ほど討伐したということになる。
その事実を確認したところ、最初にワイルドボアを倒してから立て続けに何体か現れて追加で4体倒したという話だった。
しかもこれが出て来た全てではないということだった。
「これはおかしいな……」
ワイルドボアは猪が魔獣化したもので冒険者ギルドが定める討伐推奨ランクはDランクだ。
そこまで強い魔獣ではない。
普通は『北の森』のやや深い場所に生息しているはずであり、森の浅いところにはほとんど出てこない魔獣のはずだ。
たまに、はぐれた個体が出てきて討伐されることはある。
しかし今回はたまたま出くわした1体というわけではなさそうだ。
討伐した数だけでも5体。
さらに討伐はしていない他の個体も見たという話だ。
俺は今感じた違和感を読んで理解してもらえるよう、報告書にはできるだけ事実を正確に書くことにした。
単に『北の森』でワイルドボアを5体討伐したと書いても冒険者ギルドは気にも留めないだろう。
この森にワイルドボアが生息していることはみんなが知っていることだからだ。
しかし、本来『北の森』のどちらかといえば奥に生息している魔物が浅い場所で多く現れたことをきちんと書いておけば見る者がみたらその問題点がわかるだろう。
勿論、俺の杞憂ということもある。
しかし、どうにも俺は胸騒ぎを覚えた。
報告書には客観的な事実を事実としてきちんと記載して、それとは別に主観的な内容を雑感として付記しておこう。
俺は今回のクエストの報告書を今日中にまとめ、明日の朝一番に冒険者ギルドに出しに行くことにした。
おっさんが何か口走りそうだったので止めさせてもらいました。
ブックマークをしていただいている方はそのままでお願いします。