21 おっさん武器を修理する
「装備で破損したものがあったら早く言えよ~」
ある日、クエストから戻ってきたみんなに俺はそう声を掛けた。
破損した装備を使っては十分なパフォーマンスを発揮することできない。
冒険者が自分の武器や防具を揃えること自体は自前ですることだが、装備が破損した場合の修理についてはパーティーやクランの資産から支出することが多い。
自分の懐具合を気にしておざなりにすることはその本人だけでなくパーティーの他のメンバー全員の危険につながるからだ。
「ユリアさん、あなたのショートソード、ちょっとおかしくありませんこと?」
ルージュがそう言ってユリアに確認を促した。
ユリアは斥候で、得物は取り回しをしやすいショートソードをメインにしていて予備のダガーを補助で使っている。
後衛のルージュからみて今日のクエストで何か気になることがあったらしい。
「え~、全然大丈夫だと思うぜ」
「いや、装備の点検は重要だ。俺が一応視ておこう」
俺はユリアからショートソードを預かり、それを『鑑定』した。
俺は『鑑定スキル』をもっている。
ギフトとは別で後天的に取得できたものだ。
ギフト以外でスキルを取得できるのであればそれを使えばいいのではと思うかもしれない。
しかし『ギフト』で得られるスキルとそうではないスキルとではその後の成長度合いが全く違う。
ギフト由来のスキルやアーティファクトであればレベルを3や4にするのに通常そこまで苦労しない。
俺の『マジックペン』は例外中の例外だ。
一方、ギフト以外のスキルだと、長い年月頑張ってようやくレベルが2とか3になることがあるかどうかだ。
御多分に漏れず俺の鑑定スキルも一番下のレベル1止まりで、この程度であれば持っている者も少なくない。
俺は事務職の仕事で魔石や素材を扱うこともあったのでこのスキルは重宝している。
ちなみに鑑定結果はこんな感じだ。
――鉄のショートソード(状態・一部破損)
攻撃力 9(一部破損につき-1の評価)
「ちょっとしたところだが破損判定が出ているな。早目に修理した方がいい」
今は一部破損で軽度な損傷で済んでいるが無理して使い続けると破損が中程度、最後は重度となり完全な破損へと至る。
一度弱いところができるとそこを起点として一気に状態が悪化するというのが俺の経験上の見立てだ。
だから対処は早いに越したことはない。
「わかったよ。でも修理に出すと高いんだよね~」
いくら修理費用をパーティーの財産から出すとしても、パーティーの財産はみんなのものだ。
やはり自分のために高い費用を支払ってもらうというのは憚られる。
「あっ、でもおじさんのアーティファクトで修理できるんじゃない?」
「う~ん、でもコップはともかく、武器もきちんとできるのかよ。ちょっと心配だな~」
「まあ、取り敢えずやってみてもいいか? ダメなら武具屋に修理に出せばいいわけだし」
俺はマジックペンを顕現させて破損個所の辺りにペン先を当てた。
するとキラキラとした光の粒子がショートソードの一部分に集まり、しばらく滞留していたかと思ったらそのうち光は収まった。
「じゃあ、改めて鑑定してみるか」
――鉄のショートソード(状態・普通)
攻撃力 10
おおっ、ちゃんと直ってる!
俺のアーティファクトでどこまでの破損に対応できるかはわからないが、ある程度のものには対応できそうだ。
正直、冒険者パーティーでの支出で武器・防具の維持のための費用はばかにならない。
Cランクに上がったばかりのこのパーティーにとっては費用の大きな節約になるんじゃないだろうか。
俺はパーティーの活動そのものに直接役立っていることにふつふつと喜びを感じた。