12 おっさんは労働者
「ただいま~」
冒険者ギルドでの手続を終えて俺はパーティーハウスへと戻ってきた。
「おかえりなさい、どうだった?」
「ああ、報告書は無事に受理してもらえたし、俺の加入届もきちんと出してきた。これで俺もこのパーティーの正式なメンバーだな」
「あっ、そうそう。おじさんとの契約書をまだ作ってなかったんだけど、おじさんに作ってもらってもいいかな?」
「契約書? ああ、そうだな。ただ、パーティーの事務職のは冒険者ギルドの雛型があるからそれを使った方が簡単だし確実だぞ」
「えっ、そんなのがあるの?」
パーティーの構成員である冒険者の立場は、パーティーの従業員でも職員でもない。
報酬の分配はパーティー結成時の定款によることもあれば、パーティーの構成員である冒険者同士の協議によって決めるということもある。
定款の定めにもよるが、紛争が生じた場合はリーダーが裁定を行うとされているのが一般的だ。
その他、特定の冒険者、だいたいが有名どころの冒険者でパーティーに乞われて加入する場合には、加入時に特別な取り決めをすることがあるし、特定内容のクエストについては事前に特別に取り決めをするということもある。
一方で俺のような事務職は、あくまでもパーティーに雇用されるという形になっている。
つまり、労働者として労働時間、給与、休日の取り決めがきちんとされている。
労働者として王国が定めた労働者法にのっとった契約をすることになる。
「おじさんには悪いんだけど、うちはこれくらいしか出せないんだ……」
アンジェが出してきた金額は確かに安かった。
俺がいた古巣の金額の半分ほどだ。
「いや、問題ない。パーティーハウスに住まわせてもらえるわけだし、1人で生活するには十分だ」
俺は、冒険者ギルドの出している雛型契約書を俺の事務ファイルから取り出すと、そこに給料及び支給日、労働時間、休日について埋めていく。
「よし、こんなものかな?」
俺と『華乙女団』のリーダーであるアンジェが署名して本日付け労働契約成立だ。
「ごめんね。ボクたちがもっと稼いだらもっと給料増やすから」
「ああ、期待して待ってる。でもまあ、無理はするなよ? 死んだら元も子もないからな」
俺はそう言ってアンジェのピンク頭をぽんぽんと2度ほど叩いた。
「はわわっ、子ども扱いしないでよ」
「ああ、悪い悪い」
しかしよく考えてみたら俺の古巣は給料こそ、ここの金額よりも高かったが、仕事を上手く回すために個人的な支出もかなり多かった。
そのため結局手元に残ったのはわずかだった。
このパーティーの子たちは素直な子たちだし、上手くいけば前の職場よりも手取りが多くなるかもしれない。
俺はそう思いながら、アンジェのピンク頭をくしゃくしゃとなで回した。