5話 「ヘラクレス」
「Sクラスクエストってなんだ?」
「世界中の各国の偉い方々が全国のギルドに出す最重要クエストです。
難易度は非常に高いですが、報酬がかなり良いのでみんなこぞって参加するんですよ」
Sクラスクエストという名はクエストを受けられる人のランクではなく難易度のことについて言っているのか。
「じゃあ、このギルドの人は全員そのクエストに行ってしまったと」
「はい。なんでも、数百年ぶりらしいですし。
それに、報酬でとんでもないものが与えられるとかどうとか」
報酬ねぇ……
帰るかもしれない転生してきた俺にとっては手に余るものかもしれないな。
ただ、皆がこぞって参加するくらいだ。
一生遊んで暮らせる金とかだろう。
こちらの豪遊生活がどんな風かは分からないが、一回経験してみたいものだ。
「俺はそのクエストに参加できるのか?」
「できないことはないですが、三人以上でパーティーを組まないといけないんですよ」
三人以上のパーティーか。
今、このギルドには受付の人しかいないみたいだし、行くとしても二人しかいないのか。
「他に残ってる人はいないのか?」
「おそらくいないと――」
「「「バゴォォォン」」」
何だ?
入り口のほうからだ。
「ただいま!! 俺様のギルドよ!!」
こ、この口調は……
「どうやらまだいたみたいですね」
「ああ」
ズカズカと歩きながら現れたのは……最初に俺に斬り付けてきたあの男だ。
「あれ、見ない顔だな……なっ!? なんでここにっ!?」
「あーー俺、ギルドに入りたかっただけなんだよね」
「ひ、ひぃ!!」
男は震える手で剣を構えている。
「魔物でも敵でもない。だから人を殺したりはしない」
虫だけど。
「そ、そんなの信じられるか!! 俺は見たんだぞ? その鎧が虚空から現れるの!!」
「そういう魔術なんだ。だから落ち着いてくれ」
「……」
何とか治まったか。
「よし、これで三人揃ったな」
「え?」
「は?」
……何かマズいことでも言ったか?
「まさか……Sクラスクエストに行くってわけではないですよね?」
「お、俺、余りもんだぜ? 直ぐに死んじまうよ」
「……行ってみないとわからないだろ?」
「お前、クエスト内容がどんなのか分かってるのか?」
クエスト内容?
相当危険であることは承知しているが……
「ご、『五大龍天聖』を殺した奴の探索だぜ? 考えるだけでぶるっちまうよ……」
「ごだいりゅうてんせい?」
「なんだ? 知らねぇのかよ。『五大龍天聖』つうのはな――」
彼が『五大龍天聖』について話したのは、正に伝説というレベルに近しいものだった。
◯
五大龍天聖。
数千万年前、この世界を生み出した最初の五人。
それぞれが『煌龍』『滅龍』『銀龍』『炎龍』『黒龍』と呼ばれている龍を従えている。
その力は絶大で、森羅万象全てを操ることが可能で、神と崇められていたという。
水を創り、生命を創り、大気を創り、炎を創っていた。
だが、約1300万年前、事件は起こる。
一人の男が現れた。
その名もヘラクレス。
彼はあろうことか……初代五大龍天聖を全員殺害した。
その理由は定かではなかった。
最初、ただの人間が神と等しき五大龍天聖と戦うことは有り得ないとバカにされていた。
しかし、戦いは熾烈を極めたという。
その影響で、五大龍天聖が創り出した世界は九つに分裂。
……その中に、人間だけが住む世界もできたらしい。
そして、五大龍天聖を殺してなお、ヘラクレスは戦い続けた。
そこに現れたのが、『九傑騎士』。
彼らはヘラクレスと200万年に渡り戦い続けた。
その結果、殺すことは出来なかったものの、ヘラクレスを封印することに成功する。
これらの戦いは『ラグナロク』と呼ばれた。
だが、九傑騎士側も四人が死に、魔力も大量に消耗し、また被害も尋常では無かった。
そこで、九傑騎士の残った五人が龍と契約。
五大龍天聖と名乗り、世界を再建した。
◯
……桁がおかしい。
数千万?
200万?
世界が九つに分裂?
色々滅茶苦茶じゃないか。
ヘラクレス……話を聞くにただの人間だ。
何故戦い、何故そんなに強かったんだろう?
「それから彼らは世代交代をしていったんだ。ま、寿命でだがな」
寿命か。
何年ぐらい生きていられるのだろうか。
俺も……その五大龍天聖とやらになれば寿命が伸びるのか?
「だが!! 今回は!!」
な、何だ?
「誰かに殺されたんだ。寿命ではない。世界中にある五大龍天聖の設置した【石碑】から【紋章】が消えたんだ」
「つまり……?」
「つまり、ヘラクレスが……復活した可能性があるということさ」
な、なんだと……
ヘラクレスが?
俺は足が細やかに震え始めるのを感じた。