3話 「鎧」
まずは……町だな。
あの二人組が行った方向、そこにある筈だ。
500メートル程飛んでいくと、小さな町が見えてきた。
中世ヨーロッパにありそうな、レンガ造りの家が所狭しと並んでいる。
地面は白い石畳で、一言で言えば美しい。
少々遠かったが、30日間ずっと飛び続けてきた自分にとっては屁でもない。
それに、冒険者……だろうか。
アニメや漫画でよく見る格好をした男女たちが沢山いる。
中々運がいい。
「よし、ひとまず全員の血を吸ってやるか」
俺は近くにいた魔道士らしき少女の腕に止まり、血を吸った。
《スキル『吸収』を発動。『言語理解』『上級土魔法』『空中浮遊』を獲得しました》
お、中々いいんじゃないか。
『言語理解』。
便利そうなスキルをしている。
ただ、『空中浮遊』はなぁ……
俺、蚊だから空飛べるし。
次だ、次!
俺は町にいる人の血を隅から隅まで吸っていった。
《『剣技・上』を取得……『剣技・上』を取得……》
おいおいおい……剣士、多すぎないか?
同じスキル取得しても意味ないし、そもそも蚊だから剣振れないんだよ……なぁ、『剣技・上』って強いのか?
《はい、弱くはありませんが強くもありません。つまり普通です。剣技には「上」の上に特、絶、滅があります》
なるほど。
普通の剣士しかいないこの町じゃ「上」以上は得られないということか。
最後はあの路地裏に座っている老人。
……弱そうだな。
《スキル吸収を発動。『剣技・絶』を取得しました》
え?
この老人……そんな強いの?
く、クソッ!!
俺が人間の形ならば剣を振り回せたのに!!
……ちょっと待て。
確か、『龍装』とやらを龍の血を吸った時に獲得していた筈。
『龍装』もイメージとかで形を変えられたりできるのだろうか。
「人のイメージ……人人人人人……『魔装』!!」
目の前に、高さは、180センチはあるだろうか。ゴツゴツした西洋風の黒い鎧が現れた。
所所に赤い筋が通っている。
「中々良い出来なんじゃないか?」
しかも、中に入れば鎧が自由自在に操れる。
まるで人間の体を手にしたかのようだ。
……話すことはできないか。
「う、き、急に鎧がっ!!」
「に、逃げろぉぉ!! 誰かギルドの冒険者を呼べ!!」
周りが騒がしい。
そんなに鎧が現れるのは珍しいことなのだろうか。
それよりも……ギルドか。
よく妄想したものだ。
魔法を使い、剣を使い、敵を次々と倒していく自分の姿を。
一度行ってみるのも手だ。元の世界に戻る手掛かりも見つかるかもしれないしな。
俺は俺を怖がっている人たちが逃げていった方向へ行ってみることにした。
正面に周りの建物より少し大きめだが、同じくレンガ造りの建物にぶつかる。
「……ここがギルドか」
想像していたより随分とこじんまりとしている。
小さな町だから仕方ないのかもな。
俺は扉へ手を掛けようとした。
「おい!!」
……何だ?
俺は声のした方へ向いた。
ギルドの人だろうか。
剣を両手で構えてこちらに先を向けている。
「新種の魔物か? 俺様が殺してやるぜ!!」
ま、マズい。
何とか敵では無いということを伝えなければ。
だが、口が無い。
ジェスチャーで何とか……
「……っ!! 魔法を使う気か!!」
切り掛かってくる。
どうやら逆効果だったようだ。