2話 「龍」
「よぉーし、出来れば強い人間の血を吸いたいな。強い魔法とか使えそうだし」
アニメやマンガじゃ、魔王やら龍やらが強いイメージだけど、こんな洞窟みたいな所にはいないだろう。
「……!!」
光だ。
出口だろうか。
あれ?
違った。
何やらギザギザしたピカピカ光ったデカいやつが置いてあるだけのようだ。
綺麗だな。
珍しい石とかなのだろうか。
それにしても、何故かこの石からさっきのおっさんと同じ匂いがする……え?
ピカピカ光る石を飛び越えようとした時、とんでもない物が目に入った。
ほ、骨……?
光る石の先にデカいトカゲの頭蓋骨が引っ付いている。
まさか……龍の死体なのだろうか?
い、いやーそんな訳……えぇ?
でも、もし肉の部分にちょっとでも血が残っていたら……
俺、もしかして運がいい?
俺は龍の死体の周りを飛び回る。
あった。
胸骨だろうか。
骨と骨の間。
腐りかけだが、ちゃんと残っている。
それでは……頂きまぁ〜す!!
プスッ。
俺は口をその肉へ突き刺す。
そして、そのまま吸い上げる。
うーん。
相変わらずマズい。
鉄の味だ。人間とそれほど変わらない。
しかも、血を吸うと龍の体がボロボロと崩れ始めた。酷い腐りようだ。
《スキル『吸収』発動。『超再生』『火特級魔法』『魔力探知』『龍装』『状態異常耐性』『精神攻撃耐性』を取得しました》
え?
普通に凄そうな名前いっぱい並んでね?
ドラゴンの力を手に入れた蚊、ここに降臨!!
大きさが全く違うけどね……
ところで、『火特級魔法』って一括りにしてあるけど何が使えるんだろう?
《『火特級魔法』は、使用者の性格、目的、欲望、感情で様々な形に変化する魔法です》
なるほど。
例えば……こんな感じ?
俺は大きな火の玉を想像した。
そして、それを打ち出すイメージを思い描く。
んーー魔力と呼べばいいかわからんが、それっぽい物が体の中を蠢いている気分だ。
《それをイメージに乗せてください》
こ、こうか?
俺がその「魔力」をイメージ通り打ち出した瞬間、巨大な火の玉が目の前に現れた。
うおっ、成功だ。
《スキル『炎球』を取得しました》
こうやってスキルを取得するのか。
しかし、今のままでは宝の持ち腐れだな……
出口を探さないと意味がない。
◯
体感30日間。
俺は『火特級魔法』を使いながら、必死に飛び回った。
おかげで様々な魔法を覚えることができた。
あのおっさんとドラゴンに会ってから、不思議とお腹は減らない。しかも、蚊の寿命は結構短かった筈だが、死ぬ気配もない。『超再生』のおかげだろうか。
そう言えば、何故あのおっさんとドラゴンはあんな所にいたのだろう?
まぁいいか。
「あっ、あれは!!」
今度は本物の出口のようだ。
やっと日が見られる。
「ふー、久々の太陽は清々しいぜ!!」
「「「バチン」」」
え?
潰された?
だが大丈夫。
俺には『超再生』がある。
「なんでこんな所まで蚊がいるんだよ。マジでウザいな」
「確かに……どこにでもいますもんね。消えてほしいです」
「よし、気を取り直して〈龍の洞窟〉へ行くぞ!!」
この二人組……ちょっとイラッときたな。
確かに蚊はウザいが、自分が言われるとなると違ってくる。
ここは一つ、俺が30日の間に養った魔法で脅かしてやるか。
「『特大炎球』!!」
俺から火の玉が出ると同時に、辺り一面が火の海になる。
「う、うぉぉぉぉ、ど、ドラゴンが襲ってきた!!」
「キャアアアア!!!!」
情けない声を上げてどこかへ行ってしまった。
本当は血を吸いたかったところだが、仕方ない。
「よし、次はどこへ行こうかな……」
俺は二人が逃げていった方向へ飛び始めた。
――――――――――――――
「彼」が龍の血を吸ったその日、全世界が恐怖に包まれた。
『五大龍天聖』の一人に仕える、煌龍『ファフニール』の【紋章】が全世界の【石碑】から完全に消滅した為である。
【紋章】が消えるのは龍が死んで主を変える時。
それが消えるとなると、必然的に3000年変わらなかった『五大龍天聖』を殺した者が存在するということになる。
各国はその『五大龍天聖』を殺した何者かを突き止める為、「Sクラスクエスト」として全世界に依頼することになる……