春うららかに
それから数日後。
あっそやそや。
あいつの正式名称・・・じゃなくて、なんや。
本名?んー、まぁいいや。とにかく名前知ってん。
『佐古田雄介』
クラス名簿に載ってた。
こいつなー、しばらく観察した結果、相当モテるらしい。
どうやらうちの顔偏差値機脳にメンテナンスの必要はないらしいよ。
それともう一つ。
これちょっと厄介。
なんとあたしと佐古田が付き合ってるとかいう噂がクラス内で流れてるようなのだ。
無愛想なあたしと女子の憧れである佐古田。
最初は誰も信じなかった。らしい。
でも佐古田が放課後部活をサボってあたしと教室にいたという、かなり言葉足らずな証言がやたら噂の信憑性を上げてしまった。
ほんま誰やねん、そんな証言したやつ。
で。
その誰かさんのせいで、あたしはここ数日毎日放課後こわーい女の子たちに呼び出しをくらってる。
「あんたさぁ、ほんまに雄介と付き合ってへんの?」
「付き合ってへん。」
誰があんなやつと付き合うかい。
「じゃあなんで放課後二人でいたんさ!」
「あたしは日誌書いてただけで、そこにあいつがやってきただけ。」
「はぁ!?じゃあ雄介があんたに会いにきたってこと!!?ありえへん!!!」
なんでそうなんねん。
「変な妄想止めて下さい。ただ忘れ物取りに来はっただけ。」
「嘘をいいって!!!あんま調子のんなよ!」
一体あんたはあたしになんて言ってほしいねん。
こんな押し問答が毎日繰り広げられてる。
ほんまはた迷惑な話やわ。
まぁ部活もあるし、ある程度のところでお引き取り願うんやけど、いっこうにあたしと佐古田の仲を疑う人は減らない。
なんでだ。
こんだけ否定してるんやぞ。
ほんま困った困った。
っていうか、なんであの人たちは佐古田に聞かないんだ。
よんどころのない事情があるんやろうか。
なーんて考えていたら、かなり面倒くさいことになってた。
職員室。
教職員がコーヒー啜ったりごちゃごちゃ仕事をしてる、確実に生徒より快適な場所。
一般常識。
当たり前である。
昼休み。
あたしは昼寝をしようと机に突っ伏していた。
まどろみ、そして夢の世界への一歩を踏み出そうとしたとき。
あたしはなぜかそこに、しかも校内放送で呼び出された。
機械の箱が、ノイズの混じった担任とおぼしき声であたしの学年組名前を言ったのだ。
!!!!!?
夢への一歩は踏み出せなかった。
メジャーデビューを目指そうとした矢先、バンドメンバー全員就職決定しちゃったような気分・・・ではないけれど、とにかくびっくりした。
なんだなんだ!?
あたし今週何をした!?
そりゃ偶然街でハゲ教頭と国語の美人先生が仲良く不倫してるところは見た!
体育の忘れものを取りに行った際に、担任がこっそり女子更衣室に盗撮カメラを仕掛けているのも見た!
ついでにクラス1の美人さんである加藤さんのリコーダーできらきら星吹いてたのも。
あとはなんや?
学年トップと噂の秀才君が万引きしてたのを見てしまったからか?
ばっちり目は合ったのは覚えてるけど、あたしあんまり顔覚えてないんやけど。
さまざまな記憶が頭ん中を駆け巡る。
一体あたしは何をしたんやー!!
必死に今までの記憶を思い起こしていると、ふと誰かからの視線を感じた。
体を起こして、周りを見た。
クラスのみんながあたしを見てた。
ん?
あたしも周りを見返す。
すると、あたしの斜め前でしゃべっていた二人組のちっこい方が言った。
「行かんでいいん?至急職員室に来なさいって言ってはったけど・・・。」
・・・・。
「あっ、そっか。」
最優先事項を忘れていた。
あたしは大至急行かなあかんのや。
教頭と国語美人教師の不倫証拠写真をどこにやったかを思い出す前に。
「お前から嫌がらせを受けているという生徒がいるんや。」
・・・・。
「彼女はもう耐えられませんと、今保健室で泣いている。」
・・・・。
「お前が金輪際嫌がらせをやめ、クラスの皆の前で自分のしたことを後悔し、謝ってくれるなら、お前を許すと言っている。」
・・・・。
「どうなんだ?」
どうなんだと言われましても。
「彼女って誰ですか?」
あたしは静かに聞いた。
先生は呆れたように言った。
「そんなもんお前が一番知ってるやろうが。彼女は嫌がらせを受けていたことをみんなに知られたくなくて、仕方なく誰だか分からないように、君にクラスみんなの前で謝ってほしいと言ってるんや。」
・・・・。
ってことは、被害者役はあたしのクラスメート。
ついでに担任がこんなに盲目になってるってことは、クラスの中でも先生好みの可愛い女の子。
フムフム。
あのへんのグループか。
個人でやってんのか。
あるいは集団でやってんのか。
こんなアホくさいこと・・・やっぱり集団か。
担任の表情からしても、弱みを握られてるってわけでもなさそうやし・・・。
やっぱりリコーダーの威力か。
そう考えると、なんとなく悲劇のヒロイン役が分かってきた。
それにしてもこの人アホか。
あたしはこんな茶番につき合わなあかんのか。
めんどくさいなー。
「リコーダーってそんなに美味しいんですか?」
思わず、ポロッと言っちゃった。
嘘です。
確信を持って、笑顔で言ってみました。
うわー、結構日にちあきましたねー。
1年くらい前に携帯で書いたやつをほとんどまる写ししてるんで、文章の拙さはご愛敬・・・・