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徒然バナナ  作者: 志亜
1/2

春の中でも夜はまだちょっと寒いくらいのころ。

春の昼下がり。


正確に言えば、5月下旬の快晴の、5限目の24分経った時。


古典の先生が話す徒然草という子守唄を聞きながら、あたしはゆっくり昼寝を楽しんでいた。


ポカポカ陽気が肌を撫ぜ、温い風がたまに窓から入ってくる。


あぁ幸せ。


心からそう思う。


こんな気持ちになれるのは、あれだろうか。


やっぱり春だからだろうか。




「おい、俺の授業で寝るとはいい度胸やな。」



古典の先生は、体育の先生みたいにマッチョさんだ。

その筋肉に比例して、声をでかい。

あたしがあの先生を褒めるとしたら、いつもはいてる黒いハーフパンツからでも分かる、ケツのプリプリさだろうか。

ケツまで、鍛えているらしい。



「・・・。」


「おい、無視か。先生は悲しいぞ。」


マッチョ先生を悲しませるとは、あたしも偉くなったもんだ。


「・・・。」


「おい、あと20分や。それにここは今理解しとかなやばいぞー。」



あと20分の長さをマッチョ先生は知らない。

時間はみんなに平等だが、時間の感じ方は平等じゃない。

一試合に一か月もかけるスポーツアニメと先生の授業とじゃ全然長さが違う。



「聞いてんのか!?」


「・・・聞いてません。」



あたしは無意味に嘘つきだ。



「なんだ、起きてんのか。なら、さっさと体起こせ。おいっ!!」


「・・・。」



先生がしばらく黙る。

あたしはまた夢の世界に戻る。


・・・・。

ちょっとした沈黙。


けど。


ガララララ。

閉て付けの悪い教室の扉が開く。

沈黙は本当にちょっとしたものだった。

誰かが入ってきた。


誰かって?

あいつである。

顔は知ってる。

名前は知らん。

ってか、あたしは、クラスの大半の人らの名前を覚えてない。

半分くらい、顔も覚えてない。



「いやー、先生。今日はやたら良い天気ですね!!そいつが寝るんも無理ないですよ。」



やつは笑顔で言う。

それはもう気持ち悪いほどの笑顔で。

明らかに、ふざけてる。



「・・・佐古田、今は昼だ。」



先生、ツッコミ所間違ってます。

思わずそう口から出そうになった言葉をなんとか飲み込む。



「知ってますよー。さっさと授業再開して下さい。」



先生のツッコミをあっさり斬り、やつは席に着いた。

なんなんや、あいつ。

先生も呆気にとられてる。


クラスメートの反応はまちまち。

笑顔で「今から来て何すんねん!」とか言って笑う奴。

興味なさげに黒板を板書してる奴。

ことの行き様を黙って見守る奴。

おもしろいのは、奴に非難の目を向ける人がいなかったってことくらいか。

つまり、アイツはああいうことをしても許される、存在ってこと。


・・・・って、やつのせいで目が覚めちまったぜ。

あーあ、もうちょっと寝たかったのに。

目覚めたからにはしょうがない。

あたしはしぶしぶ体を起こした。




この日の放課後。


そもそも(ここまで喋ってきて大変申し訳ないんだが)、あたしが話したいのはこの日の放課後のことなのだ。

その日は、日直の日であり、卵のタイムセールの日であり、数学の課題提出日だった。


そんで、さっきは先生に怒られた。

さらに、もう一人の日直が急遽早退したため、その人の仕事であった日誌をあたしが書かなくてはならなくなってしまった。

しかも、あたしはそのことを教室を出る直前に思い出してしまう。


あたしは悩んだ。

卵か日誌か。

日誌か卵か。

卵日誌卵日誌卵日誌・・・・・・。


今から日誌を書いてたら、確実に間に合わない。

でも、もし日誌を提出せずに下校したら、翌朝担任に何言われるか分からん。

ネチネチネバネバ厭味教教祖のあの担任に怒られるのは、やだ。

しかも早退したあの人まで言われるだろう。

あの人って言ってるのは、ただ名前を知らんだけやからお気になさらず。

あたしだけならまだしも、他人にまで飛び火させるのは色々めんどいしなー。

しゃあない。

卵は諦めよう。


・・・っていうのを、5秒くらいぼーっと考えて。

あたしは、まだ喧噪の残る教室で一人、日誌を書くことにしたのだ。




気づいたら周り静かになっていた。

嘘です。

静かになるまで、教室に残ってみました。

静か。


窓の向こうのグラウンドでは野球部が列になって、あたしには理解できない掛声で走ってる。

『ファイ、オ!!』ってどういう意味なんやろ。

隣の新館校舎では吹奏楽部の練習する音が聞こえる。

トランペットのふぬけた音や、打楽器さんの叩くの細かい音。


悪くない。

こうして残ってぼーっとするのも中々いいもんだな。


日はすでに雲までも赤く染め、日が長くなってることを無言で教えてくれる。


あぁ、こういう時間もなんか幸せ・・・・・。

そんななんとも言えない空間にたたずんでいると、世の中にはKYと呼ばれる雰囲気破壊者がいるもので。



「あっつーーー!!!って、うわっ!なに?一人?うわさみしー。何してんの?あぁ、日誌か。やんの忘れてたんか。アホやろ、お前。って、俺何しに来たんやっけ?あっそうそう。ここにプリント入れっぱなしにしてて・・・・って嘘やん!?ない!田口のやつ隠しやがったな!」



マシンガントーク。

ある意味すごい。

あたし、まだ一言もしゃべってないんですが。


とりあえず、シャーペンを置きやつを見る。


田口と思われる人の机を探り、必死にプリント?を探してる。

部活の途中だったか、バスケとおぼしきユニフォームを着てた。


・・・・・・。


よく見るといい男だな。

あたしの顔偏差値機脳が作動される。


58.7


うちの頭がそう告げる。

こいつモテるやろうなー。

ちなみに偏差値60以上は日本の芸能人の方々。

70以上はオーランド・ブルームなどすべて外人である。



あたしの顔偏差値はいいとして、あたしはどうすればいいのだろう。

プリントならさっき誰かが教卓の下に隠してたよ・・・なんて言える訳がない。

そんなことしたら、後でなんて言われるか分かったもんじゃないし。

一応口止めされてるし。


ってか、さっきニヤニヤしながらプチ犯罪に手を染めてたのが田口か。

明日には忘れてそうな名前やな。

うん。

絶対忘れる。




「なぁ、田口俺のプリント隠してへんかった?」



ふと、やつがあたしに問いかけた。


そんなこと言われても困ります。



「知らん。」



とりあえずそう答える。



「お前ずっとここおったやろ?見てへんの?」


「知らん。見てへん。」



だから言えるわけないじゃないですか。



「まじで・・・。はぁ・・・。あれ今日中に出さな、俺、人生終わるって・・・・。」



人生かよ。

んなおおげさな。


・・・・。

なぜか沈黙。


やつは黙ってあたしを見る。

あたしも黙ってやつを見た。


見つめあい・・・ではなく、にらみ合い。



「・・・お前、やっぱ知ってるやろ。」



やつはあたしを睨んで言う。


どうやら本気で困っているらしい。



「知らん。」



あたしもかたくなに言う。


なんだかオウムになった気分や。



「田口に口止めされてんのやろ。」



ぎくり。



「言ったら明日田口に何言われる分からん。俺には悪いけど、教えることはできん、そんなとこか。」



ご名答。


ピンポンピンポン大正解。


あたしも負けじと言い返す。



「だったらなんなん?」



必殺・開き直り。


やつは溜息をひとつついた。



「たしかに田口はこのクラスの中心人物やし、教えたらお前があいつになんか言われる可能性は十分ある。」



分かってるなら、自力で探せよ。


あたしは黙って話を聞いた。



「でも俺は今すぐあのプリントを出さな、まじでやばいねん。」



それがどうした。



「一生のお願いや。プリントのありか教えて。」



『一生のお願い』


あたしはやつに意地でもプリントのありかを教えないことを決めた。



「絶対いや。」



あたしはやつの目を見て言った。


やつもあたしを見て、そしてまた一つ溜息をつく。


空が少しずつ夜の準備を始めていた。




「人がこんなに頼んでんねんから、もうちょいマシな返事できひんの?俺のことそんなに嫌い?」



やつは呆れたように言う。


・・・・嫌いねぇ。


だから、あたしも呆れたようにやつに言った。



「嫌い以前にあんたなんかに興味ない。言わないのは単に自分の保身のため。それと、あんたのその一生のお願いにムカついた。ただそんだけ。」



やつは面喰った顔を見せたが、それは一瞬で消えた。


分かりやすいやつやなぁ。



「お前いい加減にしろよ。人がしたてに出りゃあ調子のりやがって。」



キレたのか。


いくらムカついても、クラスメートの、しかも初めてしゃべった女子相手にキレんなよ。


カルシウム不足か?


あたしは心の中でやつにツッコんだ。



「嫌なもんは嫌。」



あたしははっきりと言った。


じゃないと、気押されそうだった。



「高校生にもなって、嫌とか知らんとかしか言えへんわけ?」



めんどくさいから言わないだけです。


やつは言う。



「お前さぁ、そうやって自分の言いたいこととか言わずに、いつも不満そうな顔してるよな。なんなん?俺が好き勝手やってるから教えてくれへんの?」



かちん。


ついでにぷちっ。


あたしの頭ん中にやつの言葉がしみ込んでくる。

それは黒い墨汁みたいに広がっていった。


むかむか。


あたしはやつを睨んだ。

やつはあざけるよに笑った。



「またそうやって何も言わへんの?そうやって心ん中で人をバカにしたり、笑ったり。それの何がいいん?そんな暗い陰湿な生き方よくできるよな。俺には無理やわ。」



カッチーン。


パンッ!!!


痛々しい乾いた音が教室に響いた。

あたしは黙って鞄を持って教室を出た。






言い忘れてたわ。


あたしこう見えて、堪忍袋の緒が切れやすい性格なんですよ。


ご愁傷様、佐古田君・・・・だっけ?



はじめまして。

志亜と申します。


とにかく完結目指します。


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