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後編

本田;

 花子さん苦しそうですね


西村;

 花子さんはさっきまで携えていたうつろな目はもうすっかり消えてしまっています。首を絞められ苦しむ一人の少女として今そこに立っています。

 彼女が苦しむたびに実況のカメラも震えています。相当な力があの空間の中に働いているのでしょう。まさに呪いvs呪い、その最終決戦が始まっているです。おおっと、花子さんの力が少し強く鳴って来たでしょうか?


本田;

 花子さんが少し力を上げてきましたね。カメラが揺れていて見えづらいですが、少しずつ貞子の手が花子さんの首から離れてきています。


西村;

 花子さんのプライドとでもいうのでしょうか。ここでやられるわけにはいかない。私はここまで這い上がって来たのだ。こんな女には負けるわけにはいかないんだ。その思いが彼女を強くしています。

 カメラの揺れはどんどん強まっています。このすべてが花子さんが出している本当の力です。これまで試合までではこんな姿を見ることはありませんでした。力を使うべき相手だ、そのように判断したのでしょう。さすがは日本を代表する怨霊、そう簡単にはやられません。貞子の手が少しずつ引きはがされていきます。


本田;

 ここから貞子はどう立て直して来るかですね。このままいけば、今の有利な形勢はすぐに逆転されてしまいます。ただ花子さんのペースに流されてしまうままでは引きずりこまれてしまうリスクもありますし、その恐怖は彼女自身がいちばんに感じていることでしょう。


西村;

 さあ、花子さんは貞子の手をしっかりと握りしめたまま少しずつ自分の首から引きはがしていきます。私はこんなところでやられる器ではないのだ。過去にあった呪いの数々が彼女を強くしてきました。そのスカートに染められた血を彼女は吸収していると言われることもあります。

 いま、花子さんが出している力はその者たちの力のほんの一部かもしれない。さあ、今その手を引きはがすか? どうだ? どうだ? 引きはがした―!!


本田;

 カメラがまた揺れましたね。これ、相当な力を花子さんは使ってますよ。


西村;

 恐ろしい妖力です。一度は完全に不利な体勢に持ち込まれたとしても、それを自らの力のみで解決してしまいました。呪う側は呪われる側にだけはなってはいけない。それはすなわち自分の存在のすべてを否定されることになってしまう。そんな彼女たちのジンクスが自らを強くしています。

 訳も分からずに試合の舞台に連れてこられる彼女たち、本来なら戦わなく手もいい相手なのかもしれない。しかし私たちは戦わなくてはならないのだ、なぜなら、そこに呪いの代名詞が現れるからだ。悲しい戦いの運命を彼女たちは怨霊になった今も多くの興奮を湧きだたせながら生き抜いております。このまま最強の名を欲するままに花子さんの流れに持ち込むのか?


 おおっと、これは?! 何ということでしょう! 今まで貞子の腕をつかんでいたはずの腕がねじれ始めました。膨大な力を持っているはずの腕が雑巾の如くにぐるぐると絞られていきます。


本田;

 貞子の力ですね。本来は人間の首なんかをねじってしまったりするのですが、さすがに花子さんには防がれてしまったのですかね。それで腕なら、という判断なのかもしれません。


西村;

 これでもか、これでもか! というほどに花子さんの腕がねじられていきます。しかし、花子さん、力を緩める様子はありません。そこはやはり怨霊としての力なのでしょうか。己の身は後でどうにでもできる。まずはこの状況から何とか自分優位にまで持っていく。

 苦しみながらも戦う彼女の姿はもう幼い少女の姿ではありません。前進に鎧をまとった一人の戦士として、今貞子に立ちはだかっているのです。貞子の手は花子さんの首に近づくことができません、両者一歩も引かない攻防です。


本田;

 お、少しずつですけど貞子がトイレの中に 引きこまれ始めていますね。


西村;

 試合が動いてまいりました。試合の経過時間はすでに半分を切りました。残り時間わずかですが、ここでこれまで苦しい時間を耐えてきた花子さんがついに攻めの姿勢に出ました。自分の首を絞めていた貞子の腕をしっかりと掴んだままその体をトイレの中に引き戻し始めました。

 花子さんの腕は依然としてねじれたままです。だがしかし、それでもかまわないということでしょうか。恐ろしい執念です。お前が先に仕掛けてきたんだ。どうなったとしても覚悟をしろよ? かつていじめてきた人間たちに対しても同じように呪い続けてきたのでしょうか。もうすっかり花子さんの顔には狂喜の顔が浮かんでいるようにも見えてきました!


本田;

 貞子は何とか腕をほどこうとしていますが、なかなか難しそうですね。


西村;

 試合の流れは一転して花子さんのものへと変わってしまいました。まるでここまでの流れが全て罠だったかのような完璧な流れです。貞子は相手の首を絞めていたはずの自分の手によって、今度は自分自身の首を絞めることとなってしまいました。

 体なんて持っていないはずなのに、花子の腕が離れない。ここには私たちの知っている自然の論理なんて働かない。ただ恐怖の想像力、呪いの想像力が全てを決めてしまいます。

 呪う側は何があっても呪い続けなければならない、決して呪われてはいけないのだ。呪われるということはすなわち自分の消滅を意味します。さあ貞子、このまま花子さんの赤いスカートの一つとして消えて行ってしまうのか……?!


本田;

 ああっと、貞子さん姿を消しましたねえ


西村;

 これは……、一時撤退ということでしょうか。これまで花子さんに引きずり込まれていた貞子が姿を消しました。そして……ああ、呪いのビデオが今もう一度再生されましたね。これはどうやら貞子一度自分のテリトリーの中に戻ったということでしょう。

 この試合、両者とも一度だけ自分のテリトリーの中に戻ることができます。しかし、それも10カウントのみ。もしそれ以上の時間出てくることがなければ、もう一度反則負けということで、貞子の場合は呪いのビデオ丸ごと消去されてしまうことになります。そうすれば二度とこの世界に姿を現すことができません。貞子もそれはわかっていることでしょう。

 今レフェリーのカウントが始まりました。


本田;

 貞子がこれからどう出てくるのかも気になりますね。花子さんはさっきの奇襲を受けて攻撃には警戒していることでしょうしカウンターが一番怖いことは貞子自身がいちばん実感していることでしょうからね


西村;

 試合の残り時間ものこり3分を切ってまいりました。ここから先は試合の片付け方にも注目して見て行きたいところ。

 さてレフェリーのカウントが始まっております。


のこり5・4・3・2……


 おおっと貞子勢いよく出てきた!

 今度はテレビから体を乗り出して花子の腕をつかみに行きました!


本田;

 貞子といえばこのポーズという感じですよね。これは貞子の側も花子さんを引きずり込むつもりで挑みにきたということでしょう。


西村;

 もうからめ手は必要ない。残り時間正面からぶつかりに行く、そういう意思の現れでしょうか。残り時間150秒。ここから先はほんとうの地獄が始まりそうです。呪いvs呪い、その力の強いものがゴングが鳴った時に生き残っている者だけです。

 貞子が今花子さんの腕をもう一度つかみに行った。花子さんも待っていたと言わんばかりにそれを正面から向かいう受ける。貞子が引っ込んだ間に花子さんの腕も正常に治っています。彼女の中には、一度貞子を退かしたという自信もある。これはひょっとしたら花子さんの方が少し有利なのかもしれません。

 さあ両者、腕をつかみ合い、硬直状態がつづきます。二人は動いていないのに、カメラの震えがさっきまでとは比べ物にならないものになってきました。今人間がこの中に入れば間違いなく即死してしまうでしょう。それだけ強大な力と力の応酬がこの中で今行われています!


本田;

 これは時間ぎりぎりまで硬直が続くかもしれませんね


西村;

 のこり60秒を切りました。タイムリミットももうすぐまで近づいている。先に力尽きた方がすなわち敗北者になることを意味します。自分の存在を守るためにも、絶対に相手を飲み込まなくてはならない。戦う意味なんて何でもいい。私はン呪い続ける存在でなければならないのだ。そのためには目の前にいるどんな敵でも容赦するわけにはいかない。負けてしまう訳にはいかないのだ。


 時間は残り30秒。


 両者睨み合っております。花子さんは入場した時のうつろな目をすでに捨て、相手を呪い殺す鋭い目をしながら貞子をにらみつけて、貞子は前髪に隠れたその顔から花子さんを呪い殺してやろうとじっと冷たい視線を送り続けています。カメラからは音は何も聞こえてきませんが、彼女たちの様子から、大きなうめき声が実況席の私たちのもとにも聞こえてきます。この決戦が始まって以来、最大の名勝負になることでしょう。


 残り10秒。

 さあ最後の踏ん張りどころだ。膠着したまま終わってしまうのか? どうなる? どうする? どうだ?!


本田;

 おっと、少し貞子が花子さんを引っ張り始めましたね。


西村;

 のこり5秒。

 貞子が花子さんを引きずり込見始めました。少し遅いか? 花子さんも必死に抵抗しています。少し引っ張られましたが、その位置からまた膠着しました。


3・2・1……


 ここでゴングが鳴ったああああああ!

 試合終了です!! 全日本怨霊大決戦・決勝戦はなんと決着のつかないまま終わる形となりました。


本田;

 これは、後日に再戦ということになるのですかね?


西村;

 試合の流れについてはレフェリーたちの判断も含めて、後日また知らされることになります。

しかし、今は舞台の様子を見てみましょう。

 ゴングが鳴ったことにより、花子さん達の動きも止まりました。

 まさに互角。呪いの底から生まれてきた彼女たちは今戦いの呪縛から解き放たれます。怨霊同士のの垣根を超えたこの戦いの中で本当に素晴らしいものを見させてもらいました。


本田;

 まさに決勝戦を名乗るのにふさわしい試合でしたね。


西村;

 ここで両者は互いの地へと帰っていきます

 ここで出会った二人は次に会うときにはまた敵として出会うことしかできない。しかし、その運命こそが再び二人をここへ引き寄せるのです


本田;

 素晴らしい試合でしたからね

 観客も大盛り上がりです。またすぐにこのマッチは実現されることでしょう


西村;

 それではみなさん、ありがとうございました。本日の実況は私西村と、本田アナウンサーでお送りしました。


 ……あれ、リングの様子がどうやらおかしいですね。

 貞子もトイレの花子も手を握ったままお互いホームへと帰ろうとしておりません。まだ互いの功績をたたえているのでしょうか?


本田;

 リング外にいたレフェリーが二人を引き離しに行きましたね。こういうこともありますので、やはりレフェリーの存在は必要ですね


西村;

 おおっと……レフェリーが今倒れました……! いったい何が起こっているのでしょう。


「西村さん、こ、こっちを見ましたよ」

「これはやばいかもしれない」

「早く逃げましょう」

「本田君、早くドアを開けに行って!」

「は、はい!」


「西村さん、ドアが開きません!」

「ばか、もっと力強く押せ!」

「無理です!びくともしません」


「ひ、ひえ」

「本田君どうしたんだ」

「ド、ドアが勝手に震えだして」

「そ、それ以上言うな!」


「ああ、あああああああ!」

実況をいっぱい聞いていると、何だかアクションがかけるようになる気がしてきました(笑)

結構書いていて楽しかったです。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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