ep.1(後編)
爆発音がした後、ビチャビチャと何かが飛び散り、俺の顔に冷たくドロッとしたものが付いた。
それを手で拭い確認すると、白いペンキの様な物で、それは手の上でウネウネと動き出した。
「ヒッ。」
短く悲鳴を上げた後、その白い物体を地面に払い落とすと、それは先ほどの爆発があった所へと向かって動き出した。
よく見ると、地面にはたくさんの白い物体が一カ所を目指して動いている。
その光景に背筋に寒気が走った。
俺がその場から動けないでいると、後ろから声が聞こえた。
振り向くとそこには白い髪に頭にはゴーグルをつけた少年が刃物を片手で振り回しながら立っていた。
「今回はスピード型、炎の能力獲得済み、喰った人数は一人くらいだな。後、要救助者あり。……また俺一人かよ!これじゃあ守り切れねぇぞ!おい、ザック、あとどのくらいで到着する?」
少年は誰かと話しているようだ。
返事が返ってきたのだろうか、内容は聞き取れないが少年の顔がどんどん険しくなっていく。
「おいおい、俺一人で一般人守りながら7分間耐えろって?馬鹿じゃねぇの?今回はスピード型で能力も獲得済みだつってんだろ!」
また何か返事が聞こえたのか少年は耳に手を当てたあと、舌打ちをすると
「わーったよ。その代わり今度こそ休暇を貰うからな」
少年はそういうといつの間にかできていた緑の穴の中に手を入れた後、再び手を引き抜くとそこには手榴弾が五つ握られていた。
そして、こちらに視線を向けると
「おい、大丈夫か?とりあえず、これ持っとけ。」
少年はそう言って野球ボールの様な物をこちらに向かって投げた。
俺はそれを地面に座ったままキャッチすると少年に視線を送る。
少年は俺がキャッチしたのを確認してからズボンのポケットに手を入た。
すると、俺の手の中にあったそれは青色に薄く光り、俺を包み込んだ。
「いいか、そこから絶対に動くなよ。動いたら命の保証はしねぇからな。」
それだけ言うと少年は化け物に向かって持っていた手榴弾の一つを投げつけた。
頭だけ再生できていなかった化け物の体がまた辺りに飛び散る。
少年は手榴弾を投げつけたあと、頭につけていたゴーグルを下ろし、化け物が再生していくところを眺めている。
少年は完全に再生したのを確認すると、
「再生完了まで一分三十秒。この前の奴より再生スピードは遅いな。これなら何とか7分位耐えられそうだな」
と、一人頷きながら言っている少年の言葉に化け物が怒りの声を上げる。
「舐めたマネしやがってぇ。オマエも死ね!!」
化け物がそう言って手を前に出すと、少年に向けて火の球を連発する。
少年はそれを軽々と躱しながら化け物に向かって走っていく。
手榴弾を近づきながら投げつけているのか、化け物の近くで爆発が起こっている。
少年は化け物のすぐ近くにまで迫った瞬間姿が消えた。
次の瞬間、上から大量のナイフが化け物の上に降り注いだ。
少年は化け物の頭上に飛んでいたようだ。
化け物の後ろに着地すると少年は化け物の周りを走りながらナイフを投げつけている。
と、一つのナイフが化け物の胸に刺さった瞬間、化け物の動きが止まった。
少年は化け物の動きが止まったと同時に周りを走り出す。
少年が走った所にはキラリと月の光に反射するものが見えた。
あれは、糸?
少年は化け物を取り囲むように糸を張っているようだ。
そして、少年の動きが止まり、少年が何かを引っ張るような動きをすると、化け物の体の中から赤く発光する四角いものが出てきた。
少年はそれを確認すると耳に手を当て、話し出す。
「おい、ザック。こっちは準備完了だ。もう着くか?まだ?これ以上かかるなら俺一人でー」
少年の後ろに影が落ちる。
俺は思わず、動くなと言われたのも忘れて少年に向かって走った。
少年の後ろには大きく口を開け、先ほどよりも人間の形を保てていない化け物が立っていた。
少年は後ろを振り向き、
「な、んで。弱点を当てたはずだろ!?」
化け物がさらに大きく口を開き、少年を食べようとした時、俺は近くにあった石を化け物に向かって投げつけた。
石は緑色の膜に包まれながら化け物に向かって飛んでいく。
が、石は化け物に当たることなく、少年と化け物の間に落ちた。
次の瞬間、石は白く光り、光が収まったころには少年を囲むように緑の壁が出来ていた。
少年は目を見開いて固まっており、化け物は目を抑えうめき声をあげている。
俺は肩で息をしながらその場にへたり込む。
少年はハッとして石の飛んできた方向を目で追い、俺を見つけると
「おい、何してる!?逃げろ!!」
化け物は目がもとに戻ったのか俺を見つけると、目を細め、
「かぁいとぉ、そこにいたのかぁ」
と、こちらにズルズルと向かってくる。
まるでアメーバのようになり、人間の形は保てていない。
逃げなければいけないのは分かっているのだが、腰が抜けて動けない。
化け物がすぐそこまで迫り、俺を食べようと大きく体が持ち上がった時、
化け物が横に吹っ飛んだ。
そして、その化け物を吹っ飛ばした人物は大きな銃の様な物を構えると、赤く発光している四角いものに向かって炎を噴射した。
炎が収まると、赤く発光していたものはなくなり、化け物の体の一部であった白い物体も消えていた。
俺は助かったと安心したのと同時に意識を失ったのだった。
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「おい、これはいったいどうゆうことだ。何故お前の周りにシールドが張られている?」
「そこで気絶してるやつが石を投げたらこうなってたんだよ。」
まだ緑の壁の中にいる白い髪の少年、カロンは地面に胡坐をかきながら数メートル先で倒れている人物を指さす。
ザックはふむ。と言いながら少年が投げたという石を拾い上げると、石に付着した血を見て
倒れている少年の手のひらを見ると、擦りむいたのかうっすらと血が滲んでいる。
おそらくこれが石に付着したのだろう。
「この少年は抗体持ちだな。石に血が付いている。」
そう言って、カロンに石を見せる。
カロンは眉間に皺を寄せながら
「でもよ、気絶してもまだシールドが張られてるくらい強力な能力持ちなのに今までよく無事だったよな。戦いなれた風でもなかったし、自分が抗体持ちだって気が付いてもない感じだったぜ?」
ザックは顎に手を当て、少し考えながら
「まぁ、そのことは本人に聞くのが一番早いだろうな。」
そう言って倒れている少年を担ぎ、バイクに乗せて帰ろうとする。
それを見て慌てたようにカロンは
「お、おい。俺は?出してくれよ。」
ザックはシールドの中にいるカロンを見て、
「残念だが、それは俺に破壊できない。優斗並み・・・いや、それ以上に強力なシールドだ。バーに戻ってマリさんを呼んでくるからそれまでそこで待っていろ」
そういうと、ザックは少年を抱えたまま走り去っていってしまった。
一人残されたカロンはマジかーと呟き、マリの到着を待つのだった。