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BUG  作者: 桜餅
一章
1/3

ep.0

お読みいただきありがとうございます。

闇の中、ひときわ高いビルの上。


風に吹かれながら街を見下ろす一人の少年がいた。

少年は白い肩までの髪をなびかせ顔にはゴーグルをつけている。

服装は白のニットに黒のロングコート。パンツは黒い皮でできたものを履いている。


少年の眼下には大きな交差点があり、多くの人々が行きかっている。


ゴーグルがその中の一人の女性に照準を合わせる。

女性の周りは熱気でも出ているかのように歪んでいる。


ピッピピッ


タイショウヲ、ハッケンシマシタ。


―ザザッ

ノイズの後にゴーグルから声が聞こえてくる。

「聞こえたな。すぐに対処にあたれ。」


「了解♪」


少年はそう楽しそうに返事をした後、ポケットから黒い四角い物体を空に向かって投げつける。すると、薄い緑色のガラスのようなものが対象を中心に半径5キロメートルほどの大きさでドーム状に貼られていく。

緑の壁の中に入った瞬間そこを歩いた人々は一瞬ぶれたかと思うと対象と街並みを残してすべて消えてしまった。


少年はそれを確認すると空高く舞い上がった。


少年の横に濃い緑色のホールが現れる。

空中で少年はホールから大砲を取り出し、落下しながら辺りを見回している対象に向かって弾を撃ち込む。



大砲が着弾したことにより、対象がいたあたりには砂ぼこりが立ち込める。

少年はその近くに回転しながら着地すると大砲を背中に回すと、両腰からスラリと肘までの長さがある剣を抜きながら、砂ぼこりの中に突っ込んでいく。


通常の人間では視界が遮られ何も見えない中、少年は確実に相手の喉笛を掻き切ろうと右手を振り上げるが、瞬間―。



ゴオォォという音と共に突然砂ぼこりの中から突風が巻き上がり少年は吹き飛ばされ、コンクリートの壁に激突する。


「ってえ。んだよ楽勝だと思ったのによ!」


少年はパラパラと破片が落ちてくるコンクリートの壁を背に首をコキコキ鳴らしながら立ち上がる。


「おい、ザック。今回の依頼は楽勝だったはずだろ!」


そう少年が文句を言うとまたもやゴーグルから声が聞こえてくる。


「お前が油断していたんじゃないのか?」


「んな事ねぇよ。大分情報とちげぇんだよ。」


開けた視界の先に居たのは全身が白いペンキの様な物に覆われ、常にドロドロとゆっくり下に向かって流れており、かろうじて人の形をしている化け物がいた。


化け物の大きさは背筋が曲がっているにも関わらず、ビルの三階程の高さがあり、頭と思われるてっぺんには申し訳程度に髪の毛がカツラのように乗っている。

目は怪しく緑色に光っていて、目があるからそこが顔だと分かるだけで、口の位置や顔の輪郭などはまったくもって分からない。


化け物を見上げて少年は顔に苦笑いを浮かべ


「こりゃ、初期の情報を更新しなかったテメェの落ち度だぜ。大分でかく成長しちまってよぉ。もう数十人は喰っちまってる。完全に吸収済みで助ける相手もいねぇ。」


少年の声に反応した化け物はゆっくりと振り向きながらこちらに風の刃を振るってくる。


「チッ。」


少年は後ろに飛びながら自身の持っている刀で風の刃を叩き落とす。


「しかも、緑の目。風の能力を獲得しちまってる。どうすんだよ、こんなんじゃ弱点探し当てても核を破壊出来ねぇよ。」


会話をしながらも化け物の攻撃を躱す。

走りながら懐に手を入れ、爆弾を取り出すと化け物に投げつける。



爆発し、粉々に飛び散る化け物。

だが、すぐに一カ所に向かって白いドロドロしたものは集まり始める。


「待ってろ。そっちに向かってる。」


「それまで持ちこたえろってか!?」


「あぁ、何とか持ちこたえろ。5分で着く……。お前ならできるだろう?」


「……チッ、わーたよ。やってやるよ!その代わり帰ったら休暇を寄越せよ!!」


「………善処する。」


―ブツッ


「あっ、てめ、それ絶対実行しないときに言うやつじゃねぇか!ちくしょう、通信切ってやがる。」


この数秒の会話のうちに化け物は元通りの状態へと再生し、自分を爆破した少年に向かって狙いを定める。


「ヴォォォォアァァァァァァァ」


化け物の咆哮により辺り一面に風が吹き荒れる。

その風を手を前にクロスし、防御した少年は刀を構えなおし


「あーあ。怒っちまった。こりゃ、ちょーっと本気でヤバそう。」


ゴーグルの左上に表示されている時間を確認する。


「ザックが来るまであと3分弱。もう一回爆破出来りゃ楽なんだよなぁ。」


少年は片手で風の刃を叩き落としながら懐を探り、爆弾の数を確認する。


爆弾の残数は2つ。

一つを化け物に投げつける。



化け物の起こす風により爆弾は遥か彼方にとばされ、緑の壁に当たって花火のように爆発した。


「まぁ、そんなに何度も同じ手に引っかからないよなぁ。」


少年は一つ大きく息を吐きだすと化け物に向かって走り出す。


服の袖から数本のナイフを取り出し、一気に化け物へ投げつける。


「右目、ハズレ。左目、ハズレ」


ナイフが刺さっても何事もなかったかのように瞬時に再生する化け物。


―あと2分


化け物自体の動きは遅い。気を付けなければいけないのは風による攻撃のみ。


地面スレスレを風の刃が通過していく。


「っぶね。真正面から突っ込むのはヤベェな」


そういうと今度は化け物の周りをひたすら走りながら攻撃を躱していく。

そして数本のナイフをまた投げる。


「ヅラ、ハズレ。胸、ハズレ。」


ビルの壁を駆け上がり、化け物の頭上に向かって高くジャンプする。

化け物の頭上を通り過ぎる時に爆弾を取り出し投げつける。


が、爆弾は流動性のある体の中に吸い込まれていった。そしてすぐに口から空に向かって吐き出される。


「マジかよ。あいつあんなことも出来たのかよ。これは報告しないとだな。」


―あと1分


空中で化け物に向かって更にナイフを投げつける。


「チッ、見つかんねぇ。額、………おっ、当たり♪」


額にナイフが刺さった瞬間、化け物の動きがピタリと止まる


少年は出来るだけ離れたところに着地すると時間を確認し、ビルの間に透明な糸を張りだす。

そして、動きが止まっている化け物を囲う様に網目状の糸を張り終わるのと同時にバイクに乗った男性が火炎放射器を構えた状態で現れた。

それをチラリと見た少年は手元にある二本のうちの一本の糸を一気に引く。


すると糸はキュルキュルと音を立てながら素早く化け物を細切れにしていく。

そして糸の動きが化け物の中心辺りで止まる。

少年がもう一本の糸を引くと化け物のドロドロとした白いものの中から拳大の赤く発光する四角いものが現れる。

それをバイクに乗った男性が高火力で一気に焼き尽くした。


赤く四角い物体が焼け切ると、あたりに散っていた白いドロドロとしたものは何事もなかったかのように消えていった。


「ったく、おせぇんだよ。しかもお前はまた焼くだけと来た。俺は休暇をもらう権利がある!明日から3日間休暇を寄越せ!!」


そう言って少年は自分よりも背が高い短い金髪に黒ぶち眼鏡をかけた男性を下から睨みつける。


「うるさい。筋肉馬鹿め。俺は頭脳戦の方が得意なんだよ。」


「あぁ?何言ってんだよ。毎回そんなゴツイ火炎放射器ぶっ放して、ごり押しじゃねぇか。お前の方が脳筋だろ。」


言い合いを始める二人の間に黒い何かが風を切って落とされる。


深々と地面にめり込んだそれは鉄の球だった。

二人の足ギリギリに着弾した鉄の球を投げた人物を見る。


視線の先には仁王立ちした黒髪ツインテールで、ピンクのワンピースを着た可愛らしい顔立ちをした小柄な人物が立っていた。


「何しやがんだ!カオル!後数センチずれてたら俺の足が潰れるところだったじゃねーか!」


「僕がそんなヘマをする訳が無いだろう?二人がいつものように言い合いしているから止めに来ただけ。ほら、もすぐシールドが崩壊するよ。さっさと撤収するよ。」


「んだよ。ザックがわりぃくせに。」


少年がそっぽを向いて呟くと


「カロン。」


「わーったよ。カオル様のおっしゃる通り撤収しますよ。」


そういってカロンの横に現れた緑のホールの中に持っていた武器を放り込むと、ビルの壁を駆け上り、そのまま姿を消した。


「帰るか。俺達も。」


「そうだね。」


そうして残った二人、ザックとカオルも同じように緑のホールの中に武器を入れると、来た道を帰っていった。



緑の壁……シールドが消え去った後、そこは何事もなかったかのように壊れた壁などは元通りとなり、人も普通に歩いていた。


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